33.なるほど、この手があったか
振り上げられた巨大な棍棒。
オークのあの怪力で振り下ろされれば俺の頭なんてトマトを潰すようにはじけてしまうだろう。
が、いつまで経ってもそれが降りてくることは無い。
「驚いたか?生憎とここでは暴力は使えないんだ、残念だったな」
顔を真っ赤にして必死に棍棒を振り下ろそうとするオーク、最初は右手だけだったのに最後の方は両手で棍棒を握るも頭よりも下に降りてくることは無かった。
「いい加減あきらめろ、どれだけやったってお前の力じゃ無理だ」
「ブモ!」
「信じられないって?じゃあ俺じゃなくてよこのスライムをどうにかして見ろ、ただし出来なかったら家で買い物してもらうからな」
かかってこいと言わんばかりにライムがその場で飛び跳ねる。
挑発されて更に起こったオークが、今度はライムを標的にして棍棒では無く両手を振り下ろそうとするも失敗、足元に棍棒が転がる音だけが店の中に響いただけだった。
「そんなに鼻息を荒くしても無理な物は無理だ、諦めろ」
「ブモ・・・」
「なんだ、聞き訳がいいじゃないか。それじゃあ約束通りここで買い物してもらうぞ、って何?金がない?困ったやつだな、一体何しにここに来たんだよ」
最初の勢いはどこへやら、拳を降ろしてなんとも情けない顔になるオーク。
うーむ、魔物をこんな風に間近で見る事なんてなかったが、案外表情豊かなんだなぁ。
「外にオークがいると思ったらこんなところにも、今日は賑やかだな」
「グラットか、悪いが接客中だ」
「素材の買取を頼もうと思ったんだが・・・仕方ない、後にするか」
再び扉が開いたかと思ったらタイミング悪くグラットが登場、買取ならあとでやるぞと声をかけるよりも早く、横にいたオークがグラットを見て大きく吼えた。
「ブモ!ブモ!」
「む?それをよこせだと?それは俺がゴブリン長だと知っての挑戦か?」
「ん?何を言ってるかわかるのか?」
「魔物だから当然だろう?うるさいやつだな、そんなに欲しくば俺を倒して実力で奪うんだな」
「ブモ!」
なんだかよくわからないがグラットがオークを挑発し、それを買ったオークが店の外へと出ていく。
相手はゴブリン、そう見下した奴はブモブモと大笑い?しながら外へと出ていった。
「大丈夫なのか?」
「お前から買ったこの武器がどのぐらいの実力か試してみたかった所だ。案ずるな、我が負けるはずがない」
「って言ってるが?」
「まぁお手並み拝見と行こうじゃないの。ゴブリンと言えど固有個体、良い戦いをするんじゃないの?」
どうやらあの服で戦わされたのをまだ根に持っているのかリサは興味なさそうな感じだ。
うちの大事な顧客が生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、全くこいつは・・・。
まぁ、魔物の中ではこれが当たり前なのかもしれないけれどこっちは人間、というか今はゴブリンの手を借りたいぐらいの状況なだけに意思疎通のできる知り合いを失いたくないんだがなぁ。
「いくぞ!」
「ブモ!」
いつの間に集まって来たのか、大勢のゴブリンとコボレートに見守られたグラットと仲間を代表して向かい合うオーク。
審判がいないので仕方なく俺が合図を出すことになった。
「はじめ!」
「ブモォォォォ!」
「そんな攻撃あたらぬわ!」
合図と同時に棍棒を振り上げたオークがグラットへ突進、見た目以上に速い振り周り攻撃だがそれを易々と回避している。
背中に背負ったアイアンタートルの盾は使わないようだが、流石にアレだけの力で振り下ろされたものを受ける気にはならないんだろう。
回避を続け、相手が少し疲れてきた所で反撃開始。
大振りの中へと飛び込み、相手の懐まで近づくと伝家の宝刀釘棍棒を相手の脛に叩きこむ。
「ブモォォォォォ!ブモ!ブモ!ブモォォォォ!」
いくらガタイがごつくてもあそこが弱いのは同じなのだろう、グラットはちゃんと脛当てを付けているけれど相手は無防備、そりゃこうなるだろう。
しかもタダの棍棒ではなく鋭利な釘が無数に付き、更にはコボレート職人が一本一本鋭利に整えた最強の釘棍棒。
脛を切り裂き骨をも折り、一撃で行動不能にしてしまった。
その場でのたうち回るオークを前にグラットが冷めた目でそいつを見下ろす。
「で、誰が次の相手をしてくれるんだ?」
棍棒を持たない左手の指をクイクイと手前に動かして次を催促するゴブリンと、それを見てビビるオークと言うとんでもない状況。
まさかここまで実力が違うのか。
「面倒だから一斉に戦ったらどう?そっちだって負けっぱなしは悔しいでしょ?」
「ちょ、リサ!お前!?」
「ふむ、勝てないとなったら集団か?良いだろう、受けて立つ。お前たち戦闘準備!」
「「「「「グゲゲゲゲ!」」」」
「ブムォォォォォォォ!」
あーあ、どうなっても知らないからな。
店の前で繰り広げられるゴブリンとオークの大戦争、どう見ても体格で負けるオークが新しい武器を手にしたゴブリンに押されているのが意外だった。
力は技術で対抗できる、それを見せられている。
「うーん、これは予想外」
「そうかしら。魔物が人間の技術を使えばこうなるのは当然でしょ?」
「ふむ、なるほど?」
「もちろん対人間であれば話は別ね、アンタ達はすぐ対処法を思いつくからめんどくさいのよ。でも魔物となれば話は別、しかも的確に弱点だけ攻撃して殺さないようにするなんて・・・まったく、アンタの教えもここまで広がれば立派ね」
確かに乱戦のように見えてゴブリン達は相手のスネや腕を狙って行動不能にしているようだ。
決して命は奪わない、何故ならこいつらは金になるから。
さっきのリーダーオークもポーションの一つでもかけてやればまた動くことが出来るようになう。
外から来たってことは他にも仲間はいるんだろう、ここで追い返せば・・・。
「あ、良いこと思いついた」
「ちょっと、こんな時に変な顔しないでよ」
「誰の顔が変だって?」
「アンタよアンタ。で、何を思いついたの?」
「ダンジョンの魔素って別に人間からしか回収できないわけじゃないよな?」
「まぁ、そうね。おそらくこの戦いでも溜まってるんじゃないかしら」
「だよな?」
ということは客は別に人間でなくてもいい。
いつ来るかもわからない辺境騎士を期待するのなら、確実に来る客に来てもらえばいい。
そう、こいつらのように。
「おーい、動けなくなったのならポーションがあるぞ。これをかければリベンジも可能、どうする?人間をも蹴散らすオーク様がゴブリン程度に負けっぱなしでいいのか?」
そう言いながら奴らに向かってポーションの瓶を振ってみる。
血に飢えた・・・いや、復讐に燃える目をしたオークがそれを逃すはずもなく、全員が俺の方を見てくる。
うーむ、エリザベート様に会ってなかったらこの目だけで失禁していたかもしれないけど、この程度ならまぁ怖くはないな。
「ポーションはひと瓶銀貨4枚、今金がないのなら後日の素材払いでも構わない。ただし逃げるなよ、逃げればここに入るゴブリン達がお前達の集落を襲い一人残さず根絶やしにするからな。さぁどうする?負けを認めるか?それともリベンジマッチか?」
ポーションを頭の上に乗せたライムが、ポヨンポヨンと階段を下りてオークたちの間を移動する。
最後にリーダーの所へと向かうと、ひったくるようにして奴はそれを掴んだ。
これで第二ラウンド確定だ。
ポーションの在庫は未だ潤沢にある、奴らが暴れれば暴れるだけ魔素は増え俺の懐は潤っていく。
なんだ、客は人間じゃなくていいじゃないか。
むしろ魔物の方が効率はいいかもしれない。
「リサ、これが終わったらダンジョン周辺の調査を頼んでもいいか?どこにどんな魔物の集落があるのか、確認してもらいたい」
「それはいいけど・・・アンタまさか!」
「お客が来ないならこっちから呼べばいい。もちろん殺さないのが理想だが、これを人間に相手させたら魔素はどうなると思う?」
俺達が相手をしてもいいが、それを人間にやらせれば魔素は二倍。
しかも魔素だけでなく素材を回収すれば二倍懐が温かくなる。
ダンジョン運営をする身としてダンジョン内の魔物に減ってもらうのは困るが、外から来た奴なら話は別だ。
外から魔物を呼び、それを人間が倒し、俺の懐が潤う。
さぁ、最高のお祭りを始めようじゃないか!




