32.ちょっと、こんなの聞いてないんだけど?
客を呼ぶためにリサを利用する。
こうなったら四の五の言っていられない、という事で何でもするという言質を取ったのをいい事に彼女にとんでもないことをやらせることとなった。
『ダンジョンの奥には財宝と可愛い女の子がいるらしい』
そんな噂を流すや否や、ダンジョンには大勢の冒険者が集まってくる。
最初は男ばかりかと思いきや、案外女性も集まってくるので中々に面白い。
彼女達の目的は恐らく別の方だろうけど、それでも冒険者の宿命なのかちゃんと奥まで潜ってくれるので俺達からすると非常にありがたい存在だ。
「ちょっと、こんなの聞いてないんだけど?もうヤダ!」
「そういうなって、新しい菓子買ってやるから」
「そんなので騙されないんだから!何よこの服、男達がものすごい目で見てくるんだけど!」
「まぁそう言うなって、実際効果的なんだから」
「可愛いって所はまぁいいわよ、事実なんだし。でもなんでこの格好なのよ!」
へその見えるミニ丈のシャツに、かなり膝上なミニスカート。
ダンジョン内どころか外でも見る事のない露出の多い格好だが、男連中どころか女性にも好評のようでリサのいるあの部屋に入るために順番待ちが出来ているくらいだ。
少しでも派手に動けばスカートの中が見えてしまいそうになるけれど、あぁ見えて脚が長いのと、正直派手に動かずとも倒せてしまうのでほぼノーリスク。
恥ずかしいのは彼女だけなので、まぁ物で釣りながら耐えてもらうしかないだろう。
なんなら本人も似合うと言われてまんざらでもないようだが、それでも状況がおかしいのは間違いない。
しかも部屋に入ればこの可愛らしい女の子がボッコボコにしてくれる、なんてそんな性癖をゆがめられそうな状況にもかかわらず、ダンジョンは今まで以上に多くの冒険者でにぎわっていた。
因みに倒されると強制的に部屋から排除される親切設計、それを担うのはプルプルお肌のライム達スライムだ。
不戦の証があるわけではないので攻撃されるのではないかと覚悟したのだが、やはりあのフォルムからくる可愛さには我慢できないようで、男女問わずポンポンと軽く叩いたり撫でたりと大人気になっている。
負けては運ばれ、その先で売っているポーションを飲んで回復。
ブルジョアはそんな闘い方ができるけれども、残念ながらそこまでするやつは少なく、大抵は薬草か自力で回復するようなやつばかりだった。
もちろんそこではコボレート達も大活躍、装備をしっかりとメンテナンスしてくれるという事で客が客を呼び、今では店以上の稼ぎ頭になっていた。
「そんなの簡単だろ、魔族ってバレたらめんどくさいからだよ」
「あっ・・・」
「そんな格好の魔族がいると思うか?」
「・・・いないわね」
「魔族とは誇り高く賢く、そして強い。尻尾はオンオフできるから冒険者に見られる心配はないし、その恰好でいたらまず間違われることは無い。可愛い子にボコボコにしてもらって冒険者は大喜び、俺は冒険者が魔素を落として大喜び、リサはこんな魔族いるはずがないと自分を安売りすることなく大喜び、完璧じゃないか。あっはっは」
「あっはっはじゃないわよ!」
バンバンと店のカウンターを叩いて抗議するリサだが、残念ながらやめるつもりはない。
客寄せ作戦は大成功、最初は赤字を出してでもモノで釣ろうと思ったのだが今はそれをしなくてもしっかりと客が来るようになっている。
このままいけば大丈夫・・・と言いたいところだが実際はそう甘くはなかった。
「来ないな」
「そりゃそうでしょ、挑んでも挑んでも勝てないんだもの。何かお宝があるわけでもないし、むしろこれだけ来たことにもっと驚くべきでしょ」
「うーむ、当たると思ったんだがなぁ」
可愛らしいリサの格好に男達はメロメロ、罠地獄を抜けて吸い込まれるように四階層の部屋に吸い込まれてはスライムに吐き出される冒険者達。
それを繰り返すだけで魔素を回収できて最高だったんだが、三日もすればそれも少なくなり四日目にはマゾイい奴がふらふらになりながら来るだけだった。
因みに入ってきた女性冒険者が何をしていたかというと、うちの店でシールを買っては奥のテーブルスペースで交換会を開催。
リサと同じシステムなので店が儲かるのはいいことなんだが、戦ってくれないので魔素が全く貯まらない。
奥でシール交換出来るぞと伝えて見ても動かないんだから困ったものだ。
「現在の魔素総量は目標の三割、あのペースで行けばなんとかなったかもしれないけど、あと十日で七割は・・・結構キツイわね」
「きついってもんじゃない。呼ぶべき冒険者はもう呼んだんだ、後は物で釣ればもう少しは回収できるだろうけど、それでも五割。残り十日でどう回収するか、そこが問題だ」
「それを考えるのがアンタ仕事でしょ」
「もちろんそうなんだが・・・絶対的に冒険者の数が少ないんだよなぁ」
仮に全員が来たとしても回収できる魔素は七割、この時点で計画倒れなわけだけど、リピーターを呼んでっていう作戦はもう使えない。
となると残りは新規顧客の獲得しかないわけで。
ここが王都ならギルドとタッグを組んでいくらでも人を集められたんだが、辺境ともなるとそれをするための分母がない。
となると残りは辺境騎士なのだが、アレ以降カイネを含めた騎士が来ていないことを考えると危険な場所と判断されたのかもしれない。
まぁ、あの時はあれが英断だったと考えているけれど、今となれば・・・いや、過去を振り返っても仕方がない。
今は今できる事を考えなければ。
「お?何か来たぞ?」
「どうせ冒険者でしょ?」
「いや、そんな感じじゃない。リサ、行くぞ!」
「え!この格好で!?」
「着替えていいから早く来い!」
冒険者だと多少背中がザワザワする程度なので違和感は少ないけれども、今回の奴はちょっと違う。
何が違うのかと聞かれると答えにくいのだが、不安と言うかこのままではまずいというような感覚を覚えた。
急ぎポータルで商店へと戻り、店番をしてくれていたライム達と合流する。
「大丈夫か?」
ふるふる。
「そうか、まだ来てないか」
「ちょっと、一体何なのよ」
「わからないから様子を窺ってるんだ。デカくてザワザワする奴がここに向かっている」
「ザワザワ?」
「ダンジョンに何かが入るとそう感じるんだよ。これは冒険者も同じなんだが、今回のはその違和感がデカい」
恐らくこれはダンジョンマスターにしかわからない感覚なんだろうけど・・・なんにせよリサがいれば何が入って来ても大丈夫なはずだ。
カイネの違和感よりも小さいのでこれならどうにでもなる。
しばらくしてバタン!と勢いよく扉が開けられ、入って来たのは一体のオーク。
下あごから口の外に飛び出た鋭い牙に豚のような顔、そして筋肉と脂肪がついたからだ。
これがオーガならもっと筋肉質で顔が怖い感じなのだが、こいつらは食い物を食べ過ぎているせいか腹が出てるんだよなぁ。
それでも確実にゴブリンよりかは強い。
新人冒険者が相手をするのなら4~5人で一体を囲むのがセオリーとなっている、そんな奴がなんでここに?
「ブモ!」
「いらっしゃい」
とりあえず客っぽいので挨拶をするとドスンドスンと床を鳴らしながらカウンターまで向かってくる。
リサは後ろで様子見、ライムはカウンター上のいつもの位置でいい感じのボディを震わせている。
「ダンジョンの外から魔物の客が来るなんて珍しい、ここでは販売の他にも素材の買取なんかもやってるが今日は何が欲しいんだ?」
最高の営業スマイルで出迎えた・・・はずだったんだが、あろうことかそいつは腰にぶら下げていた棍棒を勢いよく振りかぶった。




