31.とりあえず客を呼ぶ、話はそれからだ
エリザベート様が帰った後、二人揃って大きな息を吐く。
いやー、毎度のことながら緊張するなぁ。
しかも今回のように反抗する時は特にだ。
だがこうしなければ色々と面倒なことになっただろうし、自分の命を守るためならばなりふり構っていられない。
ひとまず二週間は命を繋いだんだ、それまでになんとかしないとな。
「あー、緊張した」
「私もビックリしすぎて生きた心地がしなかったわ」
「流石我らがエリザベート様、普段は優しいのに本気を出すと・・・ってやつだな」
「本当そうね、いつもお優しいから忘れてたけど四柱お一人なんだもの当然よ」
二人揃って改めて上司の凄さを再確認、そんな人の下で働いているんだからもっとしっかりしなければという気持ちにもなった。
改めて与えられたノルマはダンジョンの拡充、一階層増やすのにどれぐらいの魔素を必要とするのはわからないけど、やる以外に選択肢はない。
「あの、さっきだけど・・・」
「ん?」
「ありがとう、庇ってくれて」
「なんだそんなことか、さっきも言ったが部下のミスは上司のミスだ。そして部下を守るのもまた上司の仕事だ。エリザベート様が今までやってきたことを俺が代わりにやってるだけ、何も特別なことはしてないさ」
あの場で何をやっていたのかと聞かれて言い返せるはずがない。
何故ならリサに頼んだ仕事は直前で奪われ、やりたくてもできない状態だったんだから。
それでもダンジョン内でのサポートや魔物達とのコミュニケーションなんかはリサ無しでは成し得なかったので普段から細々とした仕事はたくさんしてくれている。
だがエリザベート様が求めているのはそういうことじゃない、自信をもってそういう仕事を報告できないのは俺のミス、だから代わりに謝っただけだ。
「アンタの割にはカッコよかったわよ」
「割にはってのは随分と余計だけどな」
「それでどうするつもり?後二週間しかないけど」
「とりあえず現状を確認しないと始まらない、それから必要数を算出して・・・なんとかするしかないだろう」
二週間もなのか、二週間しか、なのか。
どちらにしろやることは変わらない、急ぎ店を閉めて最下層へと移動、オーブに手を触れて現在の魔素量を確認する。
「どう?」
「この前工房を作ったから空っぽだ」
「だから言ったじゃない、先に拡充しなくていいのかって!」
「あの時はあの時でやりたいことがあったんだから仕方ないだろ。それよりも今は使った魔素をどうやって増やしていくかだ。必要数は・・・結構あるな」
「そりゃ階層一つ増やすんだもの、ちょっと使っただけで増えるはずないじゃない」
「冒険者の実力によるけど、一人頭これぐらいとして、1日でこんなもんで、それが二週間とすると不足分は・・・」
頭の中で指揮を組み立てて現状を確認、更にそこから不足分を算出して1日あたりに当てはめ直す。
その結果は、なんていうか絶望的な感じだった。
あの時工房を作るなんて言った俺を殴ってやりたくなったが、あれはあれで必要な投資だったので致し方ない。
無い物ねだりをしたって仕方ないんだ、とりあえず今あるカードで戦うより他にない。
「なんにせよ冒険者にきてもらわないと始まらない。とりあえず隣町に行って冒険者ギルドで告知するのが手っ取り早いだろうな」
「告知?」
「ダンジョンですごいアイテムが見つかったとか、行けばアイテムが貰えるとか、ともかく来てもらうためのエサが必要だ。この際赤字でもいい、なんとしてでも客を呼ばないと命がなくなる」
「赤字ってお金なかったら仕入れもできないじゃない」
「それは物を売る場合だろ?幸いにもここはダンジョン、金になるものはここで回収もできるし、最悪お前にブラッドベアを狩って来てもらう・・・ってのは最終手段だな。とりあえず今は自前でなんとかできる術を考えよう」
このやり方ならいくらでも金は生み出せる、にっちもさっちも行かなくなったら手段なんて選んでいられないけれど、まだ時間のあるうちからそれをってのはちょっと違う気がする。
おそらくエリザベート様もそこを見ているんだろう、じゃないとこんな無理難題を言ってくるような人じゃない。
こういう状況で俺たちがどんな方法を取るのか試している、そう考えるのが妥当だ。
「なんだかよくわからないけど、私にできることがあるならなんでも言ってよね」
「なら早速で悪いがダンジョンの魔物に声をかけて回収できるだけの薬草や薬の材料を集めてくれ。魔素が濃くなれば勝手に生えてくるんだ、根絶やしにしていいぞ」
「了解!」
客を呼ぶにはそれ相応の物を準備する必要がある。
今の手札の中で一番価値があるのはマリーの作ってくれるあのポーション、まだうちに来ることにはなっていないけれども、仕事は引き受けてくれるだろうからそれを期待してダンジョン中の薬草を回収しておく。
これが外だったら根絶やしにするともう二度と生えてこないけれども、ダンジョン内ではあまりそういう事を気にする必要がないので、ガンガン回収して人を呼ぶネタに使わせてもらおう。
次ぎに使えそうなのは化粧品関係だが、残念ながらライムという販売員がいたとしてもあまり期待はできないだろう。
そもそもうちに来る冒険者のほとんどが男性、一応女性もいるけれどもその比率は七対三もしくは六対四ぐらいなもんだろう。
総じて男性の方が多いのに化粧水に反応するとは思えない、それならば男性向けの何かを用意するべきだろうけど・・・。
「これが王都なら娼館の値引き券でもつけておけばいくらでも人が来たんだがなぁ」
「ショウカン?」
「まぁ大人の男が楽しむところだ」
「つまりいかがわしいってことね」
「よくわかったな」
「男って皆そうじゃない、エリザベート様の体を見てニヤニヤしちゃってさ。まぁそんな奴はすぐに殺されるんだけど、そういう意味ではアンタはあまりそういうの無いわよね」
無くはないけれども、ここであるっていうのも何なのであえて返事はしなかった。
ともかく男性冒険者を呼ぶためのネタを考えよう。
折角なら喜んでもらいつつダンジョンを探索してもらえるようなのがいい。
その為の出費はこの際スルー、とりあえず客を呼ぶ、話はそれからだ。
「こないわね」
「クソ、どうなってるんだよ!」
それから二日が経過。
予定通り例のポーションを使ってダンジョンに客を呼ぶことにしたのだが、思っている以上に冒険者が来ることは無かった。
来てもいつもより少し多い程度、これでは全く間に合わない。
他にも酒や食べ物、お金を使って呼ぶことも考えたんだがわざわざダンジョンに潜ってそれを取りに行くとも思えないわけで。
「どうするの?どんどん時間が無くなってくわよ」
「わかってるって、今考えてるんだからちょっと待て」
「それなら例の騎士に来てもらった方が早いんじゃない?普通の冒険者より魔素がたまりやすいんだし、そいつと私が戦えばそれなりに稼げるはずよ」
「それも考えたんだがここに来る理由が無いんだよ。前は調査目的だったが危険がないとわかっている場所にわざわざ辺境騎士が来るはずもない。かといって氾濫が起きるとかそういうことを言うわけにもいかないし・・・やっぱり男を狙い撃ちにするしかないか」
金でも酒でもなければ残るのは一つだけ。
正直気は進まないんだが、背に腹は代えられないだろう。
「この間自分に出来る事なら何でもするって言ったよな?」
「それとなく言った気はするけど・・・ねぇ、何考えてるの?」
「お前の実力、見せてもらう日が来たみたいだ」
「だから説明になってないんだけど!何よ、私に何をさせるつもりなの!?」
残された時間はあと十二日。
それまでに何としてでも目標を達しなければ。




