30.二週間以内に成果を出しなさい
「何これ!むちゃくちゃ可愛いじゃない!」
隣町で買い付けてきたシールは俺の想像以上に好評で、色とりどりのそれを見てリサが目を輝かせている。
うーむ、やっぱり俺には理解できないが約束通りテンションの上がる物を見つけてきたので良しとしよう。
カイネに教えてもらったってのがちょっとアレだが、その年代の女性にしかわからない何かがあるのかもしれない。
ただ、これを渡すだけではなんの生産性もないので、ここは一つ別の角度からリサのやる気を引き出してみるとしよう。
「どうだ、気に入ったか?」
「うん!ねぇ、これはいくらで売ってくれるの?」
「悪いがそれは売り物じゃないんだ」
「え、どういう事よ!」
てっきり買えると思っていたリサが信じられないという感じで俺を睨みつけてくる。
貰えると思っていただけにその反動はすさまじいのだろうけど、そんな殺すような目で見ないで欲しいんだが。
「そう怒るなって、別に意地悪するために持って来たんじゃない。ちゃんとやることやったら渡してやるから」
「やる事って?」
「ズバリ素材の持ち込みだ。ダンジョンの中でも外でも構わない、何か持ってくるたびにこの台紙にシールを張ってやろう」
「はぁ!?なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ!」
「まぁ聞けって、素材を持ち込むごとに新しいシールがもらえるが、なんと五個貯まるごとに好きなお菓子が一つ貰えるんだ」
「え、お菓子!?」
「ただし、シールは一日二つしかもらえない。それでも毎日やれば三日でお菓子がもらえるし、この台紙が全部埋まったら好きな物と交換できる。まぁ好きなものって言っても金額に限界はあるが、化粧水と交換したらお得だと思わないか?本当は一人一日一個しか渡せないんだが、お前は色々と頑張ってくれているから特別だぞ」
そう言いながらさっきとは違う新しいシールをカウンターの上に並べてやると、まるで子供のように目を輝かせるリサ。
我ながらいいアイデアだと思う。
台紙には全部で30個のマスが書かれていて、そこにシールを張れるようになっている。
この台紙こそ昔王都で流行っていたポイントカードの流用だ。
当時はハンコを押してカウントしてそれに応じた特典を渡していたが、今回はこのシールを使う事で集める楽しさを二重で盛り上げる。
素材を持ち込めばシールがもらえるだけでなく好きなお菓子や欲しい物と交換出来るとなればリサのテンションも上がることだろう。
ぶっちゃけダンジョン内の素材なんて金額はたかが知れているが、リサが外から持ち帰る素材となれば話は別だ。
前のブラッドベアとまでは行かないまでも、それなりのやつを狩ってきてくれるだけでシール代も化粧水代も十分ペイできる。
リサは欲しい物を手に入れて俺は素材をゲットする。
可愛い物が好きという乙女心とそれを収集するという遊び心そして欲しいものが手に入るという達成感。
とはいえこれは時間稼ぎ、これでしばらくは時間を稼げてもすぐに飽きてくるだろうから新しい何かを考えなければならない。
商売の難しさはまさにここ、こういう物で釣るやつは継続性がないんだよなぁ。
「私だけ特別?」
「あぁ、あの場所を守れるのはお前しかいないからな。前は俺が美味しい所をもっていったのもあるし、これぐらいさせてくれ」
「まぁ、アンタがそこまで言うなら許してあげないこともないけど・・・」
「けど?」
「一枚だけ頂戴?」
「仕方ないやつだな、一つだけだぞ」
「やった!」
本当はここで渡すべきじゃないんだろうけど、これぐらい甘くしとかないとあとで恨まれそうなので致し方ない。
というわけで懸念されていたリサのモチベを維持する方法も見つかったし、コボレート用の修理道具もゲットできた。
後はのんびりと冒険者を集めながらダンジョンを成長させていけばいい。
その頃にはマリーの返事も貰えるはずだから・・・。
「おや、何をしているのですか?」
突然聞こえてきた声に慌てて振り返ると、エリザベート様の姿があった。
そう言えば前にもこんなことがあった気がするが・・・。
「ようこそお越しくださいましたエリザベート様」
「挨拶は結構です。前からそれなりに経ちましたから様子を見に来たのですが・・・これはどういうことですか?」
「これとは・・・?」
「何故ダンジョンが成長していないのですか?本来であれば階層の一つでも増えているべきもの。にも拘らずダンジョンに成長は見られず代わりにこのような物が転がっている始末。リサ、どういうことか説明しなさい」
「それは・・・その・・・」
明らかにいつもと違う雰囲気に思わぬ生唾を飲んでしまう。
どういうことだ?
確かにダンジョンを成長させろとは言われていたけれど、明確な納期は定められていないし怒られる理由はないはず。
前だって化粧水を喜んで買っていったのになぜ今になって怒られているのだろうか。
エリザベート様に睨まれてしどろもどろになっているリサ、そんな彼女とエリザベート様の間に入り深々と頭を下げた。
「誠に申し訳ございません。ダンジョンが成長していないのは全ては私の不手際によるものです。今ここにある物は、ダンジョンを成長させるために必要だと思い買い集めたものでございます」
「私はリサに返答を求めているのですが?」
「はい。ですが、ダンジョンの管理者は私であり彼女は部下です。部下の代わりに上司が説明をしておかしいことがありますでしょうか。彼女には事情を説明せずこれを渡しましたからそもそも説明できませんし、それが出来ないことで咎められるのはおかしい事です。出過ぎた真似をしているのは存じていますが、どうかご理解ください」
「つまり自分が責任を取ると?」
「私にできる責任の取り方はダンジョンを成長させることだと思っています。ですが一つだけ教えてください、私はここを任された際に成長させろとだけ言われました。具体的な納期、具体的な規模に関しては説明を受けた覚えがございません。それ故このようにゆったりとした成長の仕方になってしまいました。言い訳がましいとは思っておりますが、今一度その条件についてご教授いただけませんでしょうか」
雰囲気だけで殺される、そんな感じがヒシヒシと伝わってくる。
背中から汗が吹き出し、圧倒的強者としての違いを見せつけられている。
ここで言葉を間違えば俺は死ぬ、この人がただの優しい上司ではなく俺なんて一瞬で殺してしまえるぐらいの相手だという事を思い出させるには十分すぎる威圧感だ。
怒らせてはいけない人を怒らせている、だがこれは向こうにも落ち度のあること。
何度も言うが、俺はダンジョンの管理を任されても拡張について具体的な指示を受けていない。
だからゆっくりやればいいやとたかをくくっていたわけだが・・・正直それを咎めるのであればエリザベート様自身も咎められるべきだ。
「確かにそういった明確な説明していませんでしたね。しかし、貴方がその確認を怠ったのもまた事実です。本来であればリサがそれを中継し貴方に伝達するべきところですが、それをしなかったという事はさぼっていたのと同じ事ではありませんか?」
「返す言葉もありません」
「貴方の言い分は分かりました、確かに私にも落ち度があったと認めましょう。それでは改めて目標を伝えます、いいですね」
「よろしくお願いいたします。」
「拡張条件はダンジョンを一階層成長させること。ただし、今回の罰として二週間以内にそれを達成しなさい。出来ない場合は・・・わかっていますね」
「畏まりました、命に変えましても成し遂げて御覧に入れます」
「その言葉、忘れませんよ」
深々と頭を下げると、さっきまでの殺されるかのような圧力がフッと無くなったのがわかった。
慌てて顔を上げるといつものように優しい笑顔を浮かべるエリザベート様の姿がある。
「まったく、私を相手にそのような事を言う人間は貴方ぐらいですよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めていません。そしてリサ、何のために貴女をアレスの下に付けたのかよく考えなさい」
「ごめんなさい!」
「謝るのなら行動で示すんです、貴女ならできますよね?」
「はい!」
リサの返事を聞いてやっと笑顔を浮かべるエリザベート様、だがすぐにいつもの表情に戻り黒い壁の向こうに消えていくのだった。




