29.え、知らないの?
「ってことで、コボレートに修理屋をやらせるつもりだ」
「そ、好きにしたら?」
「随分軽いな」
「だって興味ないもの。それよりも何か面白いことないの?騎士は攻めてこないし、いい加減暇なんだけど」
一応リサにも報告しておくかと思って伝えたのだが、本人は随分と御機嫌斜めなようだ。
まぁその原因を作ったのは間違いなく俺なんだけど、まさかここまで不貞腐れているとは思わなかった。
あの時はお菓子でその場を持たせたつもりだったが本人はそれで許してくれたわけではなかったらしい。
本来ならカイネと戦って、その結果で報酬を得るはずが俺が美味しいところを持って行ったせいで手持ち無沙汰になってしまった。
その補填をしようにもカイネはリハビリ中でダンジョンに来る気配はないし、冒険者では力不足で話にならない。
もっと強い冒険者が来てくれたらいいんだけど、残念ながらうちのダンジョン規模じゃそんな人が来るはずもない。
「外で魔物でも狩ってきたらどうだ?前みたいに素材を持ってきてくれたら高値で買うぞ」
「んー、そういう気分じゃないのよねぇ。もっとこうテンション上がるのがあったらいいんだけど・・・」
「じゃあ何で上がるんだ?」
「それを考えるのがアンタの仕事じゃないの?」
「俺はちゃんと提案はしている。それをどう受け取るかはそっちの話だろ」
「だから、喜ばせる何かを準備してって言ってるの!」
まさか逆ギレされるとは思っていなかったが、、なんにせよリサのご機嫌を取らないことには話が始まらない。
うちの最終防御ラインは彼女次第、とはいえ何で喜ばすか・・・。
化粧品は持っているしお菓子も提供済み、ここにきて手詰まり感が半端ない。
もっとこうモチベが上がる何かを用意してやらないとずっとこの感じだろう。
はてさてどうしたもんか。
「わかったわかった、何か探してくるからちょっと待ってろ」
「絶対だからね!」
そんなわけで急遽隣町まで移動して、何か面白そうなものを探すことになってしまった。
とはいえついこの間きたばかり、マリーの返事はまだもらえていないし、必要なものは買付済み。
強いていえばコボレート用の修理機材ぐらいなもんか。
俺の想像以上に手先が器用で、釘棍棒のメンテはお手のもの、なんなら罠のメンテナンスなんかも出来るらしい。
しかもそれが一人だけではなく全員ができてしまうんだからすごいよなぁ。
とはいえ一番すごいのはこの前やって来たあのコボレート、グラットと同じくリーダー的な立場にいるみたいでテキパキと仲間に指示を出していたのが印象的だった。
ゴブリンと違って見た目が可愛いのでマスコット的な感じはあるが、うちのライムには敵わないな。
「道の真ん中で何をニヤニヤしているのかしら?」
「なんだカイネか」
「なんだとは失礼ね、せっかく不審者に優しく接してあげてるのに」
「不審者、俺が?」
「大通りのど真ん中で百面相してたら不審者以外の何者でもないでしょ」
どうしたもんかと悩んでいると巡回していたカイネに不審者扱いされてしまった。
別にそのつもりはなかったんだが、確かに真ん中で考え事をするもんじゃないな。
とりあえず端の方へと移動をすると・・・また彼女がついてくる。
「なんでついてくるんだよ」
「不審者を監視してるの」
「とか言ってサボりたいだけだろ、不良辺境騎士様は」
「失礼なこと言わないでよね、こう見えて非番なんだから」
「じゃあなんで鎧をつけてるんだよ」
「これなら服を考えなくて済むでしょ?」
「女子力・・・」
そこは休みだから可愛い服を着るとか、いつもと違う格好をするとかそういうのを楽しむもんじゃないだろうか。
ただ服を考えるのがめんどくさいから鎧をつけるって、完全にめんどくさがりの思考じゃないか。
「で、何をしてるの?」
「買い出しだよ買い出し、うちの従業員がお怒りだから機嫌を取らないといけないのさ」
「へぇ、怒らせるようなことしたんだ」
「そうなるらしい」
「ふーん、女の子?」
「年はお前よりも少し下・・・なのか?ともかくそれぐらいの女性を喜ばせるのに何かいいの知らないか?」
思いつかないのなら似た世代の人の話を聞くのが一番手っ取り早い。
リサの見た目だけ言えばカイネとさほど変わらないが、魔族の実年齢ってぶっちゃけどうなんだろうか。
あぁ見えて数百年生きている可能性もあるけれど、それであのポンコ・・・じゃなかった、幼い感じだとそれはそれでどうかと思うけどな。
それよりも欲しいのは女性が喜ぶ品が何なのか、王都ほど流行りがあるわけじゃないと思うがそれでも何か一つぐらいあるだろう。
「それを私に聞くのもどうかと思うけど、やっぱり花じゃない?」
「パス」
「なんでよ!」
「そういうんじゃないんだよなぁ。もっとこうテンションが上がるようなやつはないのか?」
「それなら新しい武具とか?」
「はぁ、お前に聞いたのが間違いだった」
だめだ、チョロいだけじゃなくへっぽこだった。
仕方ないので市場へと向かい、何か使えそうなネタを探す。
が、見つかるのはコボレート用の修理道具ばかり、それでも通常よりも安く仕入れられたので来た価値はあったかもしれないが、肝心の物が見つからないっていうね。
「あ!」
「ん?」
「アレよアレ、ここでも売ってるのね」
「いや、どれだよ」
急にカイネが大きな声を出したかと思ったら、露店のどこかを指さしてはしゃいでいる。
とりあえず指の先を見るもそれらしいものは見つからないんだが、一体何を見ているんだろうか。
「え、知らないの?」
「知らないも何も何の話だよ」
「シールよシール。トレントの樹液を使って作られてるらしいんだけど、王都で大人気らしいわよ」
王都で大人気?
ついこの間まで王都にいたがそんなの全く知らないんだが?
そんなことを思いながらカイネの指さす方へと歩いていくと、そこにあったのはなんとも可愛らしい端切れの数々。
大小さまざまな模様が描かれており、それが水滴のようなもので覆われている。
トレントの樹液と言えば弱粘性のある素材で、主に工業用として使われることが多い。
で、それをどう使うんだ?」
「いらっしゃい!今王都で人気のシールだよ是非見て行ってよね!」
「これが王都で人気なのか?」
「そうだよ、お兄さん知らないの?」
「前まで王都にいたんだが、そういうの見なかったと思ってな」
「へぇ~王都にいたんだ!そこで見なかったってことは、お兄さんお金持ちだね?」
「というと?」
「これが流行ってるのは主に貧困層、貴族が着る服とかは綺麗なのが多いからそういう端切れとかアクセサリーの端材を加工して作っているのさ」
ふむ、なるほどそれであれば納得だ。
貧民街なんて俺が一番行かなかったところ、確かに貴族がこんな子供じみた物を欲しがるとは思えない。
よく見れば樹液の中にキラキラと光る端材が浮かんでいたり、それで模様を作ったりしていて中々に手が込んでいる。
大きさは小指の先ぐらいなものだが、それが一枚の台紙に20枚ぐらい乗っていた。
「で、これをどうするんだ?」
「どうするって交換するんだよ。トレントの樹液は剥がしてもまたくっつくから、自分用の台紙にくっつけたりして物々交換するのが楽しいんじゃないか」
「・・・そうなのか?」
「え、楽しくない!?」
「すまん、わからん」
交換して楽しむ?
俺にはよくわからないが、カイネはそうではないらしい。
あの辺境騎士様が目をキラキラさせながらシールの乗った台紙を手に取っている。
うーむ、これがそんなにいい物なんだろうか。
男にはわからない何かがあるのか、それともカイネだけなのか。
露店で見つけたこのシールがひと悶着を起こすのを俺はまだ知らなかった。




