28.喧嘩をするなら競争をでもしたらどうだ
「ん?」
ある日のこと、いつものように店番をしていると一匹のコボレートが店にやってきた。
こいつらもゴブリンと同じくダンジョンに始めからいる犬っぽい見た目をした亜人系魔物の一種だ。
手先が器用でナイフを使い自作の防具なんかを身につけているのをよく見かける。
ゴブリンが雑なのとは対照的にこいつらは非常に繊細、ただしそこまで強くはないので群れで行動することが多かったりする。
こいつらもうちの大事なお得意様、いつも素材を集めてきてくれるので非常に助かっているし、道具を使うのが得意なのでピッケルなんかで鉱石を採掘してくれたりもしている。
最近ではゴブリンに追われて浅い階層をうろうろしていることが多いのだが、今日はどうの様子がおかしいな。
「なんだお前怪我してるじゃないか」
よく見ると頭から血を流している、仕方がないのでカウンターの向こうに移動して治療してやることにした。
使うのはマリーが作ってくれたポーションを百倍に希釈した治療薬、擦り傷や切り傷ならこれを塗ってガーゼを巻いておけば1日もすれば良くなるだろう。
治療に使用したガーゼはライムに食べて貰えば衛生的、本人も食べさせてもらえることが嬉しいようでその場でポンポンと飛び跳ねていた。
「これでよしっと、今日は素材の買取か?」
こくこく。
それならカウンターの上に並べといてくれ、今の査定が終わったら順番に片付けるから少し時間はかかると思う。終わったら声をかけるからそこに机に座って菓子を食べてていいぞ。
お菓子と聞いて目を輝かせたのを俺は見逃さなかった。
固有個体ではないので会話することはできないけれど、意思の疎通はできるのでこうやって商売が成り立っている。
犬科は表情豊かだというけれども、コボレートも似たような感じみたいだなぁ。
なんてことを考えながら査定をしていると、再び扉が開き、グラットが入ってきた。
「よぉグラット、いつものか?」
「あぁ、それとさっき追い払った冒険者が装備を落としたから拾っておいたぞ」
「そりゃありがたい、置いておけば持ち主が買い戻してくれるだろうから、いい感じの値段をつけさせてもらおう・・・っておいおい、何してるんだ?」
カウンターの上に装備や薬草を置いたグラットだったが、あろうことか先に置かれていたコボレートの素材を端に押しやってしまった。
「何って並べているだけだが?」
「先にこれが置いてあっただろ、お前はその後だ」
「だがコボレートのであろう?」
「だからどうした。確かにお前達ゴブリンの方が今は強いかもしれないけどな、この店じゃそういうので順番の優劣はつけないんだよ。仮に相手が魔王でも順番は順番、それが出来ないなら買取しないからな。わかったか?」
「・・・アレス殿がそういうのであれば致し方あるまい」
明らかに不服そうな感じだが、グッと気持ちを抑えてくれたようだった。
さっきも言ったが俺の店では身分や種族による優劣は一切つけない。
仮にエリザベート様が買取に来たとしても順番を守ってもらうつもりでいる。
不満げなグラットに怯えてしまったのか、お菓子を食べていたコボレートが端の方へと移動してしまった。
「まったく、強さがダンジョン内の基準っていうのは理解してるが、喧嘩するなら競争でもしてろってんだ。優劣つける方法なんていくらでもあるだろ?そもそも力だけで解決するなんざ強者のやることじゃないぞ」
「そうはいうが、力がなければ冒険者に殺されるだけ。それでどう優劣をつけろというのだ?」
「そりゃー色々あるだろ。どっちが素材を大量に集められるかとか、どっちが上手く罠を作れるかとか、ようは力以外のことで競えって言ってんだ。こう見えてこいつもお前より秀でたところがあるんだぞ」
「こいつが?」
「多分だけど・・・」
そうは言ったもの具体的に何が秀でているのかは分からない。
だが、ゴブリン長であるグラットよりも秀でた部分があるのなら、少なくとも今のようにいじめられることはないはずだ。
ようは強者に認められる部分を教えてやればいい、俺がエリザベート様に認めてもらったように、グラットも一目を置くようになるだろう。
いきなりの提案に動揺するコボレートだが、ふと何かに気がついたのか恐る恐るグラットに近づき、ある部分を指差した。
「む?これか?」
こくこく。
「前に渡したアイアンタートルの盾だな。なんだ、持ち手が緩んでいるじゃないか」
「確かに、だがまだ使えるぞ?」
「使えるかもしれないが、途中で取れたら使えなくなるんだからな。っていうか装備のメンテは基本中の基本だろう、気づかなかったのか?」
「気づいたとて我々ではどうにもならん。作ったアレス殿ならなとかできるだろう」
「そりゃある程度はできるかもしれないが・・・って、お前直せるのか?」
俺の問いかけに大きく頷くコボレート。
確かに彼らは手先が器用ではあるが・・・とりあえず彼に言われるがまま工具を準備してやると、テキパキとした動きであっという間にほつれを直してみせた。
なんなら最初より頑丈かもしれない。
所詮素人に毛の生えた程度のやつがリサというアシスタントを使って作っただけのもの、技術者のソレとは根本が違う。
「こりゃすごい、まるで新品みたいだ」
「確かに、なんなら前以上に持ちやすくなっている」
「ほかのコボレートでも同じことはできるのか?」
こくこく。
「うーむ、これは競い合う必要もない。このような器用さに我らが勝てるはずがないからな」
「確かに、っていうか俺も無理だ」
例え力が弱くても別の部分で秀でているのならそこに存在価値がある。
グラットという長もとで強くなるゴブリンでも、コボレートの器用さには敵わない。
それが広まれば不要な争いはなくなることだろう。
最初はどうしたもんかと思ったが、案外なんとかなるもんだなぁ。
それよりも、この器用さを使って何かできないだろうか。
ものづくり・・・はありかもしれないが材料が必要だから作るのに限界があるし、どこで売るんだっていう話になる。
鍛治なんかも考えたが力がないのとそもそも火を起こす場所がないので却下。
もっとこう材料が少なくて、技術と器用さでできるようなことがあれば・・・。
「お前、ここで修理屋をやるか?」
「それはいい!これだけ腕の立つ職人がいれば我々も安心して武器を振るえるというものだ」
「となると専用の道具があってもいいかもな。今度街に行った時にいくつか見繕ってやるからちょっと待っててくれ」
こくこく!
「うーむ、たかがコボレートと侮っていたがこれほど素晴らしい腕前があったとは。今後は我々の装備を任せることになる、すぐ仲間に言って余計なことをしないように言い聞かせよう。これまで本当にすまなかった」
突然頭を下げられ困惑するコボレートだったが、これが彼なりの誠意の見せ方。
しかしあれだな、これだけ手先が器用ならゴブリンだけでなく冒険者の装備を修理させても面白いかもしれない。
冒険者にとって装備は命と同じぐらい大切なもの、それを魔物に修理させるっていうのには抵抗があるかもしれないけれど、そこは不戦の証があるこの店ならではのサービスってことで納得当てもらうしかないだろう。
ここでは人も魔物も等しくお客様。
魔物を癒す薬を人間が作るのならば、人間が使う装備を魔物が修理してもいいじゃないか。
それこそうち独自のサービスとしてやっていく価値がある。
ふむ、案外ありだと思うんだが・・・とりあえずリサにも相談してみよう。
魔物のことは魔族に聞くのが一番手っ取り早い、こうしてダンジョン商店の画期的なサービスが生まれたのだった。




