26.俺んとこ来なないか?
リサにあれだけ豪語した手前どうにかして連れてこないといけないのだが、残念ながら素晴らしい作戦を思いついてない。
とはいえとりあえず状況を確認したいのでひとまず隣町へ移動、買い物をしつつ冒険者ギルドへ素材の納品に行くことにした。
「いらっしゃいませ!あ、アレスさんいらっしゃいませ、今日も納品ですか?」
入り口を開けて中に入るなり、受付嬢が俺に気づき大きく手を振って声をかけてくる。
他に冒険者もいるというのになんとも恥ずかしいんだが、彼女がそれを辞めてくれるはずもなくそのまま吸い込まれるようにカウンターへと移動する。
「スライムの核が揃ったんで納品しに来た」
「ありがとうございます。うちとしては冒険者以外の納品も大歓迎なんですけど、いい加減冒険者登録しませんか?」
「生憎と冒険者には興味がないんでね、っていうかこれを見て戦えると思うのか?」
「無理ですね!」
普通なら一度くらいは全身を確認してそれから無理だと言うところだが、ほぼノータイムでの即答が逆に親近感がわくっていうね。
クルクルと表情を変え、愛らしい笑顔を振りまく彼女こそ冒険者ギルドの名物受付嬢ことユーディー。
冒険者から絶大な支持を受ける彼女だが、一点だけ残念なのはそのスタイルだ。
マリーさんが胸、カイネが尻とそれなりにアピールポイントがある物なのだが、彼女にはそれが皆無なんだよなぁ。
まぁ笑顔と性格の良さがそれを補うどころか溢れさせているわけだけど・・・残念ながら子供っぽい所は俺の好みじゃないんだよなぁ。
「即答どうも。そうだ、グレンさんは?」
「いますけど・・・いまはちょっと立て込んでますね」
「ふむ、何かあったのか?」
「あまり素行の良くない連中が入り込んじゃったみたいで、諍いが絶えないんです。それをどうにかしようって偉い人が集まっているみたいで・・・」
「そりゃ大変だなぁ」
「大変ってもんじゃないですよ!この前だってしつこく話しかけて来て、家の方まで追いかけてくるんですよ。私なんてもう怖くて怖くて、思わず蹴り飛ばして逃げちゃいました」
ん?
てっきり怖くて誰かについてきてもらったとかそういう感じなのかと思ったら、まさかの蹴り飛ばした?
流石冒険者ギルドの受付嬢、これぐらい強かじゃないとやってけないよな。
「そいつらはまだいるのか?」
「早く出て行ってくれたらいいのに、残念ながらまだいるんです」
「冒険者なのか?」
「んーどうなんでしょう。それっぽい感じではあるんですけど、冒険者証はないですし商売をする感じでもありません。かといって身分が高い感じでもないですし・・・」
「となると答えは一つか」
「だから奥で話し合ってるってわけなんですよ。アレスさんの所も気を付けてくださいね」
「あー、まぁそうだな」
うちの場合はダンジョンの中だからそもそも魔無しは入れないし、入ったところでリサやグラット達がいるから問題はないだろう。
というかダンジョンに窃盗に入るとか聞いたことがない。
本当は買取もお願いしたかったんだが、残念ながら長引きそうなので先に本題を済ませることにした。
薬草は持ったしある程度の条件もまとめてきた。
後はどうやって彼女を納得させるかだが・・・。
「ん?」
どうしたもんかと悩みながら大通りを行くと、職人通りの方に人だかりができていた。
何か騒ぎでも起きているんだろうかと野次馬根性を出して近づくと、思わぬ場所が舞台になっている。
「なぁ良いだろ」
「やめてください~」
「そう固い事言うなって、ポーションなんてしけたもん作ってないで俺達と遊ぼうぜ」
「そうそう、そんな体しといて男と遊ばないなんてもったいないと思わないか?」
「いやです~、私はそんなこと~」
如何にもという感じの下賤な連中が俺の大事な取引相手を誑かしている。
一応本人は必死に抵抗しているつもりなんだけど、話し方がおっとりしているせいで緊張感があまり出ていない。
が、その表情はかなり嫌そうな感じ。
まったく、うちの大事な錬金術師に何してくれるんだか。
人込みをかき分けて前に出ると、マリーさんを掴む男の手首を逆につかんでやった。
「おい、嫌がってるんだから話してやれよ」
「なんだお前、この子は俺達が先に見つけたんだぞ」
「そうそう、余所者は引っ込んでろっての!」
「女の前だからってかっこつけてんじゃねぇぞ!」
「いや、余所者はお前らだろうが。うちの大事な職人に手を出すなって言ってんだよ」
相手は三人、見た感じ冒険者っていう感じではないがそれなりに鍛えてはいるんだろう。
見た感じ武器はなし、流石にこれだけの人がいる中で武器を出したりはしないだろうけど殴り掛かってくる可能性は十分にある。
「何様だてめぇ!」
「何様も王様もないっての。彼女はうちの大事な錬金術師なんだ、さっさとその汚い手を放してくれ。彼女に何かあったらお前らに賠償請求するからな」
「は?」
「お前の掴んでいるこの手が一体いくらの商品を生み出してるかわかってんのか?うちの商品のほとんどは彼女が作ってるんだ、ポーション一つで銀貨1.5枚、月産100個で金貨1.5枚。それに加えて各種薬に工業用素材、更に日用品各種を加えると金貨3枚はくだらないだろう。もしその掴んでいる手のせいで仕事が出来ないとなったら・・・どうなるかわかってるよなって言ってんだよ」
相手が凄んできた所で怖くもなんともない。
エリザベート様と言う圧倒的強者と出会ったからだろうか、この程度の小者が何か言ったところで全く心に響かないんだよなぁ。
「・・・くそ!自分の職人なら名前でも書いとけってんだ!おい、行くぞ」
「あとで覚えとけよ!」
「ただじゃおかねぇからな!」
てっきり暴力に出てくるのかと思ったら、俺の勢いにビビったのか勢い良く俺の手を振り払い人込みをかき分けるようにしてどこかに行ってしまった。
野次馬も丸く収まったことに飽きたのかバラバラと散っていく。
まったく、困ってるんだから助けてやればいいのに、困ったもんだ。
「あ、あの~」
「おっと、悪い悪い。大丈夫か?」
「大丈夫です~。助けてもらって~ありがとうございました~」
「どうやらあぁいう面倒な奴が入り込んでいるらしい。まったく、迷惑な話だな」
「そうなんです~、店に帰ろうと思ったら~いきなり声をかけられて~、怖かったんです~」
声の感じから緊張感は全く感じないが本人的にはかなり怖かったんだろう。
心なしか震えているようにもみえるが、一応終わったのでもう大丈夫だろう。
「また来るかもしれないし今日は店を閉めておいた方がいいかもな」
「そうします~」
「頼みたいこともあったんだが、急ぎでもないしまた今度にするよ」
本当は店に来てくれっていう話がしたかったんだがこの状況で話を持っていくのは難しいだろう。
別に急ぎじゃないんだ、また日を改めて・・・。
「あの~、さっきの話なんですけど~」
「さっきの?」
「うちの~大事な職人って~」
「あぁ、あれか。あれは言葉のあやっていうか、俺の願望っていうか・・・」
ふむ、どうやって返答するか悩むところだが、せっかく向こうがボールを投げてきてくれたんだからそれを受け止めない理由はない。
「正直マリーさんの仕事の良さに惚れ込んだんで、出来れば一緒に仕事がしたいと思ってるんだ。もちろん急な話で戸惑ってるだろうし、いきなり何言ってるんだって思うかもしれないが悪いようにはしないつもりだ。ここでの仕事もあるだろうけど、一応住居付きの工房も用意しているからぜひうちの店で働いてほしい。そうすればさっきみたいなやつらが来ることは無いし、好きなだけ調合をしてもらっても文句は言わない。あ、たまに店番はお願いしたいところだが・・・って、悪い話しを過ぎたな」
どうやって口説き落とそうかと色々と考えてしまったせいで、ついつい捲し立てるように話してしまった。
いきなりの事にさぞ驚いている事だろう。
一応彼女の口から薬だけ作っていけたらっていう言葉は聞いているので決して悪い提案ではないはず、もちろんこれは俺の自分勝手な提案ではあるけれど、それでも紛れもない本心だ。
「と、いうわけなんだがよかったら俺んとこ来ないか?」
なんとも情けない感じの提案になってしまったが、まぁ言ってしまったものは仕方がない。
後は本人がどうこたえるのか・・・まぁなるようになるだろう。




