24.スライムをあんな風に使うなんて聞いたことないわ
火晶石の屑を使った即席の発火罠は予定通り一定の効果を出したものの、予想外にカイネのフォローが上手かった事で辺境騎士は平穏を取り戻し再びダンジョンの奥へと進み始めた。
俺の予定ではここで引き返してくれるはずだったんだが、進んでしまったものは仕方がない。
とはいえこの先も罠地獄、薄暗いダンジョンの中進み続けると確実にメンタルは擦り切れていくはず、例えカイネと言うシンボルがいたとしてもズルズルと心を削られればいずれ戻らざるを得なくなる。
はずだったんだがなぁ・・・。
「うーむ、まさかここまでカリスマがあるとは。恐るべしカイネ、チョロいくせに」
地図上に表示された赤い光点を見つめながらどうしたもんかと頭を悩ませる。
このままいけばリサの待つ最後の部屋に到着するだろう。
仮に一対五だとしても、リサが負けるとは思えないしそれはそれで予定通りなので問題はない。
問題は無いんだが、出来ればリサに頼らずに何とかしたいっていう気持ちもある。
別にリサを信じていないとか、彼女に頼りたくないとかそういうわけじゃない。
ただ純粋に、エリザベート様に任された仕事を完遂したい、ただそれだけ。
「ということで、最終兵器を投入するか」
タイミングはリサの部屋に到着するすぐ手前、薄暗い通路から明るく光る扉が見えたその瞬間に、とっておきを命中させる必要がある。
「やれやれ、現地まで行くしかないか」
本来であればグラットに頼みたい所ではあるのだが、彼は絶賛騎士たちを襲撃中。
進行速度が遅いのも彼らが頑張ってくれているからこそ、それなのに呼び戻すのは流石に酷という物だ。
というわけで最下層の扉を開けてリサの待つ四階層の最奥へと移動する。
「え?なんでアンタがここに来るのよ」
「仕方ないだろ、予定が狂ったんだから」
「なーんだ、やっぱり駄目だったの?」
「駄目っていうか思った以上にカイネのカリスマ性が高かっただけだ。ならばそれを砕くまで」
「とか言って失敗するんじゃないの?いいのよ、あとは私が綺麗に追い返してあげるから」
ドヤ顔で俺を見てくるリサに思わずイラっとしてしまうけれども、彼女自身に悪意があるわけじゃない。
ただ単純に自分がやるからアンタは出て来るなと言いたいだけなんだろうけど、そうは俺のプライドが許さない。
リサに文句を言われながらも扉を出て目的の場所へ、事前に準備はしてあったので後はネタを仕込むだけだ。
「えーっと、確かこの辺に・・・」
「アレス!?こんなところで何をやっているのだ?」
ロープを引っ張りながら準備をしていると、迂回してきたグラットが後ろから声をかけてきた。
流石グラット、ナイスタイミング。
「思った以上にしぶといんで最後の仕上げをな。確かその辺にスライムがいただろ、探してきてくれるか?」
「スライムだな、わかったすぐに連れてくる」
仲間のゴブリンと共に暗闇に消えた・・・かと思ったら、ものの数分でスライムを二体抱えて戻ってきてくれた。
「これでいいか?」
「あぁ、助かった」
「こいつらをどうするつもりだ?ぶつけた所で奴らの返り討ちに遭うだけだぞ」
「そりゃこのまま戦わせたら一瞬で終わるが・・・まぁ、見てな」
おもむろに取り出したのは小麦粉、それをスライムの上にかけてやると透明だった体が濁りはじめ、プルプルだったボディがねっとりとした感じに変わる。
さっきの感じだと腕で払えばすぐに取れてしまうが、ここまでねっとりするとなかなか剥がすことが出来ない。
そいつらをたらいの中にいれ、紐を使って天井に持ち上げれば準備は完了。
「これで終わりか?」
「あぁ、あとは奴らが引っかかるのを待つだけだ」
「ならばそうなるように仕向けよう」
「無理はするなよ」
「まかせておけ」
そう言ってグラットはニヤリと笑った。
本人がそこまで言うのならあとは任せておけばいいだろう。
「準備終わった?」
「あぁ、これでダメだったら後は任せた」
「アンタの事だから上手くやるんだろうけど、スライムをあんな風に使うなんて聞いたことないわよ」
「俺だってこんなことするのは初めてだ。だがまぁ何とかなる気がする」
「気がするって・・・それじゃあお手並み拝見といこうじゃないの」
なんて話しているうちにカイネたちが通路を抜けて近くまでやって来た。
「いたぞ、ゴブリンだ!」
「追え!これだけ明るいともう逃げ場はないぞ!」
薄暗い通路を抜けた先にゴブリンを発見、ここまで苦汁をなめさせられただけにこの機を逃すかと一斉にグラット達へと向かって走り出す。
「お前達、慌てるな!」
そんなカイネの指示も虚しく、目の前の得物しか見えていない騎士たちは足元の罠に気づくことなく紐に引っかかってしまった。
その途端上から落ちてくる例のたらい。
タイミングを少し遅らせたことで、罠に引っかかったやつではなく後ろから追いかけるカイネともう一人に見事的中。
突然降ってきたスライムを必死にはがそうともがくけれども、粘度が高すぎて中々剥がすことが出来ない。
「隊長!」
「くそ、なんだこれ!」
「こんな姑息な罠を使いやがって!」
「良いから手伝え、酸欠になって死ぬぞ!」
グラットを追いかけるのをやめ、急ぎカイネの所に戻って必死にスライムを剝がす騎士達。
しばらくしてなんとか剥がし終えたもののカイネはフラフラ、もう一人も立ち上がることが出来ないようだ。
「く、ここまでか・・・」
「申し訳ありません、先走ったせいでこんなことに・・・」
「いや、お前達に大事が無くてよかった。ここで引き返すのは惜しいがこの先にはもっと危険な罠が仕掛けられている可能性がある。ただのダンジョンと思って侮っていた私の落ち度だ」
部下に責任を押し付けるわけでもなく、冷静に現状を把握するとは中々やるじゃないか。
ついこの間までのチョロさは一体何だったのかと言わんばかりの有能さ、とはいえそんな彼女も俺の特別製には勝てなかったようだ。
悔しそうに奥の扉を睨みつけながら騎士達は負傷した二人を支えるようにもと来た道を戻っていく。
はぁ、なんとかなった。
「あーあ、結局私の出番はないわけね」
「そう怒るなって、これでも食って機嫌直してくれよ」
「え!いいの!?」
「まぁ、お前の見せ場を取ったのは俺だからな」
「なーんだ、わかってるじゃない」
「とはいえ毎回渡すわけじゃないからな、次が欲しけりゃ店で買ってくれ」
流石に出番を奪っておいて報酬無しってのは可哀そうなので、例のお菓子をリサに渡しておく。
とりあえずこれで機嫌は直ったとはいえ、毎回渡しているとありがたみもなくなってしまうので次回からはちゃんと買ってもらうつもりだ。
フラフラになってきた道を引き返すカイネを見送り、急ぎオーブの所へと戻る。
ダンジョン探索は地上に帰るまで油断するなってのはよく聞く話、最後までしっかり見送るのが俺の役目だ。
「さーて、もうひと稼ぎといきますか」
「え!?もしかして店に戻るつもり?」
「当たり前だろ、店番しているはずの俺がいないと怪しまれるじゃないか。それにあそこまでフラフラだと地上に戻るのも危ないからな、休憩する場所を提供しつつついでに使った分のポーションを売り込めばもう一儲けできるだろう」
「よくまぁそこまで考えられるわね」
「商売ってのは如何に相手の需要に応えられるかだからな、そこで売り込まなきゃ商人じゃないっての」
カイネには悪いが稼げるときにしっかりと稼がせてもらうつもりだ。
かくして辺境騎士団を迎えてのダンジョン防衛は無事俺達の勝利で終わったのだった。




