23.もしかしてやりすぎたか?
グラットが出陣すると地図に新たな青い点が出現、彼の周りに複数の青い点が集まり迷路のようになった四階層に散らばっていく。
彼の要望で通路にはゴブリンが通れる程度の小さい横穴が作られており、そこを通じて行き止まりでも別の通路に移動できるようになっている。
夜目の利く彼らからすれば暗い通路の中も日中と同じようなもの、リサに言わせれば小賢しい感じに見えるかもしれないが、こういう場所での彼らの連携は冒険者にとって恐怖以外の何ものでもないだろう。
それは辺境騎士に対しても同じことだ。
「さっきまで店にいたのになんとも不思議な感じだな」
店では普通に会話をして彼らを応援していたのに、ここに来たら彼らをどうやって追い詰めるべきかを考えてしまう。
余りにも極端な自分の二面性に正直驚いてしまうけれども、ここでの俺はエリザベート様の部下。
今の仕事は如何に冒険者や騎士たちを苦しめて魔素を回収するかなので、こうなってしまうのは仕方がない。
因みに商店では自分の懐具合のために頑張っているので魔物であれ人間であれ客は客。
金になるのであればどちらの味方にもなれる自分がいる。
それもそれでどうなんだと思ってしまうが、元々金儲けが好きなのでその辺に抵抗が無かったりするんだよなぁ。
今思えばその辺の抵抗の無さが左遷された原因なのかもしれない。
それもまぁ過去の話、言い換えればそれがあったからこうやって新天地でやっていけているわけだ。
まさかエリザベート様の部下になるとは思っていなかったけれども、正直今の方が生き生きしている気がする。
自分の頑張りをしっかりと見てくれる人がいるだけでこんなにも仕事が楽しくなるなんて知らなかった。
その頑張りの結果グラットみたいにゴブリンが強い武器を持ち始めたわけだが、そうすることでダンジョンそのものの強化にもつながるので、今後も魔物相手の商売はしっかりとやっていきたい。
人間はまぁ・・・適度に金と魔素を落としてくれたらそれでいいかな。
「おっと、そろそろ始まるぞ」
そうこうしているうちに三階層の水罠エリアを抜けた一行はいよいよお待ちかねの四階層へ。
地図だけではわかりにくいが、あそこは灯りがほとんどない闇の空間。
もちろん彼らも対策はしているだろうけど、あの水罠の嵐の中じゃ持参したランタンもまともに使えないはずだ。
「くそ、火が付かない!」
「こっちもだ、さっきの水が中まで入ってる」
「松明はどうですか?」
「駄目ですね、水を被りすぎて火が付きません」
「まさかこれを狙って?」
「それではダンジョンが意図して作っていることになります。そんな話聞いたことありませんよ」
「そもそもダンジョンと言う存在がまだ完全に解明されていないんです。仕方ありません、無事なランタンだけつけていきましょう」
どうやら水罠によって灯りを減らす事にも成功したらしい。
正直こっちは副産物的な感じだが、他の場所でもつかえば案外効果があるかもしれない。
特に第一階層で水にぬらせば店で追加の松明やランタンの芯が売れるはず・・・これはアリだな。
なんてことを考えているうちにいよいよ目的のエリアに到着、ただでさえ暗い第四階層を少ない明りで歩けばどうなるか。
「うわぁ!?」
「どうした!」
「落とし罠です!くそ、トリモチが!」
「ん?落とし罠の割に随分と浅いな」
「すまん、引っ張ってくれ」
「まったく世話の焼ける奴だ」
他の騎士が笑いながら仲間を引っ張りトリモチから脱出、その後も何回かトリモチに嵌るがその都度引っ張り起こしてもらい事なきを得る。
これで奴らはトリモチしかないと誤解するはず、この時までは。
「くそ、また・・・って、あれ?」
「ん?」
再びの落とし罠、だがそこにトリモチはなく代わりにあるのは火晶石の屑だけ。
ジャリッという音と共に本来ならば交わることのない二つが混ざり合う、屑が水に反応した次の瞬間オレンジ色の炎が薄暗い通路を照らし出した。
「火だと!?」
「うわぁぁぁ、足がぁぁぁ!?」
「おい、大丈夫か!?」
「熱い!熱い!」
炎は一瞬、だがそれだけでも彼らがパニックになるのは十分だろう。
炎は一瞬でもブーツや鎧の隙間から炎が入れば熱さで全身が燃えたような錯覚を覚えてもおかしくはない。
「くそ、一体どうなって・・・」
「動くな!」
「え?」
カイネの声も虚しく動揺した別の騎士が二・三歩動いただけで再び落とし罠にはまり、火晶石の屑が燃え上がる。
再び聞こえてくる悲鳴、まさかここまでうまくいくとは・・・、もしかしてやり過ぎたか?
五人のうち二人が負傷、カイネを除いて後二人を何とかすれば撤退するしかなくなるはずだ。
罠は上手くいった、あとは彼が何とかしてくれるだろう。
「何か来る!?きをつけなさい!」
「くそ、ゴブリンだ!」
「ゴブリン!?そんなのさっさと蹴散らして・・・って、なんだこいつら!」
「棍棒に細工してやがる!こいつ、強いぞ!」
「くるな!こっちに来るな!」
そのタイミングを逃さずグラット達が攻撃を開始、突然闇の中から現れたゴブリンにあの辺境騎士が慌てふためいているのは中々に面白い。
しかもタダのゴブリンじゃなく釘棍棒という中々に強力な武器を持っているので、ただ殴られるよりもかなりのダメージがあるはずだ。
しかも今は炎に巻かれてパニック状態、二重の恐怖に彼らのメンタルはもうボロボロ・・・。
「盾持ちだ!盾持ちを狙え!あいつがリーダーだ!」
「カイネ様!」
「臆するな!相手は所詮ゴブリン、リーダーを失えば逃げるに違いない!」
「りょ、了解!」
お?
どうやらカイネがグラットに気づいたのか、即座にリーダーだと判断して攻撃を指示。
さっきまでボロボロだった騎士の心に戦いの火が再び宿ったようだ。
無事な二人が即時応戦、このまま戦えば確実に負けるそう判断したのか即座に撤退して通路の奥へと移動する。
そしてそのまま横穴から別の通路へと逃げ切った。
「くそ、逃げられたか」
「すばしっこいやつらめ!」
「状況を報告しろ、負傷具合はどんな感じだ?」
「すみません、あの炎で足をやられました。まさか落とし穴にあんなものが仕込んであるなんて・・・なんなんですか、アレ」
「わからん、火薬のような臭いはなかったが・・・」
「もしかしてこの後も同じような罠が?」
「可能性は高いだろう。各自ポーションを使用して怪我の治療を優先しろ、それが終わり次第再度進行する」
「「「「了解!」」」」
ふむ、店に来た時はチョロ・・・いや、少し頼りない感じだったがダンジョンの中となるとリーダーを名乗るだけあって中々にかっこいいじゃないか。
今の襲撃で奴らのメンタルを挫いてしまいたかったんだが、どうもそういうわけにはいかないらしい。
まぁいい、ここから先は罠地獄。
踏むたびにまた爆発するんじゃないかと言う恐怖と再度の襲撃に怯えながら進むがいいさ。
それでももしダメだったら・・・まだとっておきが残っている。
出来ればこれは使いたくなかったんだが、折角用意したんだし使わないのはもったいない。
勇ましく仲間を鼓舞するカイネが果たしてどういう反応を取るのか、楽しみだ。




