22.さぁ、作戦開始だ!
そして、ついにその日はやって来た。
今日がカイネに指定された一週間後、昨日辺境騎士が隣村に宿泊したという話は聞いているので間違いなくここに来るだろう。
事前準備はばっちり、あとは彼女達がどういう風に探索をしていくかだ。
「まだ始まってもいないのに随分と余裕そうな顔ね」
「そりゃアレだけ準備したからな、あとは成り行きに任せるさ。それに何があっても最後はお前がいるから突破される心配はない。頼りにしてるぞ」
「あったりまえじゃない。ちゃんと生きて返してあげるから、約束守ってよね」
「わかったわかった。ただし、事前に引き返したら無いだからな」
「えぇぇぇ!そんなの聞いてないわよ!」
「そういう約束だっただろ」
「むぅ、そんなことなら手伝わなかったらよかった」
明らかに不満げなリサだが、その耳には例の赤いピアスが光っている。
昨日罠の最後調整に遅くまで付き合ってもらったこともあり、お礼の代わりに渡したのだがどうやら気に入ってもらえたようだ。
最初こそぶっきらぼうな感じで『それを貰うならお菓子がよかった』とか言ってたくせに、なんだかんだそういうのが好きなんじゃないか。
まぁ俺もわかってそれを渡したわけだけど、正直そこまで気に入ってもらえるとは思わなかった。
「よく似合ってるぞ」
「ふん、別にアンタの為なんかじゃないし。それに、ちゃんとダンジョンが成長しないとエリザベート様に怒られるのは私なんだから、だから手伝ってるだけよ」
「へいへい、これからもよろしく頼むな」
「私は向こうで待ってるから、しっかりやりなさいよね」
そう言うとエリザベート様同様見えない壁の向こうに消えてしまった。
彼女曰く転移と言う魔法の一種らしく、実力が上がればものすごい距離も移動できるんだとか。
一応俺もポータルを使えばダンジョン内は移動できるけれども、ダンジョンの入り口にしか繋がっていないので隣町までは馬車で移動しなければならない。
まぁあの重たい荷物をもって移動することを考えると馬車でいいんだけど・・・魔法って便利だよなぁ。
「お、来た来た」
そうこうして言ううちに複数の反応がダンジョン内へ侵入、気配からするとおよそ5名、ざわざわする感じもあったのでそのうちの一人がカイネだろう。
約束通り彼ら向けの食材は手配済みなので通り道に店があるので通り過ぎることは無い。
「隊長、こんなところに怪しげな店が!」
「あぁ、ここは大丈夫ですよ」
「大丈夫って、もし罠があったら・・・」
「そういうのはありませんから安心しなさい」
そんなやり取りが店の外から聞こえてくる。
まぁ、事前にここにきているカイネはともかくダンジョンを探索していたらいきなり普通の店があるんだから、それが一般的な反応だよなぁ。
カランカランというベルが鳴り店の扉が開くと、鎧と同じ純白のヘルムを脇に抱えたカイネが入って来た。
「いらっしゃいませ、ようこそダンジョン商店へ」
「頼んでおいた食料を受け取りに来たんだけど、準備は出来ているかしら」
「もちろんです、ご準備しますので確認をお願いします」
恐る恐る入ってくる他の騎士と比べなんと堂々としたことか。
五人分の食料を順にカウンターの上に並べ、その横に袋を添える。
「ご注文賜りました携帯食料1日分、五名様分になります。袋は当店からのサービスですが、他に必要な物はありますか?」
「そうですね、折角ですから見せてもらいましょうか」
「隊長、本当に大丈夫なのですか?ダンジョンの中に店など・・・」
「そうです、あそこにスライムまで居るなんてどう見ても魔物の罠にしか思えません」
「くそ、武器が抜けない!」
カウンターの上に乗ったライムを見て別の騎士が剣を抜こうとするも不戦の証の効果によってそれを許さない。
不安が動揺を呼びそれが恐怖となって広がっていく。
うーむ、ダンジョンに入る前からこれってこいつら本当に大丈夫か?
「おやめなさい!ここでの戦闘は出来ないようになっています。それにこの店については事前に調査済み、だから食料を頼んであるのですよ」
「隊長が調査を?」
「事前確認も隊長の務め。私も最初は驚きましたが、安心できる人間だと判断しました。彼はこの間も町に来ていましたが魔物がダンジョンの外に出られると思いますか?」
「それは・・・確かに」
「皆さんの不安もわかりますがカイネ様は快く私を受け入れてくださいました。ここでは人も魔物も私の大事なお客様、それ故何人たりともここでの戦いは禁止しています。その代わりこの場所で必要な物を販売していますし買取もさせていただいておりますのでどうぞご利用ください」
とりあえずその場は丸く収まったようなので、代金を受け取り用意した食料を渡す。
最初は怯えていた隊員たちも危険がないとわかると次第に興味深そうに店内を見て回りはじめた。
やれやれ、当分はこのやり取りが必要になるわけか。
ダンジョン内に商店があることを広く知ってもらうまでは色々と大変そうだなぁ。
「準備は出来ましたか?」
「「「「はい!」」」」
「もし帰りに必要な物があったら遠慮なく仰ってください。ポーションから毒消し、必要な物は何でもそろっていますから」
「必要になったらお願いします。それでは出発!」
やれやれ、やっと出発してくれたか。
静かになった店内に俺のため息が響く。
それに気づいたライムがプルプルと体を震わせながら近づいてきたので、とりあえずそのトゥルトゥルのお肌を撫でておいた。
あぁ、癒しだなぁ。
「それじゃあ俺は最下層で状況を確認してくるからその間に掃除をよろしく」
ぴょん!と各区飛び跳ねたライムの頭を撫でてから店の裏に回り、設置したポータルで最下層へと移動。
オーブを起動すると、空中にダンジョン内の状況がわかる地図が表示される。
うーむ、便利だ。
「さてっと、リサは四階の定位置で待機。カイネたちは・・・三階を通過中か」
赤い光点が地図の上を移動、昨日リサと二人で考えた罠エリアは四階に降りてすぐなのでもうすぐたどり着くだろう。
この辺は自然発生した魔物が集中して配置してあるのだが、残念ながら彼らでは動きを止めることが出きないようで青い光点がどんどんと消えていくのがわかる。
まぁ彼らにはあまり期待していないのでそれはそれで構わないのだが、思った以上に罠への抵抗が少ないのか途中で設置した水罠にかかっているようだ。
足元の見えづらい場所に設置したロープを切ると、天井付近に設置した桶が落ちてきて中身を浴びてしまうようになっている。
とはいえここの中身はただの水、四階層に設置してある火晶石に反応させるために重点的に足を濡らすように配置してある。
途中で中身が水と分かれば彼らは気にせず通過するはず、足元が濡れる程度の罠なら恐れる必要はないからなぁ。
「このまま進んだところでアレを踏んだ瞬間大騒ぎになると」
「そして我らが出番という事だな」
狙うは四階層の罠ゾーン、そこに足を踏み入れたが最後彼らの悲鳴がダンジョンに響き渡ることだろう。
地図を見上げる横にスッと現れたのは例のゴブリン長。
本来であれば自然発生の魔物同様ここに隔離させるつもりだったのだが、今回はあえて彼らの力を借りることにした。
「あぁ、期待しているぞグラット」
「あのエリアは暗闇が支配する我らが領域、例え騎士と言えど恐怖に怯える者に負ける気はしない。賜ったこの名に相応しい働きをしようではないか」
「・・・キャラ変わってないか?」
「あのスライム同様名を賜れば俺はもっと強くなる。期待していてくれ」
「期待はしているが、死ぬなよ」
「今回の任務はあくまでも奴らを追い出す事、それを達成すれば闇に隠れて撤退するつもりだ」
二日程前の事、突然店にやって来たゴブリン長から名前を付けてほしいとお願いされた。
何事かと話を聞くと、どうやらライムの話を聞いたらしく自分も名前を貰って強くなりたいと思ったらしい。
現時点で固有個体である彼がこれ以上強くなるのか疑問だったのだが、リサに聞くと名づけの効果はその状態でもあるらしいのでそれならばと名前を付けることにした。
ダンジョンを運営していく中で話の通じる仲間がいるのは非常にありがたい、今後はグラットをリーダーとしてゴブリンやその他の魔物をコントロールできるようになるだろう。
今回の作戦も彼と共有してあるので罠にかかって慌てふためく騎士を闇に紛れて強襲、即座に撤退を繰り返しながら彼らのメンタルにダメージを与えることにしている。
彼らの恐怖はそのままダンジョンの魔素となって吸収される。
そこで引き返せば成功、仮に引き返さなくてもダメージを与えたのは間違いないので後はリサが美味しく料理してくれるはずだ。
その帰りにうちでポーションを買ってくれるだけで大儲け、何ならデリバリーしてもいいかもしれない。
「さぁ、作戦開始だ!」
大量の魔素と売上を目指した強襲作戦が今、始まった。




