21.で、これを使うわけね。
辺境騎士が来るまでのタイムリミットは一週間。
それまでの間に色々と準備をしなければと思いながらも、出来るのは仕入れぐらいなものでダンジョンに関してはほぼリサに丸投げと言っていいかもしれない。
もちろん罠や通路の配置などはアドバイスをもらいながら色々と設定するけれども、結局彼らを追い出すのはリサの仕事で他のモンスターでは中々に荷が重いだろう。
「辺境騎士がどれだけ強いか知らないけど、ここに来る冒険者より強いとなるとゴブリン程度じゃあっという間に倒されちゃうでしょうね」
リサに言わせればうちの戦力なんてこんなもの、もちろんゴブリン長を馬鹿にしているつもりはないけれどそれでも限界はあると思っている。
向こうはそれなりに実戦を経験しているだろうし、魔物に対する知識が豊富。
対する俺達はまだまだ実戦経験が少ない素人集団。
自然発生する魔物はともかく顔見知りが死ぬのは流石に来るものがあるので、とりあえず彼には五階層で待機してもらう事になるだろう。
なんにせよ準備は必要、という事でかき集めた薬草を手に隣町までやって来た。
「ってことで、今回も薬草を頼みに来た」
「今回も~全部ポーションでいいの~?」
「あぁ、薬草は前と同じだからよろしく頼む」
最初に来たのはマリーの店、相変わらずゆっくりとした話し方だが、心なしか前よりも表情が明るい。
「ふふ~どれもいい色~、また頑張っちゃうね~」
「よろしく頼む。それじゃあ俺は別の用事があるから任せていいか?」
「それなんだけど~、他のお仕事もあるから~ちょっと時間かかるかも~」
「忙しいんだな」
「よくわからないけど~、急に売れるようになったのよ~」
恐らくというか十中八九例のポーションがきっかけになったんだろう。
ポーション瓶には誰が作ったのかわかるように印が施されているので、それを見た誰かがここの事を広めたのかもしれない。
「大変だな」
「それでも~売れるのは嬉しいから~。えっと~、三時間ぐらいもらってもいい~?」
「そのぐらいなら大丈夫だ、それじゃあまた後で」
「は~い、行ってらっしゃ~い」
てっきりもっと時間がかかると思ったんだがそのぐらいで出来るのなら十分だ。
ひとまず依頼を出してから例の化粧品を買付けに行き、そのついでに前行けなかった店を物色。
が、あまり良さげなものは見当たらず渋々市場へと向かった。
化粧品もお菓子もいずれ飽きが来るだけに何か新作が欲しかったんだが、世の中そう上手くはいかないらしい。
王都であれば店はいくらでもあるし、職人の数も膨大なので日々新しい物が生まれているけれどもこの規模となるとなかなかそれも難しいのか、同じような物しか並んでいない。
「そういう意味ではこっちの方が新鮮味があるよな」
固定の店と違って行商人が店を出す市場は毎回新しい店がある分新鮮味がある。
流れである以上明日には店がないので偽物を売りつける店もそれなりにあるけれども、その辺は感覚でわかるので大丈夫・・・なはずだ。
「お、なんだこれ」
幾つか店を冷かしていったもののここでも収穫は無し、まぁ毎日いい感じの物が見つかるわけでもないので仕方ないのだが、その中でも気になる物は幾つかあるわけで。
「いらっしゃい、良かったら見て行ってよ」
「綺麗な赤だな、宝石・・・ではなさそうだが何で出来ているんだ?」
「緋焔石っていう南方の石さ、この辺りじゃ珍しいだろ」
見つけたのは鮮やかな緋色の石が付いたピアス、よく見ると石の中に炎のような模様が浮かび上がっている。
「これは加護とかついているのか?」
「生憎とそんな特別な物じゃなくてね、手慰みで作ったような物さ」
「それでも物は悪くない、一つ貰おう」
「いいのかい?」
「あぁ、気に入ったものは買う事にしているんだ」
「毎度あり!」
別に誰に渡すわけではないけれど、良い物は手元に置いておきたい。
特にこういった流れの商人の場合は次にいつ手に入るかわからないからな。
金額は銀貨10枚、少々高めだが南方からの輸送費と考えれば安い物だ。
もちろんこれが偽物っていう可能性もあるけれど、デザインで買っているので特に問題はない。
「なぁ、南方からってことは他にも同じところからきているやつがいるのか?」
「何人か同じ馬車で来ているからどこかで店を出していると思うよ」
「そうか、ありがとう」
南方からきているという事は、もしかしたらあれを売っているかもしれない。
色々と使い道はあるし、致命傷を与える事は難しくても相手のメンタルを攻撃するには十分な効果があるはずだ。
しかもこの辺で手に入らないとなれば知識として知らない可能性も高いわけで・・・うん、アリだな。
その後、露店を捜し歩くと無事に目的の物を発見、なんでこんな物を買うのかと驚かれたが今の俺にはピッタリの素材だ。
「で、ダンジョン内でこれを使うわけね」
その後、諸々買い付けた後ポーションを回収してからダンジョンに戻り、リサに買付けた物について説明する。
買ってきたのは南方で一般的に採掘される火晶石・・・の屑、そのままだとただのキラキラした破片だが、水に濡れた状態で圧力をかけると一気に燃え上がる性質を持つ。
今回はこれを使って辺境騎士を迎え入れるつもりだ。
「あぁ、致命傷にはならなくても上手くやれば相手の戦意をそぐことはできる。要はここがどんなダンジョンか分からせればいいわけだし、適当にやって帰ってもらえばそれでいい。もちろん帰りにうちで買い物してもらえるように仕込んでおくけどな」
「確かに効果はあるかもだけど・・・それじゃあ私の出番が無くなるじゃない」
「なんだって?」
「なんでもない!ともかくこれを設置すればいいんでしょ、アンタはどうしたいの?」
なんだか急にリサの機嫌が悪くなったがそれよりも今はこれを設置する方法を考えよう。
重要なのは濡らした状態でこれを踏ませること、となると水を用意する必要がある。
方法は思いついてもダンジョンについてはまだまだ素人、リサのアドバイスを聞きながら辺境騎士用の罠を仕込むことになった。
「なるほどね、そういうのなら細い通路が効果的よ。となると足元に浅い落とし罠を作って、そこにこれをばらまいておけばいいんじゃないかしら」
「じゃあ水はどうする?」
「そんなの桶か何かを仕込んでおけばいいのよ」
「桶?」
「まぁ見てなさいって」
オーブを前にリサの指示を受けながら主に三階層の細い通路に罠を設置していく。
今回用意する罠は主に三つ、行動阻害用のトリモチと例の屑を入れた浅い落とし罠、それと水の入った大量の桶。
それがいくつもの紐で固定されており、紐に引っかかったり切り取ったりすると上から水が落ちてくるというなんともシンプルな感じの罠。
殺傷能力は皆無だが、組み合わせれば他にない素晴らしい罠に生まれ変わるだろう。
「とまぁ私にかかればこんなもんよ」
「すごいな、こんな才能があったのか」
「エリザベート様に一度仕込まれたのよ。でも自分で戦った方が早いからって途中でやめちゃったけど、こんなところで役に立つとは思わなかったわ。でもこれで本当に引き返すと思う?」
「これだけじゃどうにもならないが、そこはもう一人の助っ人に頼むつもりだ」
「助っ人?」
「このダンジョンの中を一番知り尽くしている奴らがいるだろ?そのまま戦うのは弱くても、こういう細くて暗い場所は彼らのテリトリー、頼めば手を貸してくれるはずだ」
最後の仕上げはうちの大事な顧客にお願いしよう。
本当は避難してもらうつもりだったんだが予定を変更、もちろん断られたら仕方がないけれど彼ならば引き受けてくれると思っている。
さぁ、いよいよ決戦の時。
このダンジョンがいかに恐ろしいか、たっぷり教えてやらないとな。




