20.辺境騎士として命じるわ
なんだろう、ついさっきまでチョロ・・・じゃなかった、良い意味で素直だったのに急によくわからないことを言い出したぞ。
言いたいことは分かるけれども、戦えたとしてもそうでなくても辺境騎士という身分は変わらない。
というか身分というのはそういう物だ。
何かをしているしていないからで変わる物では無いし、それをなかった事にしろと言うのはいささか
「いや、急にそう言われましても身分とはそういう物ですから」
「貴方ももっと楽に考えてみて、そもそも私はただの客なんだから敬語を使う必要なんてない、そうよね?」
まさかあのゴブリン長の言葉を使ってくるとは思わなかったが、有無を言わせぬ圧力に今度はこちらがたじろいでしまう。
どうやらこれは争いではないのか不戦の証は反応しないようだ。
まてよ、口論になった時とかはどうなるんだ?
あれは争いじゃないから問題ない?それとも争いになったら声が出なくなるのだろうか。
って、今はそんなこと考えている場合じゃない。
カイネ様からのまさかの提案、と言うか命令。
俺が魔物と商売することよりも、自分が敬語を使われていることに納得がいかないとかいうよくわからない理由で責められているわけだが・・・拒否した所でしつこそうだしなぁ。
「その理屈ですとここでは国王陛下にも敬語を使わないという事になりますが?」
「んーじゃあこうしましょう。辺境騎士として命じるわ、今後一切私と敬語で話すのを辞めなさい。どう?これなら文句ないでしょ?」
「確かにご命令とあれば致し方ありませんが・・・はぁ後になって不敬だとかそういうのはやめてくれよ」
「そんな小さい事を言うつもりはないわ」
「それで、なんでそんな風に言い出したのか理由を聞かせてくれないか?じゃないと俺も素直に受け入れられないんだが」
「あのゴブリンが言っていたじゃない、もっと楽に考えた方が生きやすいって。魔物にこんなこと教えられると思ってなかったけど、なんだかストンって胸に落ちたのよ。ともかく、ここにいる間は私はただのカイネ、わかったわねアレス」
「わかったわかった。だからさっさと帰ってくれ、こうみえて俺は忙しいんだ」
「ふふ、それじゃあまた来週。次は辺境騎士としてくるけどその時は普通にしてていいわよ」
隣町で会った時はもう少し堅物と言う感じだったのだが、まさかこんなに強引なタイプだったとは。
まぁ気を遣わずに話せるのはこっちとしても楽だけど、めんどくさい事になったもんだ。
急にご機嫌になったカイネは満足そうにカウンターを離れると、ゴブリン長と同じくライムをポンポンと叩いてから扉の方へと向かう。
帰るときはあぁするのがマナーなのか?
「あ、そうだ!」
「なんだよ、まだあるのか?」
「この子が使ってる化粧品だけど、私の分も用意してもらえる?」
「化粧水と乳液で銀貨6枚だ」
「なんだその程度なんだ。いいわ、次に来た時に買って帰るからよろしくね」
さすが辺境騎士、銀貨6枚をこの程度と言える辺りやはり高給取りで間違いない。
もしくは家がそれなりに裕福か、なんにせよ次の購入は確定したようなのでもう少し在庫を増やしておいてもよさそうだ。
やっとカイネが去り店に平穏が戻ってきた。
ドッと疲れが押し寄せて来て思わずカウンターの上に突っ伏すと、慰めるかのようにライムが俺のそばに近づいてきてくれた。
あぁ、冷たくて気持ちがいいなぁ。
「ねぇ、終わった?」
「終わったっていうか去っていたっていうか。はぁ、マジで疲れた」
「それがアンタの仕事でしょ?」
「それはまぁそうなんだが、あのタイミングで遭遇するのはちょっと想定外だった」
「あのゴブリン?」
「あぁ、でもそのおかげでまとまった感はあるし後でお礼しとかないと」
あそこで出たあの言葉が無かったらカイネは納得しなかっただろう。
もっと楽に考えるねぇ・・・生憎と商売しているとそこまで楽観視できないもんなんだよなぁ。
「律儀ねぇ」
「商売ってのはそういうもんなんだよ」
「ふーん。で、あの臭いやつ次はいつ来るの?」
「来週。今度は辺境騎士としてくるらしいから奥まで潜ると思うぞ、丁重にお出迎えしてやってくれ」
「面倒だけど仕事なら仕方ないわよね」
「殺すなよ」
「わかってるけど、ちゃんと新しいお菓子用意しててよね」
そう言えば結局化粧水じゃなくてお菓子に戻したんだったか。
本来はお前用に買って来た化粧品関係だったんだが・・・まぁそのおかげでエリザベート様にも喜んでもらえたし、カイネという新しい顧客が見つかったから良しとしよう。
もっとも、売れた原因を作ったのはライムっていう素晴らしい実演販売員がいたおかげだけどな。
「リサ」
「なによ・・・ってなにこれ!」
「新しい菓子だ。頑張ればこれが四本入ったのを渡すから頑張ってくれ」
不満げなリサの口に先程仕入れてきたショートブレッドを一本差し込んでやる。
俺だったら口の中の水分を一気に持っていかれて大騒ぎするところだが、彼女にとってこの程度何の問題もなかったらしい。
「すっごく美味しい!しかもフルーツが入ってる!」
「これが新作だ。中のフルーツも物によって違うらしいから色々と楽しめるぞ、これで頑張れるよな?」
「もちろん!ボッコボコにして返してあげるから安心してよね!」
「いや、程々でいいから」
「えー、じゃないとあのポーションいつ売るのよ」
「ふむ・・・確かに」
リサがボコボコにした帰りにポーションを売り込めば間違いなく売れる。
前に考えていたダンジョン内の無人販売は残念ながらそれを行えるような装置が無かったので一時断念。
俺がダンジョン内を売り歩くという選択肢もあったけれど、冒険者に襲われたら抵抗できないのでそれも却下。
となると店まで戻ってきてもらわないといけないのだが、下手に元気だとスルーされそうなのでやはりいボコボコにしてもらうのが一番だろう。
「むしろお前が売るか?」
「え?」
「ボコボコにしたところでポーションを出して売りつける、どうだ?」
「それを飲んだらまたボコボコにされるんでしょ?私なら買わないわね」
「だよな」
良い作戦だと思ったんだが、普通に考えればわざわざ勝てない相手に挑むようなことはしないだろう。
そんなことをするのはよっぽどの戦闘狂かはたまた勇者とかいう部類の存在か。
なんにせよ普通じゃないのは間違いない。
「まぁその辺に関してはまた考えておく。とりあえずポーションの在庫を補充したいから明後日ぐらいに隣町に行くつもりだ、それまでに薬草を集めておきたいんだが・・・」
「はいはい、探して来いってことね・まったく、このお菓子が無かったらアンタのいう事なんて聞かなかったんだけど仕方ないわね」
「よろしく頼む、ちゃんと土産買ってきてやるから」
「絶対だからね!」
カイネ率いる辺境騎士の一団が来るまであと一週間、それまでに色々と仕込んでお出迎えの準備をしなければならない。
食料を買付けてポーションを補充、それから探索用の道具を追加。
後はダンジョン内の罠を強化しておけばまぁ何とかなるだろう。
俺達からすれば初めての強敵という事になる、このダンジョンがどれだけそういう相手に対応できるかの試金石になる大事な一戦。
それまでにしっかりと準備しておかないとな。




