19.ここはひとつ穏便に
二人が慌てて武器を抜こうとするも不戦の証の効果で武器を抜くことが出来ない。
雰囲気はまさに一触即発、だが俺はそこまで慌てていなかった。
「まぁまぁ二人とも落ち着け。ここはひとつ穏便にだな・・・」
「穏便に!?魔物が目の前にいるのよ?」
「だから?」
「だからって・・・いえ、そもそもここでは争えなかったわね」
さすがチョロ・・・じゃなかった聞き分けのいいカイネ様、自分で納得して剣から手を離した。
よくわからないという感じのゴブリン長だが、向こうが戦う意思を見せないと察すると同じく釘棍棒から手を放す。
「アレス殿これは一体・・・」
「ここは俺の店、そしてこの店での戦闘はこの不戦の証によって禁止されている。だからここでは人間と争う必要はない。が、それ以外となれば話は別だからここだけのルールだけと思ってくれ」
「なるほど、理解した」
「話が早くて助かるよ。それで、薬草を持ってきてくれたって?」
「あぁ、今日は思いのほか多くてな。もしや誰か来ていたのか?」
恐らくはエリザベート様が来たことでダンジョン内の魔素が活性化してしまったんだろう。
さすが魔族四柱の一人、あの短い滞在時間でもここまでの影響があるのか。
ということはだ、長い事いてもらえればもっと多くの薬草が手に入るという事になる。
今度お茶にでも誘ってみてもいいかもしれないなぁ。
「あー、そんな感じだ。全部で五つ、四つは買取にするのか?」
「いや、このまま納めてくれ」
「いいのか?」
「そういう約束だからな」
当初の約束は毎日薬草一個を納品する事、だが最近では一個にとどまらずこんな感じで規定量よりも多く納品してくれているのだが、約束は約束だからと報酬を受け取らないんだよなぁ。
その代わりと言っては何だが、新しい装備なんかは格安で提供させて貰っているし、素材の持ち込みがあれば少し割高に買わせてもらっている。
彼とは今後もいい取引相手でいたいからな、その辺は持ちつ持たれつでやっていくつもりだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん?」
「まさかあのポーションの材料はこのゴブリンが持ってきているの?」
「そうですが?」
「そしてここで売っている?」
「えぇ、このダンジョンで採れる薬草は魔素が豊富なのでいいポーションが出来るんだそうです」
今日の分でまたそれなりに量がたまって来たから痛む前にまたマリーに加工してもらわないと。
ちょうどカイネ様から依頼された食材の確保もあるし、エリザベート様用に化粧水も仕入れておきたい。
となると少々資本が心もとないから、またリサにブラッドベアでも倒してもらいたいところだ。
「信じられない、自分達を殺すかもしれない相手が使う素材を自分達で運んで・・・なんとも思わないの?」
「アレス殿が何を作って何を売ろうが私には関係のない話だ。私は約束を守るまで、もちろん敵に回るというのであれば話は別だが、そういうわけではないのだろう?」
「そうだな、どっちかっていうと俺は自分の味方だ。金になるのであれば魔物であっても人間であってもそれこそ魔王や勇者であっても取引をするぞ」
「魔物と取引を?」
「彼らが持ってきてくれる素材は隣町でも人気ですし、ポーションにいたっては引手数多。それを魔物が持ってこようが冒険者が持ってこようが物に違いはありません。それともカイネ様は薬草一つを探す時もどこで誰がどのように手に入れた物かを調べるのですか?しませんよね?」
「そ、それはそうかもしれないけど・・・」
納得いかないという気持ちとなるほどと言う気持ちが攻めぎ合っているのだろう。
彼にいたってはお互いの利害の為だけに動いているので、俺が人間と取引するとかその辺はあまり深く考えていないようだ。
仲間が強くなり、そして自分が仲間の中で認められるのであれば相手が何であれ気にならない。
重要なのは自分が強くなるために必要な物だけでそれ以外に興味は無いって感じだな。
「ここは不戦の証の元で人間も魔物も分け隔てなく取引が出来る場所です。皆欲しい物は様々、それを手配し販売するのが私の仕事、それに何の問題があるでしょうか」
「ま、魔物がその取引で強くなったとして、そのせいで冒険者が被害に合ったらどうするの?死ぬかもしれないのよ?」
「むしろそれを理解した上でダンジョンに潜っているのですよね?」
「それはそうだけど・・・」
「そもそも魔物を相手に商売してはいけないという法律はありませんし、それゆえに私が人間を裏切ったという事にもなりません。私は商人、その人が欲しい物を販売するのが仕事です。仮に勇者が武器を求めるのであれば売りますし、魔王が薬を求めているのであればそれを売ります。魔王であれ魔族であれ、勇者であれ辺境騎士であれ、お客に物を売ることに何の問題があるでしょうか。あぁ、でもご心配なく。人や麻薬などのご禁制の物に手を出すつもりはありませんから」
そもそも答えなんてない話だ。
エリザベート様の庇護のもとでダンジョン運営をしている時点でカイネ様からすれば人間の敵、だからと言って人間相手に商売をしてはいけない理由はない。
ダンジョンに潜るのに必要な道具や装備があるのであれば喜んで販売するし、それで魔物が倒されたとしてもそれは仕方のないことだと思っている。
むしろそうやって戦えば戦うほどダンジョンは成長する。
俺があの方から仰せつかったのはまさにそこだ。
魔物と人間が戦う事で得られる魔素、それを使ってダンジョンを大きくするために商売をしているのだから。
まぁ商売で客を呼ばないと冒険者が来ない辺境あるってこおと、単純に商売が好きだからっていう理由もあるけどな。
「人間は難しく考えすぎなのだ。ここはダンジョン、強き者が生き弱き者が死ぬ場所。それを他人のせいにするのがそもそも間違っている。我らは我らの生活の為に戦っている、もし襲ってくる者がいるのであればこちらも牙をむくのは当然のこと。初対面の相手にこういうのもなんだが、もっと楽に考えた方が色々と生きやすくなると思うぞ。そうそうアレス殿この間の盾だがものすごい好評だった、是非また同じものを頼みたい」
「そりゃ何よりだ。あまり数が手に入らないから量産はできないが是非使用感を聞かせてくれ」
「了解した。それでは仲間が待っているので失礼する」
「あぁ、気を付けてな」
現実を受け入れられないカイネ様の前を通り過ぎ、去り際にライムの頭を撫でてからゴブリン長は店を後にした。
一歩外に出れば不戦の証は作用しないので、戦おうと思えば戦える。
だがそれすらも出来ずカイネ様は必死に何かを考え続けていた。
それからしばらく動きを止めたまま動かなくなってしまったのだが、いい加減買い付けてきたお菓子なんかを片付けたいのでそろそろお引き取りいただきたい。
「あー、カイネ様?そろそろ店じまいの時間でして。頼まれた食料は来週までに準備いたしますのでひとまず今日は・・・」
「ねぇ、さっきのゴブリンとは親しいの?」
「親しいかと言われれば、まぁほどほどに」
「話し方も私と違うわね」
「彼とはまだ短い付き合いですが、店主と客というような対等な立場で話をしていますから。その点カイネ様は辺境騎士様ですので平民の私如きが普通に話しかけるなど恐れ多い事です」
「でも同じお客でしょ?」
「それはまぁそうですが・・・」
なんだろう、てっきり魔物と商売していることを責められるのかと思いきや何故か話し方について文句を言われている。
王都では貴族とかそういう人相手に商売をしていたのでついつい身分の高い人にはそういう話し方をしてしまうのだが、そんなにため口が羨ましいのだろうか。
「じゃあ私にも同じようにしなさいよ」
「はい?」
「私はここに来たお客で貴方はここの店主。その証がある以上ここでは戦えないわけだし、そうすれば辺境騎士であるりゆうもないわよね?戦わないのなら私はただのカイネ、じゃあ敬語を使う必要もないんじゃなくて?」
一体この人は何を言っているんだろうか。
思わぬ展開に流石の俺もついていくことが出来ないでいた。




