18.余りにもチョロ・・・
「貴方がここにいる事は隣村で聞いて分かっているわ。正体を隠すわけでもなく堂々と買い物をするなんて、一体どういうつもりなの?」
開口一番俺の事は知っているぞと宣言するあたりさすがの一言。
全て丸っとお見通しだと俺に分からせた上でどう切り返してくるのかを見たいのだろう。
だがこちらもその辺は想定済み、調べているのはこの人だけじゃないという事を教えてやらないとな。
「どうもこうも隠すつもりがないからですよ、カイネ様」
「なんで私の名前を・・・」
「隣村の女将さんとはよく話をする中でして、カイネ様が色々と聞いて回っていると教えてくださいました。隣町でもそうでしたが随分と人気があるようですね、普通は辺境騎士と聞くと皆恐れるものですが、そこに行ってもいい話しか聞きません。そんな人徳のある騎士様が善良な商人に何を期待されているのですか?」
お前の事も全て知っているぞと伝えた途端、さっきまでの勢いはどこへやら目線を泳がせて必死に何かを考えている。
まさか反撃されるとは思っていなかったんだろうけど、まだまだ場慣れしていないのがよくわかるなぁ。
「期待なんてしていないわ。私はただ貴方の正体が知りたいだけ」
「正体はこの前お伝えしましたよね。私は辺境に追放されただけのただの商人、少々変わったところに店を出しているだけで特に変わったことはありませんよ」
「嘘言わないで、この臭いは間違いなく魔族のもの。こんなに濃い臭いをさせて魔族じゃないなんてどう言い訳するつもり?」
「なんだそんなことですか」
「そんなことって貴方、自分が何を言っているかわかってるの?魔族は人間の敵、魔王と共に世界を滅ぼす存在なのよ?」
「それは大昔の話ですよね。魔王も勇者もいますけど魔王は世界を滅ぼさずに自分の領地に残り続け、勇者は魔物退治に忙しい。それに両者が戦ったのはもう数十年も前の話です。その間に勇者は二度代替わりしていますし、不在の時期に魔王が攻めてくることもなかった。それが答えでは?」
何故この人がここまで魔族に噛みつくのかはわからないけれど、魔王と勇者のいさかいなど大昔の話でそれを言うのはよほどの年寄りぐらいなものだろう。
「確かに攻めては来ていないけれど、私達がこの臭いを忌避するのは魔族を敵対視している証拠に違いないわ。私達辺境騎士は代々この地を守り続けている、魔王領に一番近いこの地を守ることが私達の責務であり誇りなの。それをそんなことだなんて・・・」
「ではお聞きしますが今までに魔族と出会ったことは?」
「・・・ないわ」
「つまりいるかもわからない相手を探していると?」
「そんなことは無い、貴方からするこの臭いは間違いなく魔族のものよ!」
そう言って俺に指を向けるカイネ様。
うーむ、最初は辺境騎士と聞いて俺も身構えてしまったけれど、蓋を開ければ自分達の誇りにしがみつく残念な人だったようだ。
そりゃ騎士になれるぐらいだから自信はあるんだろうけど、それでも自分の存在理由を有りもしないものに押し付けているようにしか見えないんだよなぁ。
まぁ実際にはいるんだけど、それをこの人に明かす必要はなさそうだ。
「それなのですが、おそらくこれから感じただけではないですか?」
「え?」
「我が家に代々伝わる秘宝です。このクリスタルの前ではどんな相手であっても争う事は出来ない不戦の証。大昔に魔族から購入したという話ですから臭いがするとしたらこれしかありません。正直私は何も感じませんが、カイネ様が仰るのであれば言い伝えの通り魔族の品なのでしょう」
「ちょ、ちょっと見せて頂戴!」
動揺した様子でカウンターに置かれた不戦の証を確認するカイネ様。
恐らくというか間違いなく俺の中にあるエリザベート様の魔力を感知したんだろうけど、それよりも直接賜ったこっちの方が魔力は強いはずなのでごまかせるはずだ。
真剣な面持ちでそれを確認すると、しばらくして盛大なため息をついた。
「確かにこれから強い魔族の臭いを感じるわ」
「これを持っている限り私は魔物に襲われません。現にここにいるスライムがその証拠になるでしょう」
「え、これって置きものじゃなかったの?」
「ライムと言います、可愛いでしょう?」
ポヨンと飛び跳ねたライムに慌てて腰にぶら下げた剣を抜こうとするも、証の力が発動したのかどれだけ引っ張っても抜けることは無かった。
凄いぞ不戦の証、まさかこれほどにも効果があるとは思わなかった。
「くっ武器が抜けない!これがそのクリスタルの効果なの?」
「その通りです。よかったら触ってみますか?気持ちいいですよ?」
「魔物に襲われず触る日が来るなど思いもしなかったけど・・・確かに気持ちいいわね」
普通はもっと抵抗しそうなものだが、早々に剣を抜くのをあきらめ躊躇なくライムの体を撫で始めるカイネ様。
順応性が高いというか危機感がないというか、普通はもっと警戒するものじゃないだろうか。
余りにもチョロ・・・じゃなかった素直過ぎる。
まぁ今の状況を考えるとその方が都合がいいのでさっさと言いくるめてお帰りいただくのが一番だな。
「そうでしょうそうでしょう。なんせうちの化粧水を塗っていますからね、モチモチのトゥルトゥルです」
「スライムが化粧水を!?」
「体の99%が水分ですから当然です。乾燥防止に乳液を塗ることでこの状態を保っています、もしよろしければ購入もできますが、如何ですか?」
「ダンジョン内に怪しげな店があると聞いてたけど、まさか魔物を従えるだけじゃなく物を売っているなんてね・・・あの凄いポーションもここで売っているの?」
「えぇ、数に限りはありますが銀貨3枚で販売中です。少々値は張りますが通常よりも効果は高いですからダンジョン探索にはピッタリですよ」
ペースは完全にこっちの物、このまま話を続けて商品でも買ってもらいつつお引き取りいただけば大丈夫だろう。
カイネ様が感じる臭いは不戦の証のせいってことになっているみたいだし、これで隣町に行っても言い訳はつく。
「うーむ、折角来たんだし色々と見せてもらってもいいかしら」
「もちろんです。購入もできますし買取もしていますから、何かあれば遠慮なくお申し付けください。また、取り寄せも承っています」
「取り寄せ?ということは、食料なんかもも用意してくれるの?」
「前金はいただきますが必要分をおっしゃっていただければご準備いたします。まぁ、隣村で買ってくるだけですが、今度の調査時に合わせて手配も出来ますよ」
「それは助かるわ。でもまさかこのダンジョンも貴方が作ったとかそんなことは言わないわよね?」
「このような場所に店を構えておいて言うのもなんですが、流石にそれは無理ですよカイネ様」
「そりゃそうよね。前に冒険者が来たと思うけど辺境騎士も調査に来る予定だから、その時までに用意してもらえるかしら。調査は一週間後、どのぐらい奥まで続いているかは・・・知らないのよね?」
「お力になれず大変申し訳ありませんが、いくら不戦の証があるとはいえそれがどれぐらい効力を示すかはわからない以上不用意に潜らないことにしているんです」
「それが正解よ。それじゃあ食料の件よろしく・・・」
後は代金を貰ってカイネ様を帰すだけ・・・と思っていたその時だ、カランカランと扉が開き何も知らない例のゴブリン長が店に入って来た。
「アレス殿、今日の薬草を持ってきたぞ!」
「なっ!ゴブリン!?」
「お前は人間!?」
敵対する人間と魔族、突然の遭遇に場の空気が一気に変わってしまった。




