17.これで支払いましょう
突然の登場に俺もリサも動きが止まる。
そんな俺達を見て不思議そうに首をかしげるエリザベート様、別にやましいことをしているわけじゃないけれどもいきなりの登場はマジで勘弁していただきたい。
「ようこそお越しくださいました」
「色々と頑張っているようですね、アレス」
「いえ、私なんてまだまだです」
「そう謙遜することはありません。この短期間でしっかりと冒険者を受け入れ、稼ぎも出ていると報告を受けています。なによりあのリサがアナタになついているのが何よりの証拠でしょう」
「べ、別になついているわけじゃ!」
リサが慌てた様子で反論するも、エリザベート様は特に気にする様子もなく店の中を見て回る。
そう言えば前に来た時は店ではなく最下層だったっけか、魔素が無くて困っていたのをすぐに対応してもらえたおかげで今では広々としたベッドで寝ることが出来ている。
本当にありがたいことだ。
「良い店ですね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「おや、この子は?」
「ダンジョンの奥で助けました。懐いてしまったので名前を付けましたが・・・よろしかったでしょうか」
店内を一周したエリザベート様がカウンター上で震え上がっていたライムに目を向ける。
俺にはよくわからないけれども、魔物からすると格上の存在になるわけなのでそれで怯えているのだろうか。
その割にリサには懐いているみたいだけど、やはり格が違うんだろうな。
「別に私の許可は必要ありません。貴方の意思で従えたのならばしっかりと面倒を見なさい。しかし普通のスライムの割に随分と綺麗ですね」
「恐らく化粧水を塗っているからかと。最初はカラッカラだったんですがこの化粧水を塗るとご覧の通り、いまではモチモチトゥルトゥルです」
「もちもち・・・」
「おすすめは入浴後にこの化粧水をつけ、それからこちらの乳液を使うとより効果的です。エリザベート様に是非お使いいただきたく手配いたしました」
「私に?」
「ご不要かとは思いますが、ここまでしていただけたのもすべてはエリザベート様のおかげ。宝飾品などは沢山持っておられるとリサから伺っておりましたので、こちらをご準備いたしました」
正確にはエリザベート様の為ではないけれども、物は言いよう。
ぶっちゃけ自分に必要なのか!と怒られる気もしなくはないが、ライムにここまで反応したという事は興味はあるはずだ。
実際、興味津々と言う感じでライムの体とつついている。
あの気持ちよさは確かに癖になるよな。
「ではその化粧水と、それとリサの言うお菓子をいただきましょうか。リサ、どれがおすすめですか?」
「え、えっと!この固飴が今のおすすめです」
「この前のとは違いますね」
「甘いだけじゃなく長持ちもするので、執務の間にも食べていただけるかと」
「そこまで考えられるようになりましたか、成長しましたね」
突然の指名に驚きながらも、自分の好きな物を認められた喜びからかパッと表情に花が咲く。
かくしてエリザベート様は化粧水と乳液、それと固飴をお買い上げ。
さすがにそのまま渡すわけにはいかないので、隣町で買っておいた紙袋に入れてエリザベート様へと手渡した。
「化粧品と乳液、それと飴を合わせまして銀貨7枚になります」
「ちょっと!エリザベート様からお金を取るの!?」
「前にも言いましたが、この店では全ての方がお客様です。たとえエリザベート様であれ例外ではありません」
「つまり魔王様が来られてもお代金を頂戴すると?」
「もちろんです、魔王様であっても勇者であってもここで買い物をされるのであればお客様。相手がゴブリンでもスライムでも同じ対応を致します」
これはこの店での決まり事、相手がエリザベート様であれ魔王であれ買い物をするのであれば代金は支払ってもらう。
手持ちがないのであれば買取もするし、それ以外の物で支払うというのであれば交渉に応じよう。
例えばそれが魔素でもいいし物々交換だというのならばそれでもありだ。
ここに来るゴブリンですらそうやって買い物をしていく、なのでエリザベート様にもそこは守ってもらわないとな。
「良いでしょう、ですが生憎と人間のお金は持ち合わせていません。代わりにこれで支払いたいのですが、構いませんか?」
「これは?」
「不戦の証、これがある空間ではいかなる者も戦うことが出来なくなる魔導具です。戦うすべを持たないあなたにはピッタリだと思いますが」
そう言ってエリザベート様がカウンターの上に置いたのは透明なクリスタルが飾られた置物、それだけではただのオブジェの様には見えないけれどもきっとすごい効果があるんだろう。
「もしかして初めからこれを?」
「さぁ、それはどうでしょう。それでは確かに受け取りました、二人とも引き続き頑張りなさい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
満足そうに袋を抱え、エリザベート様が見えない壁の向こうに消えていく。
その姿が見えなくなってから俺は大きく息を吐いた。
「はぁ、マジでビビった」
「まったくビビったってもんじゃないわよ、エリザベート様がお優しいからよかったものの普通は殺されてるわよ」
「だがそれをさせないためのこの証だろ?」
「ものすごく強力な魔力を感じるわ、それこそ魔王様の宝物庫に入っているような代物じゃないかしら。効果からするとあまり使い道がなかったのかもしれないけど、ものすごい物を賜ったのよ?わかってるの?」
「わかってるって」
と、口では言う物の正直どれぐらい凄いのかはさっぱりわからない。
元々魔無しだったから魔力の動きとかを感じたこともないし、エリザベート様から魔力を頂戴したとはいえそれはダンジョンで生きていくために必要だったから。
戦いに使えるようなものではないので正直今もリサのいう強力な何かってのは全く分からないままだ。
でもまぁそんなすごい物があるのなら安心して店を営業できるというもの、それこそここに来た冒険者がライムをみて攻撃しようとしてもできないわけだろ?最高じゃないか。
「ん?」
「どうしたの、また誰か来た?」
「そんな感じだが前よりも明らかに雰囲気が違う。これは何だ?」
「もしかして背中がぞわぞわする奴?」
「この感覚をそう表現するのかはわからないが、とりあえず前の冒険者とは違う感じだ」
「せっかくエリザベート様に褒めてもらっていい気分なのに邪魔されるのはごめんよ。私は先に戻ってるからアンタで何とかしなさいよね」
「しなさいって・・・もういないし」
何かを察知したリサが逃げるようにして最下層へと引き返してしまった。
うーむ、気持ち悪いというかくすぐったいというか、ともかく何とも言えない雰囲気だ。
いつもの冒険者なのかそれとも魔物か何かなのか。
そういえばダンジョンには外の魔物が入ってくるっていう話を前に聞いたな、もしかしてそういう感じなのだろうか。
そんな不安を抱えながら店の片づけをしていると、予想通り誰かが店の扉を開いた。
「いらっしゃい・・・ってアンタは」
「やっぱりここにいましたか。また会いましたね」
やってきたのは例の辺境騎士。
俺を見るなりにこやかにほほ笑む彼女だったが俺の事を嗅ぎまわっていたのを俺は知っている。
果たしてここに来た理由は一体何なのだろうか、まっすぐカウンターへ向かってくる彼女を前にごくりと生唾を飲むのだった。




