16.今日の新作は?
初めての冒険者が来てから二日。
あれ以降ポツポツと冒険者の数が増えているので宣伝には一定の効果があったと判断してもいいだろう。
誰もがあのポーションを買いに来たわけではないけれど、ダンジョン内に店があるという物珍しさから立ち寄る人が増えたような感じだ。
とはいえ来ているのはあくまでも新米と呼ばれるような冒険者ばかり、熟練者が来るはずもなく売上は伸び悩んでいた。
「とはいえ客が来るのはいいことだ」
因みに店の営業時間は日中に限られ、夜中に訪問されても店は閉まっている。
あとは俺が買い出しに出ている時か。
今までは訪問者が少なかったのでどうにでもなったが、流石にこれだけ増えてくると店番を立てることも考えなければならない。
とはいえリサにそれをやらせるわけにもいかないし・・・繁盛するのも考え物だな。
「はいよ、お待ちどうさん」
「いつも悪いな」
「これだけ買ってくれる大事なお得意様だからねぇ。そうだこの間のは気に入ったかい?」
「あぁ、美味そうに食べてたよ」
「うちのお菓子を買ってくれる人なんてアンタぐらいなもんだからねぇ、旦那が張り切っちゃって大変なんだよ」
店番も大事だが俺の飯を準備するのはもっと大事、そんなわけで近くの村まで食料の買い出しに出たついでになじみになった商店でおかみさんと世間話をする。
最初こそどこの誰だかわからないという感じで対応されたが、話していると段々と仲良くなってきて今では夫婦そろって俺の食生活を気にしてくれている。
肉ばかり買うと野菜を持たされ、野菜ばかり買うと肉を持たされる。
実の両親にもここまで甲斐甲斐しく世話してもらったこともないだけに、なんだかこそばゆい感じだ。
「誰が大変だって?」
「お前さんの事だよ」
「仕方ないだろ、俺が作ってもお前は食わねぇじゃねぇか」
「食べる傍から腹に行くんだから仕方ないじゃないか、それとも何かい?もっと大きくなってもいいのかい?」
「俺は別に構わんが?」
「アタシが構うんだよ!ほら、待ってるんだからさっさと渡してやりな」
おかみさんの後ろから旦那さんが登場、相変わらず不愛想だが女将さんのことが好きだってことはよくわかる。
俺も昔はこういう風になるんじゃないかって考えたこともあるが・・・まぁ昔の話だ。
「今日の新作は?」
「冒険者がダンジョンの中で食べるって聞いたからな、日持ちのいい奴にしてみた」
「これは・・・携帯食料とまた違う感じだな」
「ショートブレッドって言ってな、こう見えてお菓子の一種だ。食べてみるか?」
「いいのか?」
「口に合わなきゃ配合を変える。甘い方がいいって聞いたんだが・・・まぁとりあえず食べてみろ」
旦那さんが用意したのは細長いブロック状のお菓子、片手でつまむにはちょうどいい感じだが見ただけでは甘そうに見えない。
半分に割ったのを貰い口に運んだ次の瞬間、口の中の水分が一気に持っていかれた。
「これは飲み物必須だな」
「あー、それはあるな。だが美味いだろ?」
「これは・・・甘いってもんじゃないぞ?あ、でも酸味もあるな・・・これはレーズンか?」
「正解だ。村で採れるドライフルーツを色々と入れてある。噛めば噛むほど味が変わるから飽きないはずだ」
美味い、マジで美味い。
見た目はちょっとアレだが、これだけ甘いと冒険者も喜んで買っていくんじゃないだろうか。
なによりリサが気に入るに違いない。
固飴が思った以上に気に入っていたから次のネタを探していたんだが、これは星形の飴よりも気にいるんじゃないだろうか。
「気に入った。いくら払えばいい?」
「一箱4本入りで銅貨50枚、事前に言ってくれたらそれなりの数は用意できる」
「因みに今回は?」
「とりあえず100本」
「100本!?どおりでこの間の行商人からとんでもない量のバターを買付けていたわけだよ。まったく、加減ってもんを知らないのかい?」
「こいつは大量のバターがないと美味くならないんだ。それに、こんな時じゃないと菓子なんて作らせてくれないだろ?」
いくらある程度人の流れがあるとはいえ、わざわざ菓子を買う人は少ない。
長旅だからこそ心の栄養になる甘味は必要だと思うんだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
旦那さんからすれば俺みたいな客は珍しいんだろう、だからこそここぞとばかりにお菓子を作っているようだ。
「まったく・・・売れなかったらどうするつもりなんだい」
「大丈夫だって、旦那さんの菓子はどれも美味いから全部買うよ。100本で25箱分、銀貨15枚でいいか?」
「多いぞ?」
「ドライフルーツもいくつか買わせてくれ、小腹が空いたときにちょうどよさそうだ」
「いつもいつも悪いねぇ。ほら、しっかりおまけしてやるんだよ!」
いや、そんなことしたら儲けが減る・・・って言っても聞かないか。
この間のポーションじゃないけれども、この人達からすればこれが宣伝費のようなもの。
俺みたいに意図してやっているわけじゃなさそうだけど、こういう所がほんとすごいよなぁ。
代金を支払い買い付けた別の食材と一緒に荷馬車に載せる。
これで一週間は食いつなげるだろう、そろそろ辺境騎士団が動き出しそうなのでしばらくはダンジョンの中で缶詰生活だ。
「そうだ、思い出した」
「ん?」
「ついこの間騎士様が来てねぇ、アンタの事を訪ねて回っていたよ」
「辺境騎士が?」
「どこに住んでいるのかとか、何をしているのかとか色々と聞かれたけどねぇ。アンタ、あんな美人に一体何したんだい?」
「別に何も?隣町で声をかけられたからダンジョンの事とかを色々と説明しただけだ」
「その割には熱がこもっていたけど・・・。まぁ罪人を探している感じじゃなかったから安心しなさい」
「ありがとう、また隣町に行った時に挨拶しておくよ」
お礼を言ってから馬車を走らせ急ぎダンジョンへと戻る。
美人と言う時点で間違いなくあのカイネとかいう辺境騎士だろう。
いや、もっと美人がいる可能性はあるけれど俺を知っているのはあの人しかいないが、まさかダンジョンではなく俺を探しに来たとは思わなかった。
別に怪しまれるようなことをした覚えはないけれど・・・諸々備えておいた方がいいかもしれない。
相手は辺境騎士、実力で言えばリサの方が上かもしれないが俺からすれば絶対に勝てない相手だ。
「お帰り、どうしたのよそんなに怖い顔して」
「ちょっとな。不在の間誰か来なかったか?」
「冒険者が来てたけど店が開いてないとわかったら帰っていったわ」
「本当に冒険者だったか?」
「本当ってのがよくわからないけど、少なくとも聖職者のような雰囲気はなかったわね。アイツら聖水臭いから嫌いなのよね」
確か辺境騎士の鎧は聖水で清められているはず、その臭いがしなかったってことは彼女ではないんだろう。
何にせよこの近くまで来ているのは間違いない、彼らが調査に来ると普通の魔物じゃ太刀打ちできないので退避させる必要がある。
「そんなことよりも新しいお菓子あった?」
「ん?」
「辺境騎士とかいうのを生きて返したら新しいお菓子くれるんでしょ?」
「あぁ、そういえばそうだったな。でも化粧水じゃなくていいのか?前はそういう話だっただろ?」
「それは自分で買うからいいの」
「それなら別にいいんだが・・・そんなにお菓子がいいのか?星形の奴も固いやつもまだまだあるだろ?」
「あれはあれで食べるからいいのよ」
色気より食い気、まぁそれがリサらしいと言えばリサらしいのだがエリザベート様だとまた違うのだろか。
あの人の事だからお菓子をっていう感じじゃないと思うけど、化粧水なしでも十分綺麗だしそもそも人間の奴が合うかもわからない。
「まったく、そんなに食ってるとエリザベート様みたいになれないぞ」
「うるさいわね別にいいじゃない。それに、私はエリザベート様の為に試食してるんだから・・・」
「私のために、ですか?」
突然の声に後ろを振り向くと、そこには不思議そうに首をかしげる我らが主人の姿があった。




