15.買う気が無いならさっさと失せろ
「うーむ、ここまで有能だとは思わなかった」
例のスライムがカウンターの上でピョンピョンと飛び跳ねて喜びを表現している。
体の中はさっきと違って薄汚れているが、これはこいつが店の中を動き回って埃をすべて回収してくれたからだ。
コイツを助けた後、仕事に戻ろうと思ったら足にまとわりついてきたので致し方なく保護、仲間のいる二階層で開放したのだが結局店までついてきてしまった。
追い出すのもアレだったので店の中で好きにさせていたのだが、急に店内を転がりまわり掃除を開始。
床だけでなく器用に棚の上を移動して商品に触れないよう体を分裂させながら埃を回収、あっという間に店内がピカピカになってしまった。
トゥルトゥルのお肌が触るとまた気持ちがよくついついポンポンと叩いてしまいそうになる。
「すっご~い、ピカピカじゃない」
「だろ?全部コイツがやってくれたんだ」
「スライムって案外綺麗好きだから掃除役にちょうどいいかもね。ゴミだったらなんでも食べるし死体も骨以外は綺麗に食べてくれるから素材を回収する時とかはすっごい便利よ」
「なるほどなぁ。ってことは料理した後の残飯もわざわざ上に捨てに行く必要が無くなるのか」
「そういう事。こんなのを連れ帰ってどうするのかと思ったけど、触り心地もいいし案外可愛いじゃない」
リサがスライムの体をツンツンとつつき、更に撫でまわし始めた。
確かにこのモチモチの触り心地は癖になる、見た目も可愛いし仕事もできるとなればこれはもう決まったも同然だな。
「よし、今日からお前はこの店の看板スライムだ。仕事は掃除とゴミ処理、それから素材の異物除去。後は時々客に触らせてやってくれれば毎月銀貨1枚を払おう。それを使って化粧水を買うもよし、金を貯めて乳液を買うもよしだ。追加の仕事が出てきたら別途報酬を出すから頑張ってくれ、やってくれるか?」
繁盛する店には何かしらの看板となる存在がいる。
それは大抵物だったり生き物だったりすることが多いけど、ダンジョンの中なんだからそれが魔物でもおかしくはないだろう。
別に魔物だからむやみやたらに襲い掛かるものでもないし、逆を言えばうちの看板スライムに攻撃させる奴には容赦しない。
それが魔物であれ人間であれ店主はこの俺、ルールを守れないやつを相手に商売するつもりはない。
返事とばかりに勢いよく跳ねたかと思ったら、店内を転がりまわって喜びを表現するスライム。
うーむ、可愛い。
「ここまで魔物が人間になつくって珍しいわね」
「そうなのか?」
「アンタの場合はエリザベート様の魔力があるからだろうけど、それは支配であって服従じゃないわ」
「すまん、違いが判らん」
「要は自主的かそうでないかの違いね。私もそうだけど魔族は魔物を支配する力があるの、だから向こうの意思に関係なく言う事をきかせられるけど、この子の場合は自主的にアンタに服従することを決めたのよ。まぁ命を助けてもらったからってのが大きいだろうけど、エリザベート様の魔力以外の力が働いているのは確かでしょうね。せっかくだし名前もつけてあげたら?」
「名前?」
「服従する魔物に名前を付ける事でより深い絆が生まれるのよ。アンタだってエリザベート様からもらったでしょ?」
確かに俺もエリザベート様よりアレスと言う名前を賜ったわけだが、アレにはそういう意味があったのか。
コイツも名前が呼ばれるという事で期待した感じでこちらを見ている・・・ような気がする。
名前、名前なぁ。
「ライム、お前はライムだ」
「安直ねぇ」
「良いだろ別に。お前もどうだ?」
聞いてみると嬉しそうにその場で飛び跳ねる・・・かと思ったら、ぼんやりと白い光に包まれた。
「どうやら気に入ったみたいね、これで名付けは完了したからあのゴブリンみたいに固有個体に進化したわよ。これからは魔素を得るともっと強くなれるから掃除しながら強くなっちゃうかもね」
「なるほど、素材から魔素を吸収するのか」
「そういう事」
「まぁお前はここの看板スライムなんだからそんなに強くなる必要もないからな」
コイツの場合は戦闘じゃなくて掃除とマスコットが仕事、もちろん強いことに越したことは無いんだけど・・・。
「ん?」
「どうかした?」
「誰かが入って来た気配がする」
「アンタが言ってた辺境騎士?」
「いや、流石にそれは早すぎるだろう。冒険者の方じゃないか?」
「じゃあお客様ね」
「そうだといいんだがな」
タイミングからするといつもの冒険者、もしくはギルドから派遣された冒険者のどちらかだろう。
いつもの奴らは第一階層も突破できないような奴なのでここまで来れた時点で後者だという事は分かる。
何にせよ客は客、初めてのお客様をしっかり出迎えないとな。
そして待つこと1時間程、ついにその時はやって来た。
「こんなところに店?」
「罠かもしれない、気を付けろ」
カランと音を立てながらも中々扉は開かず、恐る恐る首を出してきた相手と目が合った。
「いらっしゃいませ」
「は?人間?」
「なんでこんなところに・・・」
「別に警戒しなくてもいいですよ。ここはダンジョン商店、御覧の通りここでは魔物も襲ってきません」
入って来たのは冒険者二人組。
装備もいつもの奴らよりしっかりしてるし、ここまで来られたという事はギルド関係の冒険者で間違いないだろう。
彼らが無事に地上に戻ればダンジョンだけでなくこの店の事も広めてくれるはず、何としてでもいい印象を持って帰ってもらわなければ・・・。
「おい見ろよ!鉄製装備が置いてあるぞ!」
「こっちはポーションだ、こんな高純度のやつなんて見たことないぞ」
「薬草だって、つやつやしてるしこれ全部売ったらいったいいくらになるんだ?」
何事も最初が肝心、ということで最高の営業スマイルで出迎えたのだが、やって来た冒険者は目の前の商品に飛びつき、あろうことか好き勝手に触り始めた。
それだけならまだいい、それどころかまるで自分の物のように勝手にカバンにしまおうとさえする。
流石にこれは許されない。
「・・・おい、欲しいなら金を払え」
「んだよ、うるせーな」
「これはうちの商品だ、大事に扱ってもらわないと困る」
「はぁ?こんなところで店を出すような奴のいう事なんて聞いてられるか」
「そうそう、魔物に魂を売るような奴の話なんて関係ねぇ、さっさとこれを持って奥の調査に・・・」
「もう一度言う、これはうちの商品だ。買う気が無いならさっさと失せろ」
「ったく、わかったよ」
余りにも好き放題言うので思わず声が低くなってしまったが、とりあえず話は通じたようだ。
渋々と言う感じで商品を見始めた男達だが、ある程度の目利きは出来るんだろう品物の良さに目を輝かせている。
「金が足りないのなら買取もやってる、素材があるなら出してくれ」
「買取?」
「そういう店だからな、買取もするし販売もする。必要なら食料だっておいてあるぞ」
「・・・本当に商店なんだな」
「こんなところにあって驚くのは当然だが別に騙して金を巻き上げるつもりはない。ちょっと変わったところにある店後思ってくれ、その分品質は保証する」
「魔物じゃないのか?」
「こいつは魔物だが俺は人間だ。っていうか魔物が商売すると思うか?」
最初は懐疑的だった冒険者も話をすればそれなりに打ち解けてくれたようで、最後の方は冗談を交えながらも薬草や探索用の道具を買ってくれた。
「これ、おまけな」
「いいのか?」
「その代わり上に戻ったらうちの事しっかり宣伝してくれ、物がいいのは分かってくれただろ?」
「わかった、遠慮なく貰っておく」
「帰りに寄れれば買取もやってるからまた利用してくれ」
最後に渡したのは例のポーション。
彼らが買った薬草と比べると明らかに価格が見合っていないが、これは一種の宣伝費だ。
ギルドから調査を依頼されているという事は無理して深く潜ることもないはず、となるとケガもせず地上に戻るはずなのであのポーションをもって町に戻るはずだ。
そこでこの店の事をギルドに報告、さらにポーションを見せる事で凄い物があるという事が広まるだろう。
情報と言うのはどう広げるかが重要、その為の投資は惜しんではいけない。
初めての客を見送りライムと共にそれを見送る。
本日の販売額:銀貨1枚、以上!




