14.スライムって、こんなものが好きなの?
隣町での買い付けから二日。
いつものように在庫チェックをしながら店頭に商品を並べていく。
この間仕入れた商品はおおむね好評、もちろん買い付けた中には全く無反応の品もあったけれども時間をおいて店に出すと案外売れる時もある。
昨日は例のゴブリン長が釘棍棒を手に薬草をもって来店、なんでも仲間内で大人気らしく追加が欲しいとのことで追加で5本の注文を貰うことが出来た。
折角ならとこの間隣町の露店で見つけたアイアンタートルの甲羅を見せてみたのだが、どうやらそれも気に入ってくれたようで別途盾への加工も引き受けている。
盾加工って言っても甲羅に穴をあけて革ひもを通す程度しかできないけれど、リサの力があればあの甲羅にも容易く穴が開いてしまうに違いない。
ここに来る冒険者もまさかゴブリンがこんな武装をしているとは夢にも思わないだろう、流石にゴブリン全員に支給するわけにはいかないが、長としての象徴として持たせるのはありかもしれない。
「おっはよ~」
その時だ、カランと扉の開く音がしてリサが店にやってきた。
相変わらず元気いっぱい、そろそろ彼女にも活躍してもらう日が来そうだからそっちの準備もしておかなければ。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてるっての」
「なによ、お客に向かってそんなこと言っていいの?」
「客って言っても安物しか買ってかないだろ」
「仕方ないじゃない美味しいんだから。ってことで固飴頂戴」
「銀貨1枚、食べ過ぎて虫歯になっても知らないからな」
「ムシバ?何それ」
どうやら魔族に虫歯という概念はないらしい、確かにあの固い飴を複数口に放り込んでボリボリかみ砕いているのを見るとその心配はいらなさそうだ。
っていうか銀貨1枚の菓子をものの数分で食べきってしまうのはどうなんだ?
売れるのはありがたいがこの分だと次を仕入れておかないとすぐになくなってしまう。
「美味いか?」
「うん!」
「そりゃ何よりだ。出来れば別の物も買ってくれると嬉しいんだなぁ」
「だってこれ以外美味しくないんだもん。それよりもあの話本当なの?」
「あの話?」
「冒険者が来るって話よ。この間まで全くだったのに、なんで急にそんな話が出たの?」
「隣町でここの事を広めてきたからだよ。冒険者ギルドも調査に来るって話だったが、それよりも強い辺境騎士団も調査に名乗りを上げているそうだ。なんでもブラッドベアを倒せる強者がいるらしいぞ」
強者がいる、それを聞いた瞬間にリサの目が鋭くなったのを俺は見逃さなかった。
流石戦闘狂、だてに甘い物ばかり食べてるわけじゃない。
「じゃあそのための準備もするんだ」
「そうなるな。予定通り自然発生したスライムやゴブリンなんかは第一階層にそれとなく配置して第二階層へ誘導、店を経由させて第二第三階層を突破させる。第四階層の警備はもちろんお前だ」
「でもそこまで来れるかはわからないのよね?」
「正直町の冒険者ギルドじゃ難しいだろうなぁ。罠もそれなりに設置するし、なにより彼が暗闇から奇襲するから突破率はかなり低いと思ってる。だが辺境騎士となれば話は別だ、奴らが来たら早々に撤退させてそっちまで誘導するから後は任せたぞ」
「殺していいの?」
「状況によっては致し方ないが、お前ならその辺の加減が出来るだろ?殺せば報酬は少ないが、生かせば多く支払おう。そうすればまた菓子が食えるってわけだ」
いくら辺境騎士が強いとはいえあのブラッドベアをギリギリ倒せる程度、片やこっちは散歩ついでに倒してしまうほどの実力者だ。
そんな彼女と戦わせたら殺すのは簡単、だが死なない程度に痛めつけるというのは実のところかなり大変なのだが彼女の実力があれば大丈夫だろう。
「そしたらもっと美味しいお菓子を用意してくれる?」
「そうだな、何でもってわけにはいかないがまた街に行ったら仕入れてこよう。他に欲しい物とかないのか?宝石とか、色々あるだろ」
「んー、エリザベート様はそういうの綺麗にされてるけど正直興味ないのよね。私ってガサツだからそういうの似合わないし」
「そうでもないと思うがなぁ。髪もアップにしてるしピアスでもつけたら似合うんじゃないか?」
元の顔は悪くないんだし付けたら似合いそうなもんだが本人が興味ないのなら仕方ない。
とりあえず店の準備を終えたので一度最下層まで戻り、ダンジョンオーブに手を乗せて第三階層などに罠を設置していく。
これにも少量の魔素を消費するので何でも設置すればいいというわけではない。
しかも大抵は非殺傷系の物ばかり、ダンジョンが成長すればそういったものも設置できるらしいけど冒険者を生きて返すことを考えればこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。
もちろん死んだらそこまでだと思っている、悪いが俺はもうエリザベート様の配下。
人間であることを捨てたわけじゃないが与えられた仕事は全うする所存だ。
「さて、後は設置した罠の確認だな」
オーブから手を放して今度は設置した場所へと移動、何事も丸投げではなく自分の目で確認してこそいい仕事が出来ると思っている。
現場に行かないとわからないこともあるし、それらを怠って失敗したやつを何人も見ているのでここでもそのやり方を変えるつもりはない。
「ん?」
「あ、スライムじゃない。この辺にいるのは珍しいわね」
第三階層は迷路型、細い通路を移動しながら奥へと進むがその途中に罠や魔物が潜んでいるので精神的にもかなりくる作りにしている。
ここに出るのは例のゴブリン長の他、主に二足歩行の魔物達。
スライムも一応いるけれど、こいつらがいるのは一つ上の二階層のはずだ。
水場もないこんなところにいるなんて迷子にでもなったんだろうか。
「迷子か?」
「あーあー、こんなにカピカピになっちゃって。こいつはもう駄目ね」
「そうなのか?」
「だって核まで見えてるし、こんなんじゃすぐにやられるわよ」
足元に絡んできたスライムは確かに他のと違って核と呼ばれる丸い部分が丸見えになっている。
普通はプルプルの体に守られるだけでなく、その体で光を屈折させてどこに核があるのかわからないようにしているけれども、どうやらそれすらも出来ないぐらいに弱っているようだ。
最後の望みをかけて助けを求めてきたんだろうか、ダンジョンマスターとして放っておくことも出来ないんだが・・・生憎と回復させるような術は持っていない。
「うーむどうしたもんか・・・ってそうだ!」
俺はカバンから自分の飲み水を取り出すとそれをスライムの上に振りかけてやる。
すると、見る見るうちに水分が体に吸収され心なしかカピカピ具合がましになっていた。
「確かに少しはマシになったけど・・・」
「でもまだまだって感じだなぁ。とはいえもう水はないし・・・いや、あるにはあるか」
次いでカバンから取り出したのは隣町でこの間買い付けた化粧水。
リサが気に入ると思い買って来たのだが、さっきも言っていたように化粧品や装飾品に一切興味を示さず結局無駄になってしまったやつだ。
銀貨3枚もしたのに買ってもらえなきゃただのゴミ、ならばとそれを奴の体に振りかけると先ほど以上に体がプルプルになって来た。
本人?いや本スライムも嬉しいのか小刻みに揺れている。
「スライムって、こんなものが好きなの?」
「それを俺に聞くなっての。でもまぁこれで核は見えないし元気になったってことでいいだろう。いや、待てよ?」
「まだ何かするの?」
「最後にこれを塗れば・・・よし!これで保湿もばっちり、当分は乾燥する心配もないぞ」
最後に塗ったのは同じくリサ用に買った保湿用乳液。
プルプルどころかトゥルトゥルな感じになってしまったが、まぁこれはこれでいいだろう。
余りの嬉しさに飛び跳ねて喜びを表現するスライム、ここまで喜んでもらえると塗った甲斐もあったってもんだ。
「ふふ、なんだかとっても嬉しそうね。それを使えば私もエリザベート様みたいに綺麗になれるかな」
「そりゃスライムがこれだけトゥルトゥルになるんだから可能性はあるだろ」
「まだ在庫はあるの?」
「あるぞ、ただし銀貨5枚の高級品だ。固飴五つ分、だが辺境騎士を生かして帰せばこれを渡さなくもない」
「え、いいの!?」
「その代わり殺すなよ、大事な顧客なんだから」
「わかった!」
うーむ、まさかリサが興味を示すとは思わなかったが・・・やはり実演販売ってのは大事なんだなぁ。
これであなたもトゥルトゥルのお肌に、スライムも喜ぶ保湿用乳液登場!
ってね。




