13.あの気配、まさかね
買取金額は何と銀貨95枚。
もう少しで金貨に届くという買取価格に思わず感嘆の声が漏れてしまった。
ブラッドベアの毛皮があったとはいえ、まさかこんなに高く買ってもらえるとは。
これだけあればリサ用のお菓子を色々買えるし、魔物向けのチャレンジ的な素材を買いつけても十分お釣りが来る。
ポーションの仕込みで少し経費はかかったけれど、それを売ればそれ以上の利益を出せるのは間違いない。
まぁ買取金の大半は例の毛皮、今後も継続的に狩ってきてもらいたい所だがそれを強制するのもあれだし、やるなら自主的に持ってきてもらいたい。
そうすれば買取する時も買い叩けるので、リサがやる気を出しそうなものを見つけておかなければ。
「どうだ?これでも精一杯頑張ったつもりなんだが」
「いやいや、むしろこれだけ高く買ってもらえて驚いているぐらいだ。こっちこそこんなに買ってもらっていいのか?」
「今回はいい感じの素材もあったしなにより新しいダンジョンの情報も持ってきてくれたからな、それなりに色はつけさせてもらった。」
「そりゃありがたい。今後も何か面白い情報があったら持ってこよう」
「それなら冒険者登録をしたらどうだ?買取に色も付けるし、お得だぞ」
「とか言って非常時には戦力として徴用するんだろ?見ての通り俺は弱くて戦えないから、期待しないでくれ」
「生憎とその細腕には期待してねぇよ。ともかく考えておいてくれ、悪いようにはしない」
うーむ、別に冒険者になりたいわけじゃないんだがなぁ。
期待されていないのは分かっているとして、向こうが一体何を期待しているのかが正直わからない。
俺にとって冒険者はお客様であり資源、自らその領域に入る必要はないだろうけど、冒険者同士の情報を収集するという意味ではありなのかもしれない。
何事も現場に行かなければ見えないこともある、冒険者として彼らの行動や動きを知ることが出来れば何かしらのプラスにはなるだろうけど・・・でも、ダンジョンに潜った先で俺が店をやっていたら絶対にいい顔しないよなぁ。
よし、やめよう!
とりあえず素材を売りさばくという目的は達成、後はポーションを回収して必要な物を買付ければ今日のノルマは終了だ。
時間的には終わっている頃だし、先に貰う物を貰ってしまおう。
そんなわけで再び錬金術師の店へと移動、扉を開けるとそこには一目で上機嫌だとわかる彼女の姿があった。
「おかえりなさい~」
「随分と上機嫌だな、頼んだものは出来てるか?」
「出来たてほやほやよ~、魔素がた~っぷりだったから、すっご~いのが出来たんだから~」
最初に来た時と明らかにテンションが違う。
話し方はまぁ同じ感じだが、多幸感に満ち溢れた感じすらある。
うーむ、ポーション作成を頼んだだけなのに何がそんなに楽しかったんだろうか。
乳を揺らしながら嬉しそうに後ろの棚からポーションを取り出し、カウンターの上に並べていく。
「こっちが普通のポーションで~、こっちが貴方のもってきたのでつくったやつ~。色だけじゃなくて~効果だってすごいのよ~」
「確かに色が違うな。実際にはどれぐらい効果に違いがあるんだ?」
「ん~、魔素の量からすると~、二割ぐらい?」
「二割!?そりゃすごい、良い腕なんだな」
「えへへ~、物がいいからだよ~。でもありがと~」
おっとりした感じにさらに磨きがかかったような話し方。
まぁ話し方がどうであれ、いい仕事をしてくれるのならば文句はない。
本人曰くこれだけの効果があれば、通常銀貨2枚の所を銀貨3枚でも売れるんじゃないかという話だ。
それならば、普通に売るのではなくダンジョンの奥なんかに専用の箱を用意してそこに入れておくのはどうだろうか。
銀貨を所定枚数入れたら開くような仕掛けにしておけば彼女の言う銀貨3枚以上で売れるかもしれない。
ダンジョンの奥に向かう中で傷を負い、撤退するか否かのタイミングで見つけた非常用ポーション。
それが高性能であればあるほど高い値段を出してでも欲しくなるはず。
これは・・・ありだな。
「また薬草が集まったら持ってくるから、その時はよろしく頼む」
「これだけの物が作れるなら~いつでも大歓迎よ~」
「しっかしこの腕があれば他の仕事も引く手あまただろう、急に依頼して大丈夫なのか?」
「出来れば接客はしたくないから~、お仕事貰える方が助かる~」
「接客が嫌いなのか?」
「私は薬が作れたら~それで十分なの~」
ふむ、そんな人もいるのか。
商売上どうしても接客はしなければならないが、彼女的には儲けうんぬんよりも薬を作れたらそれでいいのかもしれないな。
「なら是非また依頼させてくれ。俺はアレス、アンタは?」
「マリアンナ、皆はマリーって呼んでくれるの~」
「それじゃあマリー、またな」
そんなわけで最後の目的も達成、後は必要な物を買って帰ろう。
一度馬車へポーションを運びそれから市場へと足を向けると、そこは至る所に露店が立ち多種多様な物が並んでいる。
食料品の他にも日用品や武具、魔物の素材なんかもあるようだ。
「王都の市場はどっちかと言うと綺麗に整備されているからこういう雑多な感じは新鮮だなぁ」
茣蓙を敷いただけのシンプルな露店をいくつも冷かしながら、面白そうなものがあれば話を聞く。
こういう仕入れこそ商売の醍醐味、稀に価値がわからずに売られているものもあるのでそういう掘り出し物を探すのは案外嫌いじゃない。
「これは何だ?」
「それはバターと砂糖を水飴で煮詰めて固めた固飴だよ。噛むと歯を痛めるからね、口の奥で時間をかけて食べるといい」
「固飴?美味いのか?」
「まぁ一つ食べてみんさい」
見つけたのは四角い形をした小さなお菓子、細長い飴をぶつ切りにしたシンプルな見た目で飾り気は一切なし。
人懐っこい感じの婆さんから一粒貰って口に運ぶと、バターのふんわりした甘さが口の中に広がっていく。
普通なら舌で転がすと少しずつ溶けていくのがわかるのだが、これは転がしても全くなくなる気配がなかった。
ふむ、これは面白い。
「美味いな」
「そうじゃろそうじゃろ」
「いくらだ?」
「1袋銅貨30枚、10袋なら銀貨3枚で1袋おまけじゃ」
「1袋にこれだけ入ってその値段。とりあえず30袋もらおうか」
「そんなに買うてくれるのかい?」
「美味いからな」
この味ならリサも喜ぶだろうし、冒険者受けもいいかもしれない。
ダンジョン内では甘味がよく売れるってのは有名な話、疲れていると甘さを欲するのは冒険者であってもそうでなくて同じこと。
そんな感じでお菓子の他にも、見たこともない魔物の素材や自分用の日用品を買付けているとあっという間に荷物でいっぱいになってしまった。
その都度馬車に戻って荷物を詰め込み再び市場へと戻ることを繰り返していると気づけばもう夕方、大金を手に入れて気が大きくなってしまい少々買い過ぎてしまった感はあるけれど、でもまぁ不要な物を買ったわけじゃないんだし後悔はしていない。
「よし、帰るか!」
夕日を背に馬車を操りながら町を出た時、城壁の横に例の女騎士がいたような気がしたが荷物の山が邪魔をして後ろを確認することはできなかった。
まぁいいか、ダンジョンの調査に来るという話だったしもしかすると向こうで会えるかもしれないし。
そんな軽い気持ちでスルーしたのだが、西日が邪魔をしたせいで彼女がものすごく驚いた顔をしていたことに気づくことが出来なかった。
「あの気配・・・それにあの魔力は魔族のものだったけど・・・まさかね。」




