12.お前は何者だ
振り返った先にいたのは一人の女騎士。
凜とした佇まいが中々に綺麗で思わず見とれてしまいそうになるが、辺境に来てまだ二週間の俺にこんな美人の知り合いはいないわけで。
しかも白い鎧に描かれたエンブレムから察するにただの騎士でないのは明らかだ。
そんなすごい人が俺に一体何の用だろうか。
「なにか?」
「さっき冒険者ギルドに大量の素材を持ち込んだのは貴方でしょう。この辺じゃ見ない顔だけど、どこから来たの?」
「隣村から」
「隣村に貴方のような人がいるっていう話は聞かないけど?」
「つい最近来たばかりですし辺境騎士様はお忙しいですから知らないのも無理はありません」
相手が相手なので丁寧な言葉遣いをしておこう。
辺境騎士とは主に辺境周辺を巡回して治安を維持する国直属の部隊。
主な仕事は魔物を狩ったり諍いを収めたりすることだが、稀にダンジョンに潜ったりもする。
大抵は氾濫を防いだりするためだが、力試しに潜るやつもいるので目的はさまざま。
そもそもその職に就けるって事は少なくとも貴族かそれに近しい身分だけ、稀に平民上がりもいるらしいけど、ともかくここで事を荒立てて商売が出来なくなっても困るので無難にやり過ごすのが一番だろう。
「へぇ、よく私が辺境騎士だってわかったわね」
「純白の鎧、そしてその真ん中に佇む薔薇の紋章。それを見てわからない人がいると思いますか?」
「知ってる?ここに住む人達はわざわざここを辺境と呼ぶことはないの。私達のことを騎士様って呼ぶわ。貴方いったい何者?ここの人じゃないわね、悪いけど身分証を見せて頂戴」
しまった、どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
さっきから一変して明らかに俺を不審者として見ている。
辺境はあまり余所者をよく思わないって聞くしできれば穏便に済ませたかったんだが、仕方ない相手が相手だしここは大人しく従おう。
致し方なくカバンから商店の証を出しその人に手渡すと、驚いた感じで目を大きく見開いた。
「これは商店のエンブレム・・・王都の商人が一体何をしにここへ?」
「さぁ、何故でしょうか」
「ふざけているの?」
「滅相もない。ですが本当になぜここにいるのか私にはわからないのです。私はただ真面目に仕事をしていただけ、にも拘らず辺境行きを命じられ致し方なく流れの商人として隣村で活動させていただいております」
「本当に?」
「騎士様を前に嘘をついてどうしましょう。幸い皆様お優しいので余所者の私にも優しくしてくださいます。ありがたいことに食べて行ける程度の仕事も見つかりました」
いつもより丁寧に、出来るだけ怪しまれないよう言葉を選びながら返答する。
それでも怪しんでいる感じは変わらず、睨みつけるように圧力をかけてくる。
一般人なら怯えてしまうかもしれないが、エリザベート様の圧力を考えたら辺境騎士など恐るるに足らない。
とはいえ、残念ながら魔力をもらってもあの人のように強くなれたわけではないので大人しくしておこう。
「なるほどね。そしてその付近で見つかった新しいダンジョンの素材を売りに来たと。ダンジョンについては私もよく知らないの、詳しい話を聞かせてもらえるかしら」
どうやら今の話だけで俺の事を信用してくれたようだ。
なんともちょろ・・・じゃなかった、素直な人のようで少しだけ肩の力が抜ける。
これがもし王都なら怪しい人間は問答無用で詰め所にしょっ引いて厳しい尋問をされてもおかしくない状況なのだが、辺境ともなるとそういうよからぬ事を考えようなんて人がいないのかもしれない。
ひとまずダンジョンの場所や買い取った素材の種類から推測される魔物について軽く説明、自分は商人なので中に入っておらず構造などは詳しく知らないという事にしている。
「あの街道は何度も通っているけどそんなダンジョンがあったなんて知らなかったわ。なんで気づかなかったのかしら」
「さぁ、私が聞いた話では突然出来たという話ですが、何分ここに来たのは最近なので」
「まぁいいわ、とりあえずダンジョンについてはこっちでも調べてみるからあまり近づくんじゃないわよ」
どうやら冒険者ギルドとしては別に騎士団も調査をするという事らしい、もしかしたら忙しくなるかもしれないぞ。
「見ていただくとわかるように戦いはからっきしでして」
「にも拘わらずダンジョンは儲かるからって護衛を雇って無理に潜る商人がいるのよ。そんなことして護衛にもしもがあったら生きて帰れないんだから、くれぐれも気を付けなさい」
「助言、感謝します」
どうやら聞きたい情報を仕入れて満足したのか、その人はご機嫌な感じで雑踏の中に消えてしまった。
ふむ、辺境騎士か・・・。
別にどうという事ではないけれども、もしかしたら新しいお客様になってくれる可能性もあるので少し調べておいてもいいかもしれない。
冒険者ギルドに戻るにはまだ時間があったので、その間にこの街と辺境騎士についての情報を収集する。
交易拠点とまではいかないがそれなりに繁盛している店が多く、人の流れもそれなりにある。
ギルドや商店の他、行商人向けの露天もあるそうで、珍しいものを探すならおすすめなんだとか。
食べ物も潤沢にあり辺境の割には比較的裕福な感じだが、それもそのはず大きめのダンジョンが別にあるらしい。
なるほど、だから冒険者ギルドが栄えていたのか。
ということはやり方次第で客を呼び寄せることは可能、辺境騎士団のおかげで治安もいいからまだまだ発展する可能性は高い。
つまりうちのダンジョンもやり方次第ではまだまだポテンシャルがあるってことだ。
その後も色々と聞き込みを重ね情報を集めているとあっという間に時間が経ってしまった。
急ぎ冒険者ギルドに入ると、受付嬢が驚いた顔をして慌てて裏に引っ込んでしまう。
何事かと思っていると、少し遅れてドスドスという足音を響かせ例のハゲ頭のオッサンが飛び出して来た。
「おいお前!」
「悪い、色々見ていたら少し遅れた」
「いや、それぐらいは構わないんだが、それよりもあれは一体なんなんだ?ブラッドベアの毛皮なんて、まさかやつが出たのか?」
「ん?あぁ悪い、それは前に持っていたのをついでに査定に出しただけだ」
「なんだよ心配させやがって。でもまぁカイネ様の手を煩わせずに済んだのはよかったか」
ほっと胸を撫で下ろすオッサン、確かに普通の冒険者じゃ太刀打ちできない相手なだけにそんなのが出たとなれば騒ぎにもなる。
だが、そんなヤバいやつをリサは特に苦労もせず倒したわけだろ?
そう考えると魔族ってのはやっぱり強いんだなということを再確認させられる。
あんなにへっぽこでも魔族は魔族だ。
「ん?カイネ様?」
「騎士様だよ。さっきまでここにいてお前を探しに出て行ったが会わなかったのか?」
「いや、話はしたぞ。そうかそんな名前なのか」
「カイネ様を知らないとかお前一体何者だ?」
「何者ってただの商人だが?」
名前を知らないだけでこの反応、うーむそんなに有名人だったのか。
あの美貌ならファンがいてもおかしくはない。
王都に行けばあれぐらいの美人いくらでもいるが、この辺じゃ見かけないのかもしれないなぁ。
「まぁ今後もここに来るなら名前ぐらいは覚えておけよ。美人だしなにより尻もデカい」
「それはわかる」
「なかなか話のわかるやつじゃないか。さて、それじゃあ仕事の話に戻ろうぜ。良い加減にしないと後ろからすごい目で睨まれているからな」
オッサンの後ろでは先程の受付嬢が恨めしそうな顔でこちらを見ている。
女性の恨みを買うと後々怖いのでこのぐらいにしておこう。
さぁ、お楽しみの買取金額一体いくらになったのやら。




