第5話 移動☆しながらおしゃべり!
キッチンカーという謎の乗り物に乗って、
我が辺境伯領最北の大きな街グラナスへと向かうのだが、
車内で前方に座る公爵家お嬢様と本格的にお話をすることに。
(僕の隣の聖女ベティちゃんは、まだほとんど紹介を受けてないからね)
ということで、
改めてアンお嬢様が自己紹介をする流れに、
わざわざ振り向いて僕らの方へ話し掛けてくれる。
「では~、もう一度改めまして~、
ミットフォード公爵家の五女で~、
ジルアン=フォン=ミットフォードと申します~」
金髪の可愛らしいお嬢様、
それでいてちょっとお姉さんな感じがする、
だから僕も自然と『アンさん』と呼んでしまっている。
(逆に銀髪聖女の方は妹タイプだ)
だから『ベティちゃん』と呼んでしまう、
この二人が僕の婚約者……いやほんとびっくりだ、
でも話は通ってるし、何より向こうはすんなり受け入れてくれている感じ。
「それで~、今回のこの結婚は~、いわば政略結婚でして~」
「うわっ、そこ、はっきり言っちゃうんだ」「公爵家では~、普通のことかと~」
「ま、まあそうなんだけどさ」「ジャック様も政略結婚では~」「それを言われると……」
なんとなく上手い具合に受けた説明だと、
辺境伯家が公爵家に婿に出るという実績がウチには重要な訳で、
いや、実際に公爵家に入る訳ではないというか、そのあたりはゴニョゴニョっていうやつで。
(一応、確認するか)
無粋かも知れないけど。
「それでわたくしは~」「ええっと、アンさんはウチに嫁入りすることが大事なんだよね」
「はい~、豊富な資源や農作物を~、大量に産出する辺境伯家に対する~、実績としてですね~」
「つまり僕は公爵家に婿入り、姫は、いやアン嬢は辺境伯家へ嫁入り、という実績さえあれば」「あとは自由です~」
むしろ、それさえ済めば用済みと。
「で、僕らの領地とかは」「そんなものは~、ありませ~ん」
「だよねえ」「ですから~、冒険者として生計を立てていければ~」
「正直言って、とても冒険者には見えないよね」「でも~、クエストさえこなせば~」
こんなゆるふわ公爵令嬢、
絶対に依頼する側にしか見えない。
「まあ僕も、行き場が無ければ冒険者として養う覚悟はあるにはあったけど」
「今はわたくしのお話です~」「あっごめん、続けてどうぞ」「貴族の世界は~、もうこりごりです~」
「色々とあったんだね」「ですから~、嫁入りはすなわち貴族卒業ですね~、もう普通の~、名前もただの『アン』になろうかと~」
うん、僕ももう単なるジャックになろう、
とはいえ辺境伯領を出るまでは、まだちょっと利用するかもねっと。
(すれ違った馬車の馬が、すんげえびびってる!)
あっ、もうミムノ村だ、
これあっという間にグラナスに着いちゃうぞ。
「公爵家の方はどうなの、ほら、姫にはこんな能力、あんな能力が」
「召喚はナオミで~、私の従者、単なるお付きメイドというだけですよ~」
「だったら尚更」「嫁に出るまでは~、そういった能力は隠していましたから~」「この車も?」「はい~」
ということは、
むしろ嫁に出されるのを待っていた、まであるな、
あんな能力やこの車とか、知ってたらそれこそ陛下が欲しがってもおかしくない。
(公爵家に居れば、断れなかっただろう)
ようは半分、
冒険者になるための家出みたいなものか、
その行き先がたまたま僕だったと、運が良いって言っていいのかな、僕が。
「あっ、あの、あのぉ」
「ベティちゃんどうしたの」
「ここっ、村ですよねぇ」「うん、そうだけど」「おっ、おトイレをっ」
あっそうか、
森から逃げるようにやってきて、
その後にお茶会だからね、する暇とかなかったんだろう。
「では~、ナオミ~」
「はい、あの大きな屋敷の横にでも」
「村長さんの家だよね、じゃあ僕も降りてひとこと、って僕のことわかるかな」
身分証があるから大丈夫か。
「……はい、もう降りて大丈夫です」
ベルトを外して後ろのドアから降りる、
まずは僕が村長さんの家へ、確か名前は……!!
「すみませーん、ルイドさ~ん」
「……はいはい、どちら様でしょうか」
「あっお手伝いさん、ジャック=リーンダースです、トイレを」「あちらです」
ベティちゃんが突っ込むように入って行った、
そして遅れてやってきた村長さん、久しぶりだけど憶えているかな?
「……おお、確か領主様の」
「はい四男です」「うっすら憶えておりますぞ」
うっすらかよ!
「すみません、ウチの聖女がトイレにって」
「……聖女様?! でしたらお話が、いえ、お願いが」
「なんでしょなんでしょ」「ウチの村でひとり、重病人がおりまして」
奥へ案内されると、
息も絶え絶えな子供が苦しそうに汗だくになっている、
それを看病するお母さん、とお婆さんは僧侶かな服的に。
(あっ、後ろからアンさんも来た)
降りて来ちゃったんだ。
「まあ、これは大変」
「ルイドさん、彼女は公爵令嬢で僕の婚約者で」
「それよりも、この子がもう……どうか聖女様の魔法で」
切羽詰っているらしい。
「ええっと、確かに普通の聖女なら回復魔法である程度は、能力差にもよりますが」
「先ほどの聖女様は」「おそらく魔力は心配ないです、ただ」「ただ?」「魔法が使えないみたいで」
「……魔法の使えない聖女様は、ではいったい何が出来るというのですか!」「いや怒らないで下さいよ」
気持ちはわかる。
「治療できますよ~」「アンさん?!」
「ほ、ほんとうですかっ!!」「ベティ様の魔力があれば~」
「ふうっ、助かりましたわ」「ベティちゃん、お礼にこの子を治そう」「無理ですわ~」
あれ、アンさん出て行っちゃった。
「何か方法があるみたい」
「私はっ、唱えられる魔法がありませんが~っ」
「でも聖女だよね?」「魔力量はそうですねぇ~~」
重病の子供の様子を見るベティちゃんに、
お母さんがすがるような目で訴えかける。
「あのっ、お金は出せるだけ出しますからっ」
「そう言われても~っ、私で出来る事ならぁ、何でもしたいのですがぁ~」
「……お待たせいたしました~、ナオミを連れてきました~」「では早速、治療を始めましょう」
えっ、ナオミさんが治すの?!?!?!




