有名人
翌日、俺は日が昇る前に目が覚めた。
寝巻きがジトッと濡れている。
今日で、かんづめと出会って1週間が経つ。
そっとかんづめを見る。
こいつは、俺の気も知らないで、すやすや眠ってる。
かんづめの寝顔を見ていると、考えていることが馬鹿らしく思えてきた。
でも、それで、いい。
俺は、かんづめの布団を掛けなおした。
朝。
いつもの教室に着き、扉を開ける。
すると、一気に周りの視線が集まる。
昨日の戦闘で暴れすぎたか。
こんなにジロジロ見られると動きにくい。このままじゃ任務に支障をきたすかもしれない……助けるべきじゃなかったか?
周りの視線から逃げるように、教室の隅の方に目をやると、昨日リンチされていた新入生と目が合った。
新入生は、俺を見るなり、駆け寄ってきた。
「昨日はありがとうございました!」
開口一番、彼はそう言った。
「大したことはしていない。俺は自分の力を過信して敵に突っ込んで、返り討ちにされたんだ。氷室がいなかったら、俺は死んでいた」
「いやでも!助けようとしてくれただけでも十分です!本当にありがとうございました!」
彼は満面の笑みを浮かべて去っていった。
まぁ……いいか。
今さら考えても、もう取り返しがつかない。
教室は、昨日の傷こそ残っていたが、血痕は綺麗に掃除されていた。そして、椅子が5つ消えている。
治ったはずの傷が痛んだ。
辺りを見渡すと、椅子に座っている柳が目に入った。俺が柳に近づくと、周りがひそひそと騒ぎ始める。
周りと俺達の間に、明確な線引きが出来たことを知った。
「よう。調子はどうだ?」
柳が体をこちらに向ける。その目はとても鋭い。
だが、俺を見るなり、すぐに元の笑顔に戻った。
「なんだ君かぁ。私はずっと元気だよ〜」
「それは良かった。何か警戒していたようだが、何かあったのか?」
「あぁ〜〜昨日、昼休みに変な人に絡まれちゃったから、返り討ちにしてたんだぁ」
「ん?なら警戒する必要はなくないか?」
「でもさぁ〜〜。ああいう人たちってプライド高し、負けっぱなしで終わるの嫌がりそうじゃない?」
「あぁ…確かに」
柳はあっけらかんとしているが、こいつは輩を倒し、さらに仕返しまで警戒している……手慣れている。明らかにただの生徒じゃない。だが、現状俺と関わってくれるのはコイツしかしない。
などと考えていると、扉が勢いよく開いた。
そこには、いつにも増して上機嫌な氷室がいる。
「よう。お前ら。ホームルームやるから座れ」
氷室の1言で、全員が素早く椅子に座った。
「まずは出席をとる」
氷室が名簿の名前を読み上げ、呼ばれた生徒は返事をする。
出席確認が終わると、氷室が早口で話し始めた。
「今日はとっておきの連絡がある。今日から一ヶ月後の5月14日に、最強決定トーナメントが開催される。もれなく全員参加だ。いい結果を残したら、クラスが上がるかもしれないぞ?」
"クラスが上がる"氷室がこの言葉を発した瞬間、空気がピリついた。やはり、クラスはこの学校で生活する上でとてつもなく大切なのだろう。
ホームルームが終わり、授業が始まった。
肝心の内容はというと、異能の歴史だ。
長いこと裏社会にいた俺にとって、自分の名前よりも聞き馴染みのある言葉が飛び交う授業は、退屈以外の何物でもなかった。
大体、何でもDTAが何とかしているという認識が違うのだ。ぽっと出の組織が、すぐに活躍できるわけ無い。それくらいすぐに分からないものかねぇ。
ほかの在校生も、もう聞き飽きた。といった顔で黒板を眺めている。もう完全に時間の無駄だ。
こんなことよりも、戦闘訓練を多く入れたほうが良い。学園側は、ランク制に囚われすぎているのかもしれない。
退屈な授業を終え、放課後。
俺とかんづめは、監視カメラの死角を調査している。
俺は屋外。かんづめは屋内だ。
監視カメラの死角かつ、人目のつかない場所は、事前にマークしている。あとは確認するだけだ。
俺は、マークした場所に行き、あるものを確認する。
すると、結構な頻度で、10センチ程の丸いくぼみがいくつも見つかるのだ。しかも、間隔も、量も、同じだ。
……やはりか。
昨日、俺はある仮説をたてた。
10センチ程の丸いくぼみ。または、枯れた草。これが、人目につかない場所だけにある。
この学校のことだ。暴力程度、隠す必要もない。
しかし、こいつは隠している。隠すだけの理由が、そこにはある。
仮説を確かめるため、俺は周辺を見て回った。
実際、道中で、くぼみはあまり見かけていない。
明らかに、人目につかない所で能力を使っている。
あまりにもスムーズだ。
浮かれていては、足元をすくわれる。
沙織の時みたいに。




