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詞を継ぐ者  作者: 城門
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十四章

 並べられたベッドの全てに人が横たわっている。そのいずれもまだ幼い少女だ。それも全員同じ顔をしているように見えた。どこかで見覚えのある顔だ。スタンは眉を寄せながらベッドの向こうに目を向ける。ステンレス製のベッドが一台置かれている。いや、あれは手術台だろう。

「この子たちは――」

 スタンは再び少女たちに視線を戻して呟いた。思い出したのだ。彼女たちはさっきの部屋に置いてあった写真に写っていた少女であり、そしてスタンをこの建物まで案内してくれた少女に違いない。

「……どういうことなんだ?」

 首を傾げていると、ふと背後に人の気配を感じた。振り返ると、白衣を着た男が呆然とこちらを見つめて立っていた。

「いったい、ここで何を?」

 二人の声が重なった。スタンはじっと男を見据えて息を吐く。白衣を着た男は人の良さそうな顔に笑みを浮かべて少し首を傾げた。それは彼がするからこそ、可愛らしいと思える仕草。目の前に立っている男は、前の町で出会った詞使いのローレンだった。

「――とうしてここにあなたがいるんですか」

「それはこちらが聞きたいですね。この辺りには近づくなって言いませんでしたっけ?」

 ローレンは微笑む。

「あいにく、ぼくは人の忠告を聞くほど素直ではないんですよ」

 スタンは警戒しながらローレンから距離を置いた。

「なるほど。もう少し強く注意しておくべきでした。しかし、この地下都市を見られただけでも困るというのに、この部屋まで見られたとなると――」

「どうするんです?」

 ローレンは答えず、顎に手を当ててスタンを見つめてくる。じっくりと頭から足の先まで。その表情は微笑んでいるというのに、ひどく不気味に見えた。

「町であなたを治療した時にも思ったんですが、あなたのパーツは丁度いい大きさなんですよね」

「パーツ? ……何のことでしょうか」

「侵入者め! どこにいる」

 スタンの声に被って隣の部屋から怒鳴り声が響いてきた。ローレンは一度後ろを振り返り、再びスタンに視線を戻す。

「ルイスですか。ずいぶん怒ってますが、彼に何かしたんですか?」

「別に。ただ、見つかって殺されかけたので臓器まみれの気持ち悪い部屋に閉じ込めてきただけです」

「そうですか」

 そう言ってローレンは抜け穴を通って向こうの部屋へ戻って行った。スタンもこれ幸いと後に続く。この抜け穴しか出入口のない部屋よりは、すぐに逃げ出すことができる向こうの部屋の方が戦いやすい。

 抜け穴を通り抜けると、ローレンが腕を組んでルイスと向かい合っていた。

「どうも、ルイスさん。僕の部屋でいったい何をしているんでしょうか」

 ローレンが穏やかな口調で言う。ルイスは顔を強張らせてローレンを見つめていた。大きく見開いた目、硬直した頬の筋肉、顔色が見る間に白くなっていった。

「だ、代表。いらしてたのですか」

 さっきまでの勢いは消え、震えた声でルイスは言った。

「さっき帰ってきたんですよ。で、あなたはここで何を?」

「あの、し、侵入者を発見したので、排除しようと」

「ふうん。侵入者。――この子のことかな」

 ローレンはスタンを振り返る。

「そ、そうです。こいつが、あの部屋に入っていたので、それで……」

「それで? まさかその部屋で戦った、なんてことはないですよね?」

「い、いえ、あの。しかし、こいつが……!」

「なに言ってるんですか。先に手を出してきたのはあなたじゃないですか。ぼくはただ逃げ回っていただけです」

 思わずスタンは口を挟んだ。するとルイスは鬼の形相でこちらを睨み、すぐにその顔を俯かせた。

「だ、そうですが?」

「そ、その。つまり……申し訳ありません」

 ルイスは言い訳を諦め、膝をついて床に額をこすりつける。

「つまり君のお得意である針攻撃で、あの部屋をメッタ刺しにしたということですね。保存していたものは?」

「あ、それなら床に転がってると思いますよ。ほとんど瓶は割れてますけど」

「余計なことを!」

 ルイスは怒鳴ってスタンを睨む。そんな彼をローレンが冷たく一瞥した。

「そうですか。困った人ですね。あなたは一つのことに集中すると、周りが見えなくなってしまいますからねぇ……」

「ほ、本当に、申し訳ありません」

 ルイスは床に頭をつけてローレンに許しを請う。ローレンは困ったような笑顔を浮かべて考える素振りを見せた。

「んー、許してあげたいところですが、そうもいきませんね。あの部屋にある臓器、けっこう苦労して集めたんですよ。苦労が泡と消えてしまったわけです。あなたには罰を与えなかれば」

「わかっております。どんな罰でもお受けする覚悟です」

 するとローレンは微笑んだ。

「聞き分けのいいところは好きですよ。では罰として、消えてもらいましょうか」

 その途端、ルイスは顔を上げて両手を大きく頭を振った。

「そ、そんな! 待ってください! 私は必ず、あなたのお役に――」

「|死≪シ≫・|無≪ム≫」

 ルイスは最後まで言葉を言い切ることもできないまま、その場から消えてしまった。ローレンの言葉の通り、跡形もなく。スタンは目の前で起きたことに声を出すこともできないまま、呆然と立ち尽くしていた。

「さて、と」

 ローレンは何事もなかったようにスタンに視線を移す。

「……今のは、あなたの仲間じゃなかったんですか」

「――仲間?」

 ローレンは鼻で笑いながら首を振る。

「違いますよ。僕に仲間などいない。勝手についてきているだけです」

「けど、あのレイって人はここに国家を築くと……」

「ねえ? なんか、彼らの中ではそういうことになってるみたいで。僕も君に話を聞いて初めて知ったんですよ。本を集めてくれるので、勝手にやらせてたんですけどね。まさか、そんな話になってるとは」

 スタンはローレンの後ろに視線を向けた。静かにドアが開いていく。

「つまり、彼らを利用しているだけだと? あなたは国家には興味がなく、ただ本が欲しいだけ?」

「ええ、そうですよ。だいたい国家なんて作ってどうしようというんでしょう。人間なんて、放っておいてもすぐに滅亡するのに。国を作って前文明の愚かな歴史を繰り返して、いったい何の意味があるのか、僕には理解できません」

「そんな……」

 ローレンの後ろで小さな声がした。そこには二人の男女が愕然とした様子で立ち尽くしていた。下の部屋にいた女と初老の男。女の方には見覚えがある。レイを倒した遺跡で襲って来た女だ。男の方はおそらく少女を運んでいた者だろう。

「おや、いたんですか。いけませんねえ。皆さん、部屋に入るときはノックをして下さいよ」

 今までと変わらない口調でローレンは二人に話しかける。

「代表。今の話は本当なの?」

「ええ、パティさん。もちろんですよ。」

「では、我々はいったい何のために今まで――」

「さあ。自分たちのためでは? 理想がどうのとか言ってましたが、ようするに自分に強い力が欲しいだけなのでしょう。ねえ、ヒューシさん」

「では……では、あなたは何のためにこの遺跡地帯に暮らしておられるのか?新しい世界を作るためではないのですか!」

「何のためって――」

 ローレンは一瞬、表情を曇らせた。

「別に、あなたに関係ないでしょう」

 再び笑みを浮かべてローレンは言う。しかし、その笑みはさっきとは打って変わって、とても冷ややかだ。

「つまり、あんたは最初からわたしたちのことを騙してたってことね。馬鹿にしやがって」

 パティはそう言うと、ポケットからあの奇妙な円盤を取り出した。

「円盤ですか。くだらない」

「くだらないかどうか、喰らってな!」

 パティが五枚の円盤を放り投げると、それらは宙に浮かんだまま静止した。

「|焔≪エン≫」

 パティが詞を唱えると、円盤はそれぞれ激しい炎に包まれて回転し始める。間髪いれずに彼女がローレンへ右手を振るとそれらは勢いよく飛んでいった。

 ローレンは円盤の動きを見ながら、ゆっくりとした動きで右手を前へ出す。すると円盤は炎をまとったままローレンの前で静止した。

「なっ、なんで……?」

 目を見開いて驚くパティにローレンは笑いかけた。

「当然でしょう。これ、誰が作ったと思ってるんですか」

 そう言ってローレンは右手の人差し指を少しだけ動かす。すると円盤は炎を失い、呆気なくその場に落ちて動かなくなった。

「ならば、これはどうだ!」

 ヒューシはそう叫ぶと腰にぶら下げていた鎖をローレンに投げつけた。その鎖はまるで蛇のように動きながら、ローレンの顔へ飛び掛かる。

「|停≪ジョウ≫」

 静かな声と共に鎖は動きを止めた。

「なんだと……!」

「あなたお得意の攻撃でしょうが僕には効きませんよ。それらはすべて僕が造ってあげた特別な武器。造り主である僕に効くわけないでしょう」

 ローレンが穏やかな口調でそう言った瞬間、二人は敗北を悟ったのだろう。その表情が凍りついた。

「ま、待ってよ! 今のは冗談、冗談よ。本気であんたにケンカ売ろうなんて思ってないって。もう、あんたの周りから消えるからさ。許してよ、ね?」

「そ、そうだ。すぐにこの遺跡から出ていく」

「うーん。……そうですね。消えるというのはいい考えです。ただし、この遺跡からではなく――」

 ローレンの顔には変わらず笑みが浮かんでいる。

「この世から、ね」

「や、やめっ……!」

「|滅≪メチ≫」

 詞が発動し、慌てて逃げ出す二人の周りに闇が生まれた。

「やめてくれ! たすけ――」

 ヒューシの悲鳴が聞こえる。パティはもう声を出すことができないようだ。二人の体は闇に捕まり、ズルズルと引きずり込まれていく。そして彼らは闇と共に消えていった。


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