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詞を継ぐ者  作者: 城門
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十二章

 スタンは少女を追って走り続けていた。しかし、いくら走っても追いつく気配がない。

「なんて足の速い子なんだ。ぼくの足が遅いのかな」

 苦笑しつつ、スタンは追いかける。少女は入り組んだ路地へと入っていく。細かく角を曲がっていく少女を必死に追う。そうしながら、彼女ばかりを見て走っていたせいで一人で元の場所に戻れそうにないと気づく。

「ねえ、君はどこに行こうとしてるんだい?」

 このままでは埒が明かないと、スタンは少女の背中に声をかけた。すると、彼女は唐突に立ち止まって振り返った。その顔には笑顔が浮かんでいる。

「ぼくをどこかに案内してるの?」

 彼女は小さく頷き、再び走り出す。やはり追いかけるしかないようだ。スタンは一つため息をついて彼女を追った。

「――あれ?」

 しばらく追いかけっこが続いた後、彼女の姿は忽然と消えてしまった。たしかにこの角を曲がったはずなのだが、狭い路地に少女の姿は見当たらない。

「どこ行ったんだろう。……というか、ここはどこ?」

 すっかり迷子状態である。スタンは困り果てて腰に手をあて、なんとなく目の前の建物を見上げた。他の建物と比べて少し変わった形をしていると思う。窓の数からすると三階建てだろう。

「ここに連れてきたかったのかな……」

 スタンは一人呟きながら入口の扉を少し開けてみた。中は薄暗く、様子がよくわからない。

「しかたない。入ってみるか」

 浅く息を吐いてから扉の向こうへ足を踏み入れる。その途端、スタンは思わず眉を寄せた。妙な臭いが充満している。鼻に手を当てながら、慎重に中を探索する。一階にドアは全部で三つ。その三部屋を一つずつ確認していくが何も変わった物はない。というよりも、中には何も置かれていなかった。

「ここが一体なんだっていうんだろう」

 スタンは入り口に戻って辺りを見回した。すると廊下の向こう、突き当たりの壁に妙な違和感を覚えた。

「なんだ――?」

 その壁に手を当ててよく調べてみると、わずかな隙間が見える。ひび割れではない。壁に両手をついて押してみると、それは両開きのドアのように音をたてて開いていった。

「……通路がある」

 暗い通路の先で、ぼんやりと明かりが漏れている。誰かいるのだろうか。スタンは少し迷ってから、慎重に通路へ足を踏み入れた。


 一方、ニックとエリックは建物の中で男を見失っていた。

「なあ、どうするんだよ?」

 言いながらエリックはニックを見上げた。ニックはため息をつきながら目の前にあったドアに手をかける。

「ヨー、しょうがねえから片っ端からドア開けてくぞ」

 そう言って開けたドアの先には何もない。

「はずれか。次、いくぞ」

 ニックは舌打ちすると、次のドアを開ける。開けては移動し、また別のドアを開けていく。

「……なあ、これってかなり要領悪くねえか? しかも誰かに見つかる危険も大きい」

 何個目かのドアの前で、エリックが辺りを警戒しながら言った。

「そんなこと言っても、おまえの自慢の鼻が効かないんじゃ他にやりようがねえだろ」

「効かないんじゃねえ。わからないだけだ。ここ、いろんな臭いが充満してるから」

「どっちでも同じだろ。っと、ここも違うみたいだな」

 ニックはそう言って、次の部屋の前へと移動した。

「なあ、一体ここに何部屋あると思ってんだ? こんなことしてたら、日が暮れちまう」

 呆れたようにエリックは首を振った。ニックはそれを無視して次のドアを開け、そして動きを止めた。

「どうしたんだ?」

 エリックは部屋を覗き込み、そして同じように硬直した。

「し、閉めろ! 今すぐに!」

 エリックの叫びにニックは勢いよくドアを閉めた。しかしドアは中からすごい力で押し戻されてしまう。

「ヨー! 犬っころ、手伝え。押さえろ!」

 ニックは体全体でドアを押さえながらエリックに怒鳴った。エリックも慌てて体をドアに押し当てる。

「む、無理だろ! 忘れてるとは思わねえが、俺は犬だぞ! 押さえるのは無理っ」

「そ、そうか。忘れてたぜ、犬っころ」

「犬っころって呼んでるくせに!」

「じゃ、じゃあ、一、二、三で逃げるぞ!」

「よしきた」

 一人と一匹はお互いに顔を見合わせた。そして、ゆっくり数え始める。

「いーち、にー、さん!」

 同時にドアから離れる。するとドアは壊れんばかりの勢いで開け放たれた。

「き、きたぞ!」

 後ろを振り向いたエリックは恐怖の声を上げる。その部屋からウジャウジャと出て来たのは、途中の遺跡で出くわした、あの正体不明の実験動物たちだった。それらはニックとエリックの姿を認めると、奇怪な声を上げながら走ってきた。体のバランスはひどく悪いにもかかわらず、恐ろしく足が速い。

「追いつかれるぞ!」

 ニックが悲鳴に近い叫び声を上げる。

「もう、こうなりゃ戦うしかねえだろ。頑張れ!」

「あ、ヨー! てめえ、逃げんな!」

 全力で逃げるエリックを追うが、さすがのニックも犬の足には敵わない。

「ち、ちくしょ」

 ニックは覚悟を決め、走りながら振り返った。いつの間にか数が増えた動物たちは、奇声を上げながら追ってきている。すでに通路は彼らに埋め尽くされ、ある者は壁を這い、ある者は天井を走っていた。

「無理っ!」

 叫んだニックは、およそ人の速さとは思えないスピードで建物から逃げ出した。建物の外には、安心したのか走るスピードを緩めたエリックの姿があった。彼はニックに気づくと驚いたように尻尾を上げる。

「あ! なにしてんだ、戦えよ」

「無理言うな。数増えてんだぞ。見ろ!」

 言われて振り返ったエリックは小さく頷く。

「たしかに、すげえ数だな。――囲まれてるぞ」

「――え?」

 エリックの言う通り、いつの間にか周りは彼らに取り囲まれていた。エリックたちは足を止める。実験動物たちは、その獣の体に埋め込まれた顔に笑みを浮かべて少しずつこちらとの距離を縮めてくる。

「ヨー。しょうがねえからやるぞ。いいか、犬っころ。てめえも犬なら、その牙で戦え!」

 ニックは言いながらグローブを取り出した。

「わかったよ。できるだけやってみるか」

 エリックはため息をつくと、牙を剥いて相手を威嚇し始めた。


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