お金を稼ごう(2)
それから俺達はディンに言われて平屋を出ると、その周りにある少し開けた場所に集まった。
「秘技・幻召魔身!!」
ディンが魔力を練り、秘技を発動した。
「おっ、幻召魔身か。とうとう使える様になったんだな」
「あれ? クウゴさん、ディンさんのこの技知ってるんですか? あの時クウゴさん居なかった筈…」
「100年前見たからね。俺、コイツと何度も殺し合ってたし…」
秘技・幻召魔身。四魔将の幻影を呼び出して使役するという、ディンの秘技の一つ。所謂再生怪人を呼び出す技だ。
そうして今回、呼び出されたのは、
「クウゴは良く知っているであろう…四魔将が一角、『魔創腕のフェレス』だ!!」
「いや、よりにもよってソイツかよ」
魔創腕のフェレス。当時の魔王軍の中でも屈指のマッドサイエンティストだ。
あらゆる生物を組み合わせて新たな生物を作ったり、それらの技術を利用して自身の体さえも改造し、その強化したボディと奴が従えた改造生物達で俺達と戦ってきた四魔将の一人だ。
当時は魔王軍の生体兵器を作る研究所を持っており、捕まえた人間や動物で新たな兵器を作ろうとしていたところを俺達が乗り込み、フェレスは俺に討伐され、研究所は破壊したのだ。
「こうして思い返すとコイツ、ルクスブルグや今のハマドウと同じ位に業が深くないか…? そこんところどう思ってるんだ? ディン」
「あんな奴らと一緒にするな!! 確かに此奴は行き過ぎた所はあったが、根は良い奴なんだ…!!」
「根は良いって、何の擁護にもならない文句だろそれ…」
「身内に甘い駄目な親みたいな言い分ですね…」
「と、兎に角!! 此奴の能力は使えるから見ていろ!!」
フェレスの幻影は両手を前に翳す。すると、目の前に何かの姿が少しずつ現れてきた。
「フェレスの幻影は、過去に作った魔獣の幻影を呼び出す事が出来るのだ。最も、あくまでこれも幻影だから、幻召魔身が解除されると消えてしまうがな」
ディンが説明していると、それの全体が姿を現した。
リインと同じ位の巨体。右に三つ、左に二つの眼球がギョロついている顔。だらだらと止め処なく唾液が滴っている下顎。なぜか四本ある腕。羽虫の様な半透明の翼。ブヨブヨした鉛色の皮膚。大きな尾の側面に無数に生え蠢いている短い触手。
視界に入るだけでも生理的嫌悪感を感じずにはいられない、異形という言葉では片付けられない程に醜悪な怪物がそこにいた。
「紹介しよう、我がペットの『チャッピー』だ!」
「ひっ…!!」
チャッピーを見たソニアは、見るや否や引き攣った表情を浮かべ、俺の背後に隠れてしまった。当然だ。アレを見たら誰だってこうなる。
「相変わらずキモい造形だな….」
「貴様!! 我の可愛いペットに何て事言うのだ!!」
ディン目線では当時から、この化け物が可愛いらしい。ディンの美的センスがおかしいのか、はたまた魔族全体の美的センスがこうなのか、あの頃からつくづく疑問に思う。
「実に懐かしい…我の誕生日にフェレスがプレゼントしてくれて、あの頃はずっと一緒だった…」
ディンはそう言って、チャッピーの頭を優しく撫でた。その表情はかつて俺も見た事が無い程に慈愛に満ちていた。
「あれ? でもそのチャッピーは幻影なんですよね? オリジナルのチャッピーはどうなったんですか?」
ソニアが何気なく尋ねると、ディンのチャッピーを撫でる手が止まった。
「…我が魔王城での戦いで、城に乗り込んできた者に討たれた。そして、その乗り込んだ者とは…」
(…あ、やべ)
「貴様だぁぁぁぁ!!!! おのれぇぇぇチャッピーの仇ぃぃぃ!!!!」
涙を浮かべながら激昂するディンが、俺の胸倉を掴み激しく揺すってくる。
そう、チャッピーを討ったのは確かに俺だ。あの後ディンがその事で逆上し、星七つの滅界七星を放ち、魔王城は消し飛んだのだった。俺達は帰還魔術で逃げたが。
こっちに再び来てから聞いた話では、魔王城跡には今でもその痕である大穴が残っているとの事。当時の争いの凄惨さを物語る重要な文化遺産となってるらしい。
しかし、ペットの恨みで逆上した魔王自身が消し飛ばしたという顛末を公表したら、歴史学者達も頭を抱えるだろう。
「憎しみを乗り越えるんじゃ無かったのか?」
「憎いモンは憎いんだおのれぇぇぇ!!!!」
「というかディンさん、このチャッピーで何をするつもりなんですか?」
「はっ!! そ、そうだな…このチャッピーは力も強いしとても賢い、そこで!! このチャッピーに芸を仕込み、サーカスを開くのだ!!」
「は?」
この化け物を街に入れて、仕込んだ芸を見せるという訳か。成る程、正気の沙汰ではないと俺は思った。
俺は鞘に魔力を込め、イリスの柄に手を掛け、
「ふん!!」
抜剣し、空を奔った斬撃がチャッピーの首を刎ねた。
「チャ、チャッピィィィイ!!!!?」
こうしてディンは、二度目のチャッピーの死を目の当たりにする事になった。




