魔王と魔王(2)
「…愚かな男だ」
突如、偽者が振り下ろした剣が、我の眼前で止まった。
「!! これは…!?」
それに一番困惑していたのは偽者本人であった。そして、その身体の自由は既に失われた。
偽者の身体から、無数の『糸』が幾つも伸びており、更にそれと同じ物が、いつの間にか辺り一面に張り巡らされていた。
「もう貴様は何も出来ん。何故なら、全て『奴』の思うがままなのだからな」
我がそう言って指差すと、偽者はその方向に目を向けた。
そこには、一人の女魔族が居た。その両手の指先には、偽者から伸びている糸と同じ糸が繋がっていた。
「秘技・幻召魔身、四魔将はイエグロスだけでは無い…奴こそは四魔将が一角、『共殺姫のアルケー』だ」
共殺姫のアルケー、その魔力の糸により他者を意のままに操る事を得意とした魔族だ。
その他者を操る力により、多くの人間共を互いに争わせ、『共殺し』にしてきた事からその異名は名付けられた。
我は先程幻召魔身でイエグロスを呼び出した際、実はアルケーも同時に呼び出しており、その『準備』が終わるまで我が偽者の気を引いて時間を稼いでいた。
そして、その準備が今終わった。それがこのアルケーの独壇場、『操身の結界』である。
「こんな糸…!!」
偽者が力任せに身体を動かすと、その糸は切れた。アルケーの糸はそう容易く切れるものではないが、奴の馬鹿力なら切るのは容易いだろう。しかし、
「無駄だ」
「!!」
糸は切れた側から忽ち繋がり、偽者は再び自由を失った。
これがアルケーの操身の結界だ。結界内では常にアルケーは自在に糸を繋ぐ事が出来、その身体の自由を支配される。
魔力を喰らう魔剣もこれでは満足に振るえない。これで、奴の魔剣は封じられた。
「貴様のお陰で思い出したよ。我が何で戦っていたのか…」
昔、我が魔王では無かった頃、四魔将達も四魔将では無かった頃、彼らと共に語り合った、我の夢。
それは、
「同胞を次々に失い、憎しみに心を塗り潰され、長らく忘れていた…我は、争いの無い、皆と笑い合える世界を作りたかったのだ…!!」
両手の爪に魔力を込める。そして、
「だから、貴様の様な愚かな王は…この我が、玉座から引き摺り下ろす!!」
自由の利かない偽者に向け、繰り出した。
「魔王の爪撃・乱舞!!!!」
我が繰り出す無数の斬撃波が偽者の身体を刻み、辺りにはその血肉が飛び散った。
「グォオオオオオオ!!!!!!」
「これでっ…!!!」
我は右手を翳し、その権能を下した。
「終いだ!! 魔王権能、爆ぜろ!!!!」
偽者の身体は炸裂し勢い良く氷壁にぶつかり、その氷壁を粉々に破壊した。
「あらら、手酷くやられちゃったね」
吹っ飛ばされて地面に投げ出された偽者を見たハマドウが、他人事の様に言葉を洩らした。
偽者が落とした魔剣を掲げ、我は言い放った。
「我こそがグランディン!! 亡き盟友達の意志を継ぎ、この争乱の世を終わらせる者だ!!」
答えは得た、後は行くのみだ。憎しみを乗り越えて。




