守戦(4)
幻召魔身で呼び出したイエグロスの幻影は、我と視界を共有しており、そこから向こう側の様子を確認した。
「…向こうは終わった様だな」
そう言って我は、剣についていた血を払い、倒れていたハウレンに詰め寄った。
此方も大方片付いており、殆どの兵士達は我が斬り伏せてしまった。
「くっ…殺すなら殺すがいい…!!」
ハウレンがそう吐き捨てると、我は手に持っていた剣を振り上げ、ハウレンに向けて振り下ろ、
「!!? な、何の真似だ!!?」
さなかった。ハウレンが横たわる傍の地面に、その剣を深々と突き立てて、手を離した。
「…さっさと生きている者を連れて退くがいい」
「貴様…お情けのつもりか!?」
「お情け、か…好きに思うといい。ただ、その程度の強さで死に方を選べると思うなよ? 小僧共」
「く…後悔するぞ…!!」
ハウレンはそう言って自身の負傷をおして立ち上がり、剣を回収する。
そして、生存した兵士達を引き連れて撤退していった。
(よし、これでいい…)
我は別に、殺したかった訳では無い。撤退に追い込めればそれで良かった。
兵士達が退いていくのを確認すると、我は踵を返して里に戻ろうとした。
「!!」
突如、向こう側で異変を感知した。
(幻召魔身が、破壊された…!!?)
幻召魔身で呼び出したイエグロスの幻影が、一撃の下破壊されたのだ。そして、幻影が消える直前に見えた、その破壊した主とは…
「ちぃっ…!!」
我は里に入り、すかさず向こう側へ駆け出した。
「まさか…『奴』が来るとはな」
里の中を横切り、現場に駆け付けると、そこに奴はいた。
前にアイオーンで見た時と同じ仮面をした、その筋骨隆々の男は、ゆっくりと此方へ振り返った。
その手に持つは、魔剣ジオ・グランディン。かつて我が所有していた魔剣。
「アイオーン以来だな、偽者」
我の名を騙る偽者、今世界で魔王グランディンを名乗っているその男が、そこにいた。
「…やはり、ハマドウの思った通り、お前が残ったか、魔王の小娘」
「…何だと? どういう事だ?」
「…答える義理は無い」
偽者が地面を蹴り、その魔剣を振るってきた。
「あれが、魔王グランディン…の、偽者か」
始めて対面した俺は、その偽グランディンが放つ異様な気配に完全に気圧されていた。
今まで相対した魔族達とは比べられない程の化け物。俺は内心、恐怖を感じていた。
偽グランディンが斬り掛かり、ディンに向けてその魔剣を振り下ろしてきた。
「秘技・幻召魔身!!」
ディンが秘技により、再びイエグロスの幻影を呼び出し、その剛剣で偽グランディンの魔剣を受けさせる。が、
(ああ、まただ…!!)
魔剣の一振りは、イエグロスの幻影をかき消してしまった。
恐らくあれが、クウゴから前に聞いていた魔剣ジオ・グランディンの能力だ。
敵の魔力を喰らい、己が力に変えるという能力を持ち、魔力の塊である幻召魔身は一撃でその魔力を喰われ破壊されてしまったのだ。
「ちっ…!!」
ディンは自身の魔力で強化した爪で、魔剣を受ける。が、魔剣の能力により片っ端から爪に込められた魔力は喰われていき、少しずつ押されていた。
「魔王権能、爆ぜろ!!」
偽グランディンに向け、魔王の権能が放たれる。しかし、
「ふん」
権能が効果を及ぼす前に、魔剣で斬られその込められた魔力は喰われてしまった。魔剣はディンの権能の力まで無効化できるらしい。
ディンの全ての手札は通用せず、完全に手詰まりに見えた。
「くそっ…ソニア!! いるか!!」
俺は恐怖を押し殺し、懐のカードを取り出した。
「はい!!」
リインに乗っていたソニアは高度を下げ、此方に向かって返事をした。
「ディンを援護する!! 俺に続け…」
「させないよ」
突然、俺達の目の前に巨大な氷の壁が出現し、ディン達を俺達から分断した。
「グランディン達の邪魔はさせない」
声の方に振り向くと、そこには仮面をつけたローブの男が立っていた。




