イストンの里(4)
ネクスの返事を待つ間、こうしてやる事も無く里を散策しているが、目に映る物全てが不愉快であった。
「…ふん」
魔族が、人間と仲良さげに話してるのも、それを何とも思っていない周りも、何もかもが気に入らなかった。
まるであの時、イストンが言っていた事が正しかったと、見せつけられている気がして、それらの光景は我を苛立たせた。
そんな時だった。
「…あ」
偶々通り掛かったであろうフラクタと目が合った。
気まずそうに目をそらし、そそくさと過ぎ去ろうそしており、
「待て」
我はそれを呼び止めた。
「ひっ…な、何でしょうか…?」
何故か我を見て怯えていた。そう言えば、次にその面を見せたら殺すみたいな事を言った気がする。それを思い出して、小さく溜息をついた。
「…そう怯えるな。ちょっと話を聞きたいだけだ」
「話…ですか?」
「イエグロスがここに良く来ていたそうだな。奴がここで、何をしていたのか気になってな」
「おじ様の…」
「さっきの様子だと、随分慕っていた様に見えたからな。一度貴様から話を聞いてみたかった」
「…わかりました、私の知る範囲であれば」
こうして、一軒の軽食屋に入り、そこでフラクタの話を聞く事にした。
イエグロスは、度々この里に来て、旧知の仲であるイストンやネクス達と談笑したり、里で剣術を修練している魔族や人間に稽古をつけたり、この里の魔族や人間達とも仲が良かった、良き来客であったらしい。
「ネクスさんも仰っていたと思うのですが、前回の戦争の時からこの里に顔を出しているそうで、昔からこの里の為に協力してくれたと聞いています。私も、昔から良くお世話になりました…」
「…知らなかったな。奴め、戦争中にそんな事をしていたのか」
「私、昔幼い頃におじ様に言ったことがあったんです。この里で暮らさないかって…そしたら」
「俺には、外に大事な人がいるんだ。俺は常にその人と共に有り続ける」
「!!」
「その後…外で魔王グランディンが復活したと聞いて、それ以降は暫くはこの里には来ていませんでした。おじ様の大切な人って、ひょっとして…」
(イエグロス、貴様…)
「ディンさん…それで、クウゴさんに討たれたって話は…」
「…事実だ。イエグロスは魔族の将、クウゴは勇者、対面すれば戦うのは当然だ。一騎討ちの末敗れたらしい」
「そう…ですか…」
我の返答を聞いて、フラクタの表情に影が差した。
「…フラクタ、貴様はクウゴが憎くないのか?」
「…え?」
「それだけ慕っていた者を殺されて、怒りが湧かないのか? 我は…今まで多くの同胞を失ってきた。内心クウゴの事は憎いし、何より人間共が許せない… だから、貴様はそうではないのかを訊きたかった」
クウゴとは現在共同戦線の身、そして何より抑制の首輪の所為で手を出せない状態であり、我は内心の怒りを押し殺して共に行動している。
しかし、フラクタはそうではない。だから気になった。
この里の魔族達も、人間共に大切な者を奪われた者も、きっと少なくないだろう。それでも、人間共を許せるのか、
人間と、共に歩めるのかを、訊きたかった。
「…憎くない、と言えば嘘になります。おじ様を失って哀しいのは本当ですし。ただ…」
フラクタの表情から影が消え、我を真っ直ぐ見てこう言った。
「クウゴさんの人柄を知ってしまったから、憎む事が出来ませんでした。師匠の世界を優しい世界だと言ってくれたあの人、きっと彼も苦しかったんだろうなって…」
「何だと…?」
「師匠が良く言ってました。どんな相手にも理由があり、それを理解すれば憎しみは消え、必ず手を取り合えるって…まぁ私は、完全に憎しみは消えた訳では無いんですが」
フラクタはそう言って、苦笑してみせた。
どんな相手にも理由がある…文字通り最期まで相互理解を諦めなかった、実にイストンらしい教えだと思った。
「…そうか。強いな、貴様は」
フラクタの答えを訊いて、我は思わずそう言葉を零した。




