イストンの里(3)
ネクスが俺達に宿を用意してくれ、オーキはルクスブルグ潜入で大量消費したカード製作の為に室内に籠もっていた。
他のメンバーも、各々里で好きに過ごしていた。俺はというと、
「…」
里の隅にあった巨木の木陰にて座っていた。そして、そこから見える里の様子をただ漠然と眺めていた。
(…良いとこだな、この里は)
外では争いの絶えないでいる人間と魔族が、ここでは争う事無く、楽しく平和に暮らしている。
種族間の争いを無くし平和の実現、まだ里サイズの小規模な物とはいえ、ここまでするのに相当の努力と苦悩があった筈だ。
そう考える度に、平和という理想の為に奔走し続けた、イストン達の凄さを思い知るのだった。
それに比べて、俺はどうだ?
平和の為と宣っておきながら、やってる事は昔から剣を振るい命を奪う事ばかり。
再びこの世界に来て、その事に疑問を抱きながらも、結局最後には力で捻じ伏せるだけであった。
そして、
「クウゴさんが…おじ様を…」
フラクタの哀しそうな顔を見て、自分がやってきた事を改めて痛感した。
イエグロスにも、慕い思ってくれる人がいるのだと、俺はそんな人達を哀しませてしまったのだと。
イエグロスだけではない、俺が今まで命を奪ってきた人々にも、そういう思う人達がいたのだ。
結局、俺は人から奪う事しか出来ていない。壊す事しか出来ていない。
(…何が、勇者だよ)
そう思うと、目の前の穏やかな里の様子を見ることが、なんだか辛くなってきた。俺は目を逸らすように俯いた。
「あ、クウゴさーん」
遠くから、ソニアの声がした。俺は顔を上げ、声の方に視線を向けた。
「クウゴ…さん?」
俺と目があったソニアは、何故か哀しそうな顔をしていた。
「ど、どうした?」
俯いていた顔を上げたクウゴが、私を見て問い掛けてきた。
平静を装おうとしているが、私にはわかってしまった。
多分、この人は泣いていた。
別に涙を流してたという訳では無く、一見表情も普通ではあったのだが、何となくそう思った。
深い悲しみ、苦しみを抱え、彼はきっと心が泣いていたのだ。それが、伝わってしまった。
「…クウゴさん、隣、良いですか?」
「? あ、ああ」
「じゃあ、失礼します」
そう言って、私は彼の隣に座った。
「…ここ、良い場所ですね」
「…そうだな」
この巨木の木陰から見える景色は、談笑する人達、行き交う人達、楽しそうに遊ぶ子供達、里の穏やかな時間が流れるのを全て見る事が出来た。
しかし、彼だけはそこに居ない。影の中から陽だまりを見ている彼は、まるで自分にはその資格が無いと言っている様な気がした。
「…クウゴさん、さっき、自分の事責めてませんでした?」
「え?」
「何となくわかっちゃいました、クウゴさん、優しいから…」
「…そうか、君は何でもお見通しだな」
「クウゴさんがわかりやすいんですよ」
強いけど、とても優しくて、でもその所為で、いつか壊れてしまいそうな、そんな危うげな物を感じる人。
私では、彼の苦しみの全てを癒す事は出来ないのかも知れない。私では、彼の悲しみの全てを理解する事は出来ないのかも知れない。
でも、それでも、そんな彼の心に寄り添いたかった。
少しでも、彼が自分を許し、心から笑える様に。
「クウゴさん、里の中を見てみたいんですけど、一緒に来てくれますか?」
そう言って私は立ち上がり、彼に手を差し伸べた。
「…ああ、勿論だ」
彼は私の手を取り、立ち上がった。
そして私は彼の手を引いて、陽だまりの中へ駆けて行った。




