イストンの里(2)
この里の中では特に大きな家があり、フラクタの案内で中に入ると、そこに一人魔族の老人がいた。
「おおフラクタ、イストンは居ったか?」
「それが…師匠は…」
と、フラクタがイストンについて説明しようとすると、フラクタの後ろにいたディンを見て、魔族の老人は明らかに驚愕した表情を浮かべていた。
「…何故、貴女がここに…?」
「!! 貴様は…ネクスか!!?」
同じくディンもその老人を見て驚いてみせた。
「ネクスさん、此方の方々をご存知でしたか? この人は…」
「よいフラクタ、儂もよう知っとる。久し振りですな…グランディン様」
ネクスと言われた老人がそう言うと、フラクタは驚愕した表情でディンの方を向いた。
「貴女が…魔王グランディン…!?」
ディンの話によるとこうだ。
イストン、そして今目の前にいるこのネクスという老人は、魔族と人間の共存の道を探す同志であり、ある日志を同じとする数名の魔族達と共にディンの目の前から去って行ったのだという。
「貴様等が去って数日後、その中の一人が息絶え絶えの状態で帰ってきて、残りはてっきり全滅したものだと思っていたが…こんな所でしぶとく引き篭もっていたとはな」
「あの時…人間達に騙されて危うく全滅の危機に瀕しまして、イエグロスの助けでどうにか生き延びれました」
「イエグロスだと…!?」
ネクスの話を聞き、ディンも俺も急に良く知る名前が出て激しく驚いた。
四魔将最後の一人、否命剣のイエグロス。まさかここでその名を聞くとは思ってもみなかった。
「城に逃げ延びたその同志を看取った後、奴は我々を探していたそうで、危うく人間達に始末される寸前で助けてくれました。その後も奴は、この里が安定するまでは度々ここに様子を見に来ておりました」
「奴がそんな事を…」
ネクスから知らされるイエグロスとこの里の関係について、どうやらディンも知らなかった様だった。
俺も驚いている。あのディンの忠実な家臣であったイエグロスが、人間と魔族の共存を願う様な者を助けるとは、正直意外であった。
「ひょっとして、クウゴさんもイエグロスおじ様の事をご存知なのですか?」
フラクタがそう言って俺を見る。なんて言うべきか言葉に詰まり、思わず黙ってしまう。
「…当然知っているであろう? 勇者クウゴよ」
「!!」
「100年前の人間の英雄。そして、数日前のエルーシャの戦いにて、イエグロスを討った…」
「…知っていたんですね」
「外の情報は逐一目を光らせている。だからお主達の話は良く耳にしていた」
俺を見ていたフラクタの顔がみるみる青ざめていく。おじ様なんて呼ぶくらいだ、余程イエグロスの事を慕っていたのだろう。
そんな人物の仇を眼前にしたら、そんな顔にもなるだろう。
「クウゴさんが、おじ様を…」
「フラクタ、イエグロスの件はエルーシャに侵攻したイエグロスにも否はある。彼はエルーシャを守ろうとして迎え撃っただけだ。お互い、覚悟の上だった…」
「…」
双方のカミングアウトの応酬により、場の空気が重くなり、それに耐えかねたオーキは口を開いた。
「あーえっと…ネクスさんでしたっけ? その…イストンさんについてお話なんですが…」
動揺しているフラクタに代わり、オーキがイストンについて説明した。
「…そうですか、イストンの奴は既に…」
「ここの結界の事については、俺が何とか出来るかも知れないです。だから、一度結界の基点を見せて貰いたいのですが…」
「それは…ちょっと里の者達と相談させてくれませぬか? 里の重要機密なので、儂一人の判断では決められん」
「…まぁ、そうでしょうね。わかりました」
「グランディン様、それから皆様、フラクタを送って下さり感謝します、今日はこの里で休まれて下さい」
と言って、ネクスは一礼した。
その後、俺達はネクスの返事を待ち、各々里で過ごす事になった。




