イストンの里(1)
ルクスブルグ領の国境にある山奥、そこにフラクタの故郷であるイストンの里とやらがあるとの事。
俺達はリインに乗り、そのイストンの里に向かっていた。が、
「さ、流石に五人はちょっとキツいかも…」
明らかにいつもよりスピードが遅いリインを見て、ソニアが呟いた。
「おい!! 落ちる落ちる!! もっと詰めろって!!」
一番後方に座っていたオーキが、ぐらつく度に身を投げ出されそうになり、その都度喚いている。
「…」
俺の真後ろに座っているディンは、これから向かう場所に何か思うところがあるのか、ただ不機嫌な様子で黙っていた。
「あ、見えてきました。あの山です」
フラクタが指し示した場所にリインを降ろし、俺達はイストンの里があるという山の中に入っていった。
「…あの、何も無いように見えるんですが」
一見上から見ても、里らしきものは見当たらなかった。そして、降り立った場所にも同様であり、思わず俺は言葉を洩らした。
そうすると、フラクタが目の前に手を伸ばす。すると、
「手が…!?」
フラクタの手が、何も無い空間に飲まれた様に消えた。そして、その空間は水面の様に波打っていた。
「この先にあります、ついて来て下さい」
フラクタがそう言って前に進むとその空間に飲まれて消えた。
俺達も、その後を追って空間の中に飛び込んだ。
「これは…」
俺達が進んだ先には、里があった。
リインの背から見下ろした時には何も見えなかった筈の山中は、空が拝める程に大きく切り拓かれており、そしてその中には魔族だけでなく、人間が暮らしていた。
「本当に…人間と魔族が一緒に暮らしてる…」
そう言いながら、ソニアが辺りをキョロキョロとしている。
俺も驚いている。まるでグラナでイストンが見せた幻術世界の様であった。
「ここが私の故郷、イストンの里です」
「今のは…魔術結界か?」
オーキが言うと、フラクタは頷いた。
「そうです。私自身に使ってる見せ掛けの魔術を、里全体を覆えるサイズにしたものがさっきの結界です。これで外からは里を見つけれない様に隠しています」
そう言ってフラクタは、自身に掛けられた魔術を解除してみせ、魔族としての姿を晒した。
「ただ、この結界は最近弱くなってきていて、そろそろ張り替えないといけません。ですが師匠でないと張る事が出来ないので、それで…」
「それでフラクタさんが外に探しに行ってたって訳ですか…」
「…はい」
「それ、やばくねーか? 今の情勢でこんな里露呈したら、人間と魔族どっちの攻撃対象になってもおかしくねーぞ?」
オーキの言う通りであった。特に、ルクスブルグの件で魔族達は人間に対し怒りが強まっている事が考えられる。
そんな中でその人間と共存している何て事が知られれば、過激な魔族達からは標的にされかねないだろう。
俺はオーキに視線を向けると、オーキは無言で頷いた。
「…フラクタさん、俺達を里の代表者の下に案内してくれませんか? 色々と話したい事があります」
「だな。結界の件も、俺ならなんとかなるかも知れないし」
「本当ですか…!? わかりました、案内します」
こうして、俺達はフラクタの案内の下、里長の所へ向かった。
その最中、ディンは里の様子を見て、その目を細めた。
視線の先には、仲良さげに遊ぶ人間と魔族の子供達、そして、その近くで同じく楽しそうに談笑している双方の親。
「ちっ…」
それを見ていたディンは、苛立ちを見せながら舌打ちした。その様子が、俺の目に入った。




