強化勇者(1)
転移先の、ルクスブルグの街中の空き家にて。
「ぜひゅぅ…ぜひゅぅ…!!」
なけなしの魔力を絞り出して三人プラス一匹の転移をさせた俺は、もう声も出せない位に精根尽き果て、陸に揚げられた魚みたく床に伏していた。
「あの…大丈夫ですか? 凄い顔色悪いですが…」
フラクタとやらが、そんな様子の俺を心配そうな眼差しで見て声を掛けてくる。が、申し訳ないがそれに返事をする気力も無かった。
「外、何か凄い騒ぎになってますね。人がいっぱい外に居ますよ。城を見てるみたいです…」
空き家の窓から顔を覗かせていたソニアが、外の喧噪を眺めながら言った。
そして時折、遠くで破壊音らしき轟音が響き渡り、こうして伏せてても聴こえてくる。
どうやら街の人間達は、今現在クウゴ達が暴れ回っているであろう城を眺めている様子だった。
「あ、どこかの一室でしょうか? 今吹き飛びました。あぁ今度はあっちで爆発が…!!?」
その惨状を逐一実況しながら城を眺めるソニア。すると、
「クウゴさん達、大丈夫でしょうか…?」
と、その不安が読み取れる様な声色で、呟いた。
「…」
現状、ルクスブルグにあの二人を止めれる戦力はいない。研究していた強化勇者も、あの完成度では到底あの二人には太刀打ち出来ないであろう。
しかし、俺は一個だけ懸念点があった。
それは、あの時城にハマドウがいなかった事だ。
アイオーン城にて、クウゴの話によるとハマドウは勇者を一人持ち帰ったと聞いた。
ルクスブルグと協力関係と思しきハマドウが、独自でその勇者の強化の研究をしていて、あのハマドウなら成功させてる可能性は充分考えられる。
もしかしたら、それを今回投入してくるかも知れない。
「…さて、どうなるかねぇ?」
「がああぁあああ!!!」
強化勇者が、手に持った剣を振りかぶり、我に向かって突っ込んで来る。
「くっ…!!」
我はそれを受けずに、横に跳んで躱す。このパワー、今の我には受けきれないと判断したからだ。
強化勇者の振り下ろした剣は床を大きく引き裂き、斬撃波が地を奔っていきそのまま壁を吹き飛ばした。
本体に意思などまるで感じられなかったが、その一挙手一投足にはちゃんと魔力が流れており、そのパワーだけなら今のクウゴにも比肩するレベルであった。
アイオーンで戦ったあの勇者共とはまるで比べ物にならない位の強さ。正に強化勇者と呼ぶべき強さであった。
「魔王権能…刻め!!」
回避と合わせて、魔王の権能を振り翳し、不可視の斬撃が強化勇者を切り刻む。
「ちっ…やはりダメか」
強化勇者は魔力による防御で、我が権能に抗ってみせ、そのダメージは軽症まで抑えられた。魔力の防御運用まで可能とは、意思が無いように見えて恐るべき判断力である。
「ぐるぅぅぅ…!!」
強化勇者が獣の様に唸り声を上げながら、再び攻撃を繰り出そうと構えた。
そして、再び剣を振りかぶり、我に突っ込んできた。
「ダウンバースト・エア!!」
突如、強化勇者が急に真横に吹っ飛ばされた。
否、それは真横から突っ込んできた者から繰り出された、突風の如き強烈な『突き』により、その横っ腹を貫かれたからだ。
強化勇者はそのまま剣で縫い付けられる様に、壁に叩き付けられた。
「貴様の用事は終わったのか? クウゴ」
「…いや、逃げられた。俺の用は失敗だ」
「ふん…不様だな」
「ああ、今のお前みたいだな」
クウゴはそう言うと、突き刺した剣の刃を上に立て、そのまま強化勇者を上に斬り裂いた。




