潜入!ルクスブルグ(4)
「イストンか…そう言えばいたなそんな魔族が。名前を聞くまで忘れていた…」
「!! 師匠をご存知なのですか!?」
フラクタがディンの方を見て、目を輝かせている。恩師の話を聞けると思っているのだろう。
「…ディン?」
だが、俺は察した。ディンは、静かに怒っていた。
「ああ…だから貴様、フラクタと言ったな。イストンにも言った事と同じ事を言ってやろう…」
そうしてディンは、刺すような鋭い眼光でフラクタを睨みつけた。
「魔族の恥さらしが」
「…え?」
「争いの無い世界? 人と魔族が手を取り合い? 実に軟弱な考えだ、余りにも現実が見えてない寝惚けた思想だ」
ディンの言い放った言葉を聞いて、フラクタは引き攣った表情で固まっている。
「おい、ディン!!」
「貴様に教えてやる、そんな道は無い!! 魔族と人間、絶対に相容れぬ存在だ!! 貴様ら師弟の思想は、これまで散っていった同胞達をも侮辱している!!」
そう言うと、ディンはフラクタに背を向ける。
「行くぞクウゴ、下らぬ話を聞かされて実に不愉快だ」
「おい!!待てって!!」
「それから…二度とその面を見せるな。今度その面を見せたら、我が貴様を殺す」
そう言ってディンはフラクタを睥睨し、路地裏から出て行った。俺もそれの後を追う。
「…」
哀しげな表情を浮かべたフラクタだけを残し、俺達は路地裏を後にした。
「おいディン!! 今のはあんまりだろ!!」
街中を足早に進むディンに対して、俺が呼び止め様と声を上げる。
「黙れ…今話し掛けるな…」
不機嫌に返すディン。それでも俺は続けた。
「お前が何を思ったか知らないが、あんな言い方…!!」
「黙れ!!」
ディンが此方に振り向き、俺の胸倉を掴んで詰め寄ってきた。その目は怒りに満ちていた。
「人と手を取り合えだと…? ふざけるな!! 吐き気がする!!」
「…ディン?」
「人と少し違うからと差別し、敵視する…そんな下らん種族を誰が信じられるか!!」
ディンの怒気の籠もった声を聞いて周りの人間達がどよめき始める。それでも構わずディンは続けた。
「いいか良く聞け!! 我は人間を信じない!! 貴様等ともあの偽者を殺すまでの共同戦線だ!! 用が済めば、次は貴様だ!!」
そこまで言うと、ディンは胸倉を掴んでいた手を乱暴に離した。
「…話は終わりだ、暫く黙ってろ」
そう言ってディンは踵を返し、再び歩き始めた。
「…何だと? もう一度言ってみろ、イストン」
我が城の玉座の間にて、あの時イストンはこう進言した。
「このまま争い続けては、いずれ両種族共に滅ぶ事でしょう。ですから私は、争う以外の道を模索したいと思います」
それを我は鼻で嗤うと、こう吐き捨てた。
「何を寝惚けた事を!! 貴様それでも魔族か!! 戦わねば我らがやられる、戦う以外の道は無い!!」
「…そうやって、歩み寄る事を放棄して、力で捻じ伏せる事しかしなかった結果が、今の世界ですぞ」
「何だと…!?」
「そうして戦い続ける限り、お互い多くの血が流れ、痛み、憎しみ、それらはいつまでも続いていくでしょう。永遠に…」
そうしてイストンは、自身と志を共にする魔族数名を連れて、城を後にした。
「魔族の…恥さらしが…!!」
そして、数日後。
「グランディン様!! 大変です!!」
四魔将が一人、イエグロスが玉座の間に駆け込んできた。
「先程、重傷者が一人城の近くで発見されました!! 数日前、イストンと共に城を出た者の中の一人です!!」
「…何だと?」
「治療も虚しく、たった今事切れました。そして最期に…『我々は騙された、人間共に』と…」
「…だから言ったのだ、馬鹿者が!!」
「グランディン様…」
「イエグロス、すぐに支度しろ…人間共に目に物見せてくれるわ!!」
そうして魔剣を手に取り、我々は更に激化していく戦いに身を投じていった。
人間共は、信用出来ない。
私のこの思いは、決して変わる事は無いだろう。




