宝剣イリス(3)
(これが…完成したイリス…)
作業台の上の完成したイリスを見て、俺は息を呑んだ。
かつての朽ちかけた剣は、見たら言葉を失う程に美しい剣へと生まれ変わり、修復前は殆ど感じなかった力が、今は目に見えて分かるくらいに力に満ち溢れている。
そして、その剣からはどこか、安らぎの様なものを感じさせる、本当に不思議な剣であった。
「イリス!!」
オーキが作業台に駆け寄り、そのイリスを手に取った。
「良かった…!! イリス、治ったぞ、イリス!!」
オーキがイリスに呼び掛ける。しかし、イリスは何の反応も示さなかった。
「おい、イリス!! 聞こえてんだろ? 返事しろって、イリス!!」
「…その剣の名は、私の故郷で語られていた童話から取ったものだ」
ウィンリッヒが、オーキの傍に来て、イリスを見ながら語り始めた。
「悲しみと痛みが満ちた世界に、一人の女神が降り立ち、その人々を自身の力で救っていくという…私はその女神の様に、この剣が人々を救う力になってくれるのを願って、その女神の名を付けた…名は、『イリス』」
「!!」
「お前が最初にその名を言った時は驚いたよ、完成前に名付けて、誰にもまだ教えてなかった筈の名前を何で知ってるのかと…」
「親父…」
「約束だな…全て話そう、その剣の事を」
工房から出ると、俺達は屋敷の客室に案内された。そして、そこでウィンリッヒの話を聞いた。
ウィンリッヒの話によると、彼はかつて今より遥か昔に生まれた人間であり、当時は少しは名の知れたソードスミスであったそうだ。
そして、彼は自身の最高傑作として、この宝剣イリスを作製していたという。
剣は理想通りの出来栄えで、その完成は間近だった。
しかし、その完成直前で悲劇は起きた。
悪意ある者が、このイリスを折ってしまったのだ。そして、製作者であるウィンリッヒはその時呪いを掛けられたのだという。
「目の前で破壊された時、本当に悔しかった…そして呪いよって石にされた私は、眠り続けた。その悔しさを胸に抱いてな」
「そんな事が…」
「それから、私は気の遠くなる様な永い時を眠り続けた…」
真っ暗な闇の中、もう何年経ったのか、どれだけの時間が流れたのか、何も分からないまま、時は過ぎていった。
そうしてる内に、段々考えるのを止めていった、そんな時、
「良かった…!! 成功した!!」
一人の女魔術士が、ウィンリッヒに掛けられた呪いを解き、彼は眠りから覚めたのだという。
この女性こそ、後の妻であるラピス・セレスワイズであった。
「その後、私は彼女からどれ程の月日が経ち、私の故郷がどうなったのかを訊いた。そして、故郷は滅び、イリスの行方も分からなくなって、絶望した…そんな時彼女は、私のその絶望に寄り添い、支えてくれた。私も、次第にそんな彼女に惹かれていった」
「わぁ…素敵!」
ウィンリッヒの話を聞いたソニアは、目を輝かせて感嘆の声を上げた。
「まさか親父とお袋にそんなラブロマンスな出会いがあったとはね…」
「私はあの時、彼女に呪いを解いて貰った…そして今、もう一つの呪いも解けた…それだ」
そう言って、ウィンリッヒがオーキが手に持っていたイリスを指差した。
「私は、そのイリスが完成させれなかった事をずっと悔いていた。お前は、その後悔という呪いから解放してくれた…」
「親父…」
「お前達がヴォルカの街で見たというその娘達の分まで礼を言う、本当にありがとう…」
ウィンリッヒが言うと、イリスがそれに呼応するかの如く、一瞬だけ輝いた様な気がした。




