宝剣イリス(2)
「戻ったぞ!」
オーキは工房の扉を乱暴に開け入ってきた。その小脇には、ウィンリッヒが提示した材料が入ってるであろう紙袋を抱えていた。
「…それは何をやってんだ?」
作業台を見ながらオーキが尋ねる。
作業台に書き込まれた輝く魔方陣の上に、イリスの柄と刀身が破面を合わせて並べる様に置かれていた。
そして、そのイリスは淡く発光していた。
「剣の活性化だ。こうして消え行く剣の命と力を延命している」
剣の活性化、とても剣の修理で聞くとは思えない言葉だった。
「それより、材料は全部揃ったか?」
「あぁ、一応な」
オーキがそう言って、紙袋から中身を取り出し、自身の近くの卓上に置いていく。
その中身は、何らかの薬品が入っている小瓶が複数と、何やら薬草の束の様な物まであった。一見するとこちらも、刀剣の修復に使う材料とはとても思えない。
工程といい材料といい、その常識から逸脱した有様が、イリスという剣の異質さを物語っていた。
「これで本当に治せんのかよ?てっきり凄い鉱石みたいなのを使うんだと思ってたけど…」
「それらは『石』の精製で使う材料だ。そして…」
ウィンリッヒはそう言って、棚からホールケーキが入るくらいの大きさの箱を一つ取り出した。
「その『石』はここにある」
箱の蓋を開けると、その中には一つの鉄鉱石らしき物が入っていた。
「その剣の製作に使われた石と同じ産地の石だ。昔偶然見掛けて、何となく購入したんだ。こうしてこの剣の修復に使う事になるとは思わなかったが…」
「製作にって…じゃあ、やっぱりあんたは…」
「その話は後だ…今からこの石を特殊な技法によって、あの活性化した剣に組み込める様に精製する。時間が惜しい、すぐに取り掛かろう」
「分かった、工程を教えてくれ。俺も手伝う」
「ああ。ではまず…」
こうして、セレスワイズ親子によるイリス修復が始まった。
ウィンリッヒが指示を出しながら、二人がせわしなく工房の中を駆け回りながら作業する。
俺達はそれらを茫然と眺めることしか出来ず、その二人が交わす話の内容も全く分からなかった。
そして、そんな作業が続いていき、時が一刻、また一刻と過ぎていく。
そして、石の精製とやらが完了したのは、日が落ち掛けた頃だった。
「…よし、では最後の工程だ」
イリスの安置されている作業台に、精製された石が入った容器が置かれた。
「今から行うのは、柄と刀身の接合、各部位の朽ちた箇所を新しいものへの置換、そして…この剣を仕上げ『完成』させる」
「完成させる…?」
「…この剣はまだ未完成なんだ。だから、修復の後に完成させる。その為の指示は私が出す」
「わかった…じゃあ、始めるぞ」
オーキがそう言うと、ウィンリッヒは頷いて作業台に向けて両手を翳した。オーキも同様に、作業台に向けてその両手を翳す。
すると、精製された石が入った容器から、溶けた石が突然飛び出してきて、イリスをすっぽりと包み込んだ。
「オーキは破面の接合を!!私は朽ちた箇所の置換を行う!!」
ウィンリッヒが指示を出すと、イリスを包み込んだ溶けた石がボコボコと動き始めた。
明らかに通常の鍛冶の類とはかけ離れたその光景を見て、オーキとウィンリッヒを除いた俺達三人は息を呑んだ。
その後も、ウィンリッヒが何らかの指示を出していき、その様子は更に一刻と続いた。
「…よし、仕上げだ!!そのまま定着させろ!!」
溶けた石の動きが徐々に小さくなっていき、そして、
それは、『完成』した。
ボロボロと、包み込んでいた石が朽ちていき、中からそれは姿を現した。
そこには、新品同然となった、一本の剣が横たわっていた。




