宝剣イリス(1)
「…随分と、懐かしい物が出てきたな」
オーキの父、ウィンリッヒはゆっくりと口を開き、そのイリスの柄を撫でるように触れた。
「こんなにボロボロになって…そうか、オーキが…」
「おいっ、親父!!」
「…この剣について知ってる事を全て話しても良いが、あまり時間は無いようだ…」
「はあっ?」
「この剣は今、死のうとしている。今こうしてる間にも、ゆっくりと死に向かいつつある」
「なっ…!?」
「少し、待ってなさい」
そう言ってウィンリッヒは、紙に何かを書き込んで、それをオーキに見せた。
「ここに書いてある材料を集めて、私の工房に来るんだ。この剣の修理に必要な材料だ、恐らく麓の街で全て揃う」
「!! 治せるんだな!!」
「ああ…他の皆さんは私と一緒に工房へ」
ウィンリッヒはそう言うと、俺達は頷き、オーキはウィンリッヒからメモを受け取った。
「よし…待ってろイリス、じゃあ行ってくる」
「!!」
オーキは書斎から飛び出していき、それを見送ったウィンリッヒがこう呟いた。
「何故、あの子がその名を…?」
オーキが麓の街で材料を調達している間、俺達はウィンリッヒに彼の工房へと案内された。
そこで俺は、ヴォルカの街で起こった事、そこで出会ったイリスについて、ここまでに至る経緯について説明し、ウィンリッヒが何かしらの準備をしながらそれを聞いた。
「成る程、そんな事が…」
「はい、信じられない話かも知れませんが…」
「…いや、信じるよ。この剣は、それだけ特別な剣だったからね…」
ウィンリッヒは作業台の上に魔方陣を描きながら、どこか思いを馳せる様にして、ポツポツと話した。
「…少し、話を聞いてくれないか?」
「はい…」
「あの子…オーキについての話なんだが…」
ウィンリッヒの話はこうだ。
オーキの生まれたセレスワイズ家は、代々多くの優秀な魔術士を輩出してきた名門であり、オーキも優れた才能を持って生まれ、彼らと同様に優秀な魔術士となる事を期待『されていた』そうだ。
「オーキから話はある程度聞きました。魔臓の障害ですよね…」
「…ああ。あの子は幼い頃から魔臓に障害を患っていて、その魔力生成と出力は常人を遥かに下回っている。だから、魔術士を続けていく事は絶望視されていた…」
「…オーキは諦めてないみたいですけど」
「そうだな…それで話の続きなんだが…」
話の続きはこうだ。
セレスワイズ家は、高名な魔術士が多かった反面、その事に恨みを抱く者も少なくなかった。
オーキの母、現セレスワイズ家当主であるラピス・セレスワイズは、過去に悪事に手を染めた魔術士を討ち倒した事があり、ある日その事で恨みを買ってしまい呪われた。
しかし、その『呪い』を受けたのが、
「オーキだ。当時生まれて間もないオーキが、その呪いを受けてしまったのだ」
「オーキが…!?」
「当時私とラピスは、必死にその解呪方法を探した。しかし、その方法は見つからず、幼いオーキは呪いにより日に日に弱っていき、いつ死ぬかわからない状況だった…」
そこで、セレスワイズ夫妻はある賭けに出たという。
それは、禁術とされていた術の使用だった。
「…魔術名『分かたれた魂』、被術者の魂を肉体ごと2つに『分かつ』魔術だ。これでオーキを苛む呪いの力を分散或いは無力化出来るかも知れない、そう思って実行したんだ」
しかし、その結果は、セレスワイズ夫妻が望んでいたものでは無かった。
「結果は、呪いの力は片方のオーキにだけ残り、その呪いの力により瞬く間に死亡した。そして、残った方のオーキも…」
「魔臓の障害が残った訳、ですね…」
「ああ…今でこそ元気だが、昔は身体も弱くてよく病気にもなっていた。明らかに禁術による影響が残っているのが目に見えたよ」
「…」
「私とラピスは後悔したよ。自分達の行いが、あの子に一生解けない『呪い』を残してしまった事に…」
「解けない『呪い』…」
思えば、オーキは街に着いてから、少しらしくない程に呪いの騒動解決の為に躍起になっていた。
ウィンリッヒの話を聞いて、その理由が何となく分かった気がした。
「きっと、放っておけ無かったんだろう、あの子は。自分と同じで呪いに苦しむそのイリスという子と、街の人々が…あの子は、とても優しい子だから」
ウィンリッヒも俺と同様の事を思っていた様だった。呪いに抗っている魔術士は、誰よりも優しいのだと。




