呪いの真相と少女の声(1)
「いた! おい、オーキ!」
街中でオーキの姿を見つけ、俺はすぐに呼び止めた。
「あん? お前らどうしたんだ? そんな慌てて」
オーキは疲れ果てて眠っている様子のイリスをおぶって歩いていた。そんなオーキにディンが詰め寄ってきた。
「小童、その娘を寄こせ。この呪いの元凶はその娘だ」
「はぁっ?」
ディンの発言に対し、オーキが怪訝な表情を浮かべた。
「貴様も既に気付いてるんだろう? その娘は今回の呪いの騒動と無関係では無い事を。現に我は、先程海岸でその娘に襲われ呪いを掛けられた」
「なっ…!!?」
それを訊いてオーキが激しく驚いている。そして、たった今訊いた俺とソニアも同様に驚愕していた。
「何馬鹿な事言ってんだよ!! イリスはずっと俺と一緒に居たんだ、どうやってお前に襲えるんだ!!」
「その場に居らずとも、呪う手段はいくらでもある、魔術を囓ってる身ならその位分かる筈だ…もういい、さっさと寄こせ」
そう言って、ディンが手を伸ばしてイリスを奪おうとする。
「!! やめろ!!」
オーキが魔力を込めた右手の人差し指を、ディンの眉間に向けた。
「…貴様、やる気か?」
戦意を見せるオーキに対し、物凄い剣幕でディンが睨みつけていた。
それを見て、ソニアは掛ける言葉が見つからずオロオロとしている。
「その血が登った頭ブチ抜きゃ、少しは頭冷えるだろーな。とっとと手下ろせアホンディン」
オーキが意にも介さず吐き捨ててみせた。
「いいだろう、貴様毎始末してやろう…!!」
「やめろ二人とも!!」
俺が仲裁の為、二人の間に割って入る。そして、
「きゃああああああ!!!!」
遠くで叫び声が聞こえた。俺達は声のする方へ振り返る。
「な、何だアレ!?」
逃げていく住民達の逆方向に、何か黒いモヤの様なものが煙の様に立ち上っていた。
「行くぞ!!」
俺が言うと、皆一斉にその方向へ向かった。
黒いモヤの根元が見える距離に来ると、そこには人影らしきものが見えた。
「あ、あれって…!?」
モヤの隙間から見えるその人影は、今、オーキの背で寝ているイリスそっくりであった。
「…おいクソ魔王、イリスを疑って殺そうとした事、詫びたらどうだ?」
オーキが睨みながら言うと、ディンはフンと鼻を鳴らし、
「まだ無関係と決まった訳では無いだろう、化けの皮はこれから剥がす!!」
そう言って、ディンは手を前に翳した。
「魔王権能…爆ぜろ!!」
魔王の権能による命が下され、その黒い少女がいた場所が爆裂し、爆炎が立ち上る。
しかし、その爆発をまともに喰らったにも拘わらず、少女は全くの無傷でそこにいた。
(この感覚…)
俺はそれを見て、少女に跳び掛かって剣を振るった。
しかし、剣は俺の思った通り、少女の身体を影を斬った様に擦り抜けてしまった。
(間違いない、グラナの亡霊と同じだ。実体が無い…)
「…けて」
少女は何かを小さく言うと、右手をゆっくりと前へ伸ばした。
すると、突如少女の周りのモヤが激しくうねり、その場で荒れ狂う様に蠢き始めた。
その様は、苦しむ様にのたうち回る無数の黒い『蛇』の様であり、それらは辺りにいた人間達に襲い掛かった。
直感で感じた。これが街の人を苦しめていた呪いの正体だと。
「くっ…!!」
俺は自身の勇者紋を起動して、その魔力で呪いの蛇を打ち消した。
「フン!!」
ディンも同様に、自身の魔力によってそれらを撥ね除けていく。しかし、
「!! オーキ!! ソニア!!」
他のメンバーはその呪いを浴びてしまった。自身の低い魔力量では受けきれなかったオーキと、そもそも防ぐ術を持たなかったソニアとその肩に乗っていたリイン、オーキは膝をつき、ソニアとリインはその場に倒れ込んでしまった。
「ん…? !! パパ!!」
オーキの背で寝ていたイリスはそこで目覚め、呪いに苛まれているオーキに気付いて不安げに顔を覗き込んだ。
「い、いない…!?」
黒いモヤが晴れると、その中心にいた少女は消えていた。




