少女イリス(4)
「ほらパパ!!早く早くー!!」
「おい!!あんま一人で遠くに行くな!!」
興味のままにあっちこっちと全力疾走してくるイリスに、俺はそれに振り回される様にしてヴォルカの街中を駆け回った。
「はぁっ…はぁっ…」
疲れ知らずに駆け回るイリスを何度も見失いそうになりながらその後を追い、気が付けば俺はもうヘトヘトなっていた。
自分にもし子供が出来たらこんな感じなのだろうか、そんな事を思いながら、子供の体力の凄さを身を以て思い知らされた。
街を回るがてらに聞き込みでも出来ればと思っていたのに、とてもじゃないがそんな余裕は無かった。
「見て見てー!!ほらー!!」
漸くその脚を止めてくれたイリスは、俺を見ながら何かを指差してきた。
「大っきな噴水!!」
「へぇー確かに、こりゃ立派なモンだな」
イリスが指し示した噴水を見て、俺は素直に称賛の声を上げた。大きさもそうだが、何よりその造形と装飾が素晴らしい。職人の拘りを随所に感じる出来であった。
この街の中央の噴水は、ここの名所の一つでもあるとの事で、街の職人が丹精込めて造ったそのデザインが素晴らしいのも理由の一つだが、その最大の理由は、
「!! わぁ凄い!! 変わった!!」
先程とは違い、勢い良く水柱を上げ始めた噴水を見て、イリスは目を輝かせながら驚嘆した。
そう、この噴水は時間毎にこうやって水の出方が変わるのだ。それも時間毎に幾つものパターンもあるとの事だ。
今回のはその中の『水龍』がモチーフのパターンで、その水面から立ち昇る水龍の如き流水の造形は、正に圧巻の一言であり、これを見る為にここまで来たという観光客もいるという話も納得である。
「綺麗…」
イリスがその光景に見惚れ、小さく声を漏らした。
「…なぁ、イリス。ちょっと良いか?」
「何?」
「お前、ホントにどっから来たんだ?街の名所の噴水見てここまで驚いてるの見たら、お前がこの街の住人じゃねぇなってのは分かった。だから、な?」
「私は…」
笑っていたイリスは途端に、その表情に影が差した。
「暗いとこ…とっても、とっても暗いとこにいたの…」
「暗いとこ?」
「うん…私、ずっとそこにいたの…」
イリスがそう言うと、噴水のパターンが再び切り替わった。
今度のモチーフは『蛇』であり、無数の水の蛇が蠢いている様な造形の流水が、噴水から繰り出された。
(あの小娘が倒れてたのはこの辺りか…)
我は昨日、オーキがイリスの事を拾った海岸に来ていた。
昨日オーキが、
「いや、てっきりあの時、元凶の術者を感知したと思ってたのに、居たのはこのガキだけだったからさ…」
と言っていたが、実は我も同様の気配を感知していた。
我々がここに着いてあの少女を拾ってからは感じ取れなくなったが、何か邪悪な、魔族寄りな気配をあの時確かに感じていた。
我はこの一件、恐らく原因はあのイリスにあるのでは無いかと睨んでいた。
(!! この気配は!!)
突如、昨日感じた気配を感じた。それはかなり近く、我の…
(後ろか…!?)
振り返ると、我は突然黒いモヤの様な物に襲われた。
その黒いモヤは瞬く間に我の全身を包み込み、我の身体を縛り上げてきた。
「き…さ…まは…?」
薄らいでいく視界の中、黒いモヤの先で人影が見えた。
それは、昨日ここに倒れていた少女、イリスだった。




