少女イリス(2)
「うっうぅ…!!」
すると、突然少女がバランスを崩しその場でよろめく。それをオーキが抱き止めた。
「おい、大丈夫か?」
「うぅ…」
少女の顔色は悪く、明らかに体調を崩していた。オーキの腕の中で苦しそうに小さく呻いている。
「助けな…きゃ…」
しかし、少女はそんな状態でも、再びよろよろと立ち上がり、他のベッドに寝ている同様の症状の患者に手を伸ばそうとした。
そして、そんな少女をオーキはその腕を掴んで制止した。
「なん…で…?」
「やめろ、それはもう使うな」
「でも…あの人達…苦しそう…」
少女がそう言うと、オーキは一度考え込んでから、口を開いた。
「…お前が苦しむのは見たくない…パパの、お願いだ…」
そう、照れ臭そうに言った。
「…分かった、パパがそう言うなら」
少女はニコッと笑い、両手を下ろした。
「んで、お前何者なんだ…? 名前は…?」
「私は、イリスだよ」
そう言ってイリスと名乗る少女は、再びオーキに戯れ付く様に飛び付いた。
俺達はそのイリスという少女を連れ、診療所を後にする。そして、ヴォルカの街の宿で部屋を借り、そこで色々と話を訊く事にした。
「えーと、じゃあイリス、ちょっと訊きたいんだけどさ…」
「んー?」
俺が尋ねると、オーキの膝の上に座るイリスは、不思議そうに首を傾げた。
「君はこの街の子なのか?どこかに君のお家があるのか?」
「ううん」
「そうか…じゃあ、何であんなところで倒れてたんだ?」
「わかんない」
「…それじゃあ、オーキの事をパパって言ってるけど、それは…?」
「パパはパパだからだよ?」
「…」
いくつか質問してみたが、謎は一つも解けなかった。その無垢な少女はどこ吹く風とばかりに、上機嫌に脚をパタパタさせている。
「…この子はこんな調子だけど、何か思い当たる事はあるか、パパ?」
俺がそう言うと、オーキはジロリと俺を睨み、不貞腐れた表情を浮かべた。
「パパ言うな。知るか、俺が訊きてえよ」
「知らんという事は無いだろう、ここまで懐かれていて何も無い訳があるか、パパぁ?」
この状況を面白がったディンが、ほくそ笑みながらオーキに投げ掛けた。
「知らねぇっつってんだろ!! 俺はパパじゃねぇし!!」
オーキがそれに対し、ピキリと青筋を立てて憤慨した。
「えーでも、さっき自分でパパのお願いだって…ねー」
「ねー」
ソニアが笑いながらイリスにそう投げ掛けると、それに続いてイリスも笑顔で返した。
「ソニアまで…あれは、お前を止めたかったから仕方なく…てか、あれ何なんだよ?何であんな事出来たんだ?」
あの時、魔術の呪いに苦しんでいた患者は、明らかにこのイリスが治してる様に見えた。そして、イリスはその治療の反動なのか、治した直後にとても苦しそうにしていた。
「…わかんない、けど、やれる気がしたの」
「またわかんないかよ…はぁ」
そう言ってオーキは、深く溜息をついた。
「…何か疲れた、調査は明日にしてもう寝よう」
「じゃあ、パパと一緒に寝るー!!」
「一緒に寝るーじゃねーよ!!部屋は男女二部屋取ってっから、お前はソニアのとこ行けよ!!」
「やーっ!!」
そう言ってイリスが駄々をこねる様にオーキにしがみ付く。
「あー、じゃあいいよ。俺と代わったげる」
見かねた俺はイリスに言うと、イリスはぱっ弾ける様に笑顔を浮かべ、ぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。
「やったー!!ありがとー!!」
「おいクウゴ!!いらん事すんな!!」
「じゃあオーキとイリス、ディンとソニアでそれぞれ二部屋別れよう。俺は野宿でも…」
「クウゴさん?」
俺が言い切る前に、何か底冷えする声でソニアが詰め寄ってきた。
こうして、俺はソニアに引きずられながらオーキ達の部屋を後にした。




