少女イリス(1)
ルクスブルグ城、地下訓練場にて。
今、ルクスブルグ兵士達の指導の下、50人もの少年少女達が戦闘訓練を行っていた。
彼らは、アイオーンに攻め入った30人の勇者達、その後に追加で召喚した勇者達だ。
「貴様ぁ!!何をへばっている!!」
「ぎゃあああああ!!!」
兵士達の檄が飛び、隷属の首輪の効果により一人の勇者が苦しみのたうち回る。
こうして訓練の様子を幾分眺めていて、思ったのは、
「まるで使えない」
という事だ。
前の30人は、勇者だ救世の英雄だと煽てて非常に甘やかしていたのだが、その結果攻め落とした筈の死にかけのアイオーンに、奪った国を奪い返されて全滅ときた。最初に報告を聞いた時、私は腸が煮えくりかえりそうであった。
なので、後続の50人の勇者達にはこうして訓練をしているのだが、この体たらくでは前に召喚した勇者達の方が遥かにマシな様子であった。
「やぁルクスブルグ王、調子はどうだい?」
転移魔術らしき術で、突然現れたのは、顔を仮面で隠したローブの男。我々の協力関係にある者で、我々の手引きによりセレニアを滅ぼし、勇者召喚の儀の資料を持ってきたのはこの男だ。
「おやおや、何やら機嫌が悪そうだね」
煽るような口調で言う仮面の男を、私は睨みつけた。
「…誰の所為でこうなったと思っている?」
そう言うと、仮面の男は呆れたと言わんばかりに肩を竦め、溜息をついた。
「あのねぇ…仕込みを怠れば、すぐ壊れるに決まってるじゃないか。あの勇者クウゴだって、すぐに戦えるようになった訳じゃ無いんだ。入念な仕込みがあったから、彼は少しずつ英雄に昇華されていったのさ」
「分かっている!!だからこうして今度は少しはマシになるようにしている!!大体あの時、貴様がいながら何をやっていた!!」
「僕がアイオーンに赴いた時には既に全滅してたのさ。まぁ、あのアイオーンにあれだけのダメージを与えたんだ。成果は上々じゃないか?」
「貴様は抜け抜けと…!!」
「まぁそう怒らないでよ、今度の『仕込み』は僕も協力してあげる。大丈夫さ、今度は少しはマシになるさ」
俺達はオーキが救助した少女を診療所に運び込み、医者にその容体を診て貰っていた。
そして、診ていた医者は俺達に顔を向けると、
「大丈夫、命に別状は無い。すぐに目は覚めるだろう」
との事だった。
「よ、良かったぁ…」
そう言ってソニアが深く息をついた。
「…」
オーキはベッドで眠っているその少女を凝視していた。そして、何やら深く考え込んでいる様だ。
「どうしたんだ?」
「いや、てっきりあの時、元凶の術者を感知したと思ってたのに、居たのはこのガキだけだったからさ…」
オーキがそう言うと、少女の目がゆっくりと開いた。
そして、少女は上体を起こし、オーキの方を見て、
「あ?」
オーキが素っ頓狂な声を上げ、そして、
「パパだー!!」
無邪気な笑顔を浮かべた少女が、オーキに飛び付いてきた。
「ぱ、パパ…?」
オーキを除く俺達3人はその光景を見て唖然とする。
嬉しそうにオーキの胸に顔を埋める少女を、オーキは無理矢理引き剥がした。
「なっ離せ!!?何で俺がお前のパパ何だよ!!?」
「? パパはパパだよ…?」
そう言って、少女は不思議そうな表情で首を傾げた。
そして、少女は再びオーキに抱き付き、バランスを崩したオーキはそのまま床に押し倒された。
「えへへ、パパ~♡」
少女は笑顔でオーキに頬ずりしている。オーキは顰めた面でそれを引き剥がそうとしていた。
「何かよく分からないけど、随分懐かれてるみたいだな…」
俺がそう言うと、突然診療所に慌ただしく入ってくる人影があった。
「急患だ!通してくれ!」
男がそう言う、担ぎ込んできた背の男をベッドに寝かせた。
その寝かされた男は、肌は何だか灰色に変色しており、肩で大きく息をしている。俺達がここに来たときに見た人の同じ、魔術の呪いによる症状だった。
すると、オーキに抱き付いていた少女が起き上がり、その人の方へ来て、
「?」
その両手をかざした。すると、
「!! これは…!!?」
寝ていた男の肌の色が見る見る内に良くなっていき、やがてその肩で息をする程に乱れた呼吸は整っていって、すぐに小さな寝息となった。
男の症状は、すっかり回復した様だった。
「お前…何したんだ…!!?」
その光景を見て驚愕したオーキが、少女に問いを投げ掛けた。




