2度目の召喚(4)
「この紋章は勇者紋。召喚された勇者である君が、加護を受けた証なんだ」
誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある、懐かしい声。
「この紋章の加護のお陰で、君は魔術を使用する事が出来る。でも、この紋章の力はそれだけじゃないんだ」
いつの日か聞き覚えのあるやり取りだ。これは、確か、俺が最初の転移で、間もない頃の…
「この紋章には、召喚主の願いの力が込められている。術者である僕と、平和を願うセレニア王国みんなの願い…」
そうだ、思い出した…これは、
「その願いの力は、君をきっと守ってくれる。だから、絶対君を死なせない。僕が、みんなが…」
はっきりしなかった視界が少しだけ開け、声の主の姿が見える。
魔術士ハマドウ。セレニア王国の魔術士で俺を最初に召喚した、俺の最初の仲間。
突如、俺は胸に熱を感じた。
炎に灼かれるのとは違う、別種の熱を。
目視で確認する余裕は無かったが、見なくてもわかった。
この瞬間、このタイミングで漸く出てきたのだ。勇者の証、勇者紋が。
魔力を練り出し、力を込める。
俺の身体を灼く炎はかき消え、全身の火傷が消えていく。そして、俺は立ち上がり、更に力を込めた。
「なっ!!?」
魔族は驚愕した表情で俺の方を見る。再び炎を繰り出そうと、右腕を振りかぶる。
俺はその右腕を、手に持っていた剣で斬り飛ばした。
「お、俺の腕があぁぁぁ!!」
地属性の魔術で創り出した石の剣だ。これを更に魔力で強化して振るえばこの通り、即席の得物としては充分な切れ味だ。
「このぉ!!」
魔族が、俺から距離を取ろうと後ろに跳ぶ。が、遅い。
俺はそれに追従して前に跳ぶ。そして、石の剣に更に魔力を込めて、振るった。
「ヴォルテック・エア!!」
横回転しながら繰り出した渾身の一刀が、魔族の胴体を両断する。そして、それだけでは終わらない。
風の魔力が込められた斬撃は、無数の斬撃を内包した渦となり、魔族の身体を呑み込む。
そして、命を刈り取る無数の死の風が、魔族に襲い掛かった。
ヴォルテック・エア。前回の旅で身につけた剣技の一つだ。
「ば、ばかなぁぁぁぁ!!?」
死の風に揉まれズタズタに引き裂かれていく魔族。
渦が止むと、そこには首だけになった魔族の髪を左手で掴む、俺だけが立っていた。
「まさか…貴様が…召喚された勇者だったとはな…」
息も絶え絶えな様子で魔族が話す。首だけになっても話せるとは、相変わらずどんな生態なんだと俺は思った。
「力をつける前に…殺すつもりであったが…まさか、既に…これ程とは…」
「まぁ、2度目だしな…」
「2度目…?まさか…!?」
魔族が何かに気づき、驚愕した表情を浮かべる。途端、魔族の首が断面からひび割れ、崩れ始める。
「何てことだ…伝えなくては…勇者クウゴ…復活して…」
そこまで言うと、魔族の頭は粉々に砕け散り、消滅した。
「さて」
俺は自分の首輪に手を伸ばす。今なら出来ると思い、このまま力任せに引き千切ろうとしたが、そこで首輪の異変に気付く。
(首輪の魔力が消えている?)
俺の魔力放出に当てられたのか、首輪の機能に不具合が生じてしまったようだ。もうこの首輪は全く機能していない。
これなら引き千切らずとも、すぐに外せそうだ。そう思った通り、首輪はすぐに外れた。
(一応、念の為に…)
俺は首輪を地面に投げ捨ると、手に持っていた石の剣で掌を浅く斬り、流れ出た血を首輪につけておく。これで俺が、ここで魔物にでも食い殺されたと思わせられれば幸いだ。すぐにバレるかもしれないが、やっておいて損は無いだろう。
ルクスブルグには戻るつもりは無い。こんな首輪で飼い慣らそうとしてきた王など、信用出来ない。
(悪いが、俺は俺の考えで、勝手に動かせてもらう)
俺は森を抜けるべく、歩き出した。




