2度目の召喚(3)
「あのクソ王!」
俺は思わず吐き捨てるように怒鳴る。
俺は今の、森の中にいた。ルクスブルグ王の言うとおりであれば、ここが東の森なのだろう。
(無茶苦茶しやがってあの野郎!)
前の召喚主であるセレニア国王なら、こんな事はしなかった。
どうやら俺の冒険譚は、長い年月を経て少々大袈裟に伝わっているようだ。
確かに、多くの魔族を討ち倒してきたという話は本当だが、それは俺1人の功績ではない。
旅に同行し、共に闘う仲間達がいたし、旅の道中に王国側も色々とサポートしてくれた。彼ら無くしては為せなかった功績だろう。
そして何より、あの時の俺は転移していきなり闘えた訳ではない。旅立つ前は戦闘についてのレクチャーをしてくれたり、道中も仲間から魔術や剣技などの戦闘訓練を教わったりして、闘う術を少しずつ身につけていったのだ。
そして、あの時と違う事が、もう一つあった。
(何で、勇者紋が出てこねーんだよ…?)
以前と同じであれば、胸の真ん中に刻まれるはずであるが、確認してもそれが見当たらない。
以前とは違う場所に刻まれた可能性も考えたが、それも違うとすぐわかった。以前と同じような感覚で魔力を練ろうとするが、魔力が練れない。
召喚術の不具合か何か分からないが、今の俺は何の加護も得られてない、無力な人間だ。
これだけでもかなりまずい状況なのだが、俺が気にしてるのはもう一つあった。
(100年前って言ったよな…?)
かつての仲間達に再び会えると内心思っていたのに、あれから100年が経過してるとなると、それも絶望的だろう。もう一度だけでも、会いたかった。
(…取り敢えず、この場所は危険だ。早くこの森を出よう)
問題は多々あるが、兎に角俺はこの森を抜けるべく、動き出した。
力試しの為に送り込んだ森だ、何が出てもおかしくない。周囲を警戒しつつ、少しずつ歩く。
そして、しばらく歩いていると、俺はすぐ異変を察知した。
(早速出たか…)
すぐさま茂みに飛び込む。俺が身を潜めた茂みの直ぐ先に、何かの気配を感じた。何か、巨大な生き物の気配だ。
それは、俺の世界にいる熊などとは比較にならない程の巨大な体躯で、人の肉など容易く引き裂ける様な鋭い牙と爪を持っていた。
魔物だ。闘う術を持たない今の俺が対面しては一溜まりもない。
俺はあの魔物が過ぎ去るまで、息を潜めて身を隠す事にした。しかし、
「GUAAAAAAAA!!」
突如、魔物が咆哮する。自分の居場所がばれてしまったのかと思い、俺は身構えた。
だが、それが違うということがすぐにわかった。
(あれは…)
魔物が吠えた方角に、何か大きな魔力を感じた。俺は、少しずつ近づいてくるそれを凝縮する。
魔物は感じたのだ。自身よりも強いであろう、圧倒的強者の気配を。
「うるさいぞ、畜生」
そいつは、一瞬で魔物との距離を詰めると、右手の裏拳を魔物の頭に向けて繰り出す。体躯が何倍も大きい筈の魔物は、いとも簡単に吹っ飛んでいった。
(最悪だ、こんな時に魔族まで出てくるなんて…)
魔族。魔物なんかよりも遥かに強大な力を持つ、前の転移の時も幾度も闘った俺達人類の敵だ。
「そこにいるんだろ、出てこい」
俺が姿を潜めてる方を見ながら、魔族は言った。ばれた。
このまま魔術でもぶっ放されても困るので、俺は両手を挙げながら素直に姿を現した。
「やはり人間か。その首輪、逃げ出した奴隷か囚人か?」
「…はい。私はルクスブルグの奴隷商から逃げてきたところで、あの…見逃してもらえませんか?」
魔族の質問に対して、嘘を交えて答える。今の俺では逆立ちしてもアイツに勝てないので、精一杯無力な奴隷の振りをする。
「そうか…では見逃す代わりに一つ訊きたい事がある。最近、ルクスブルグが勇者召喚の儀を行おうとしていると耳にしたのでな。貴様、何か知らないか?」
「はい、知ってますよ。先日召喚されたとの事で、既にルクスブルグを旅立たれたとの事です」
恐らくこの魔族は、召喚された勇者を始末しに来たのだろう。俺がその勇者です、何て言えるわけ無いので、こう答えた。これでルクスブルグの無辜の民が、魔族の勇者討滅の巻き添えになることは無いだろう。
「ふむ、そうか…では」
魔族がそう言うと、右手をこちらに向け、
「死ね」
俺に向けて炎を放った。
即座に察知した俺は横っ跳びにそれを躱す。先程まで俺が立っていた地面は瞬く間に炎に包まれた。
「ほぉ、良い反応するではないか」
「な、何で!?」
俺は魔族の方を見て言うと、魔族は冷たい笑みを浮かべ、
「殺す理由以上に、生かす理由が無いからな」
先程よりも規模の大きな火炎を繰り出した。
やばい、これは躱せない。直感でそう思った時には既に、俺の身体は猛火に包まれていた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
炎が身体に纏わり付き、肉が灼かれていく。
苦しみに悶えのたうち回るも、火は一向に収まらず、俺は苦しみ続けた。
(嫌だ…こんなところで…まだ死ねない!!)
その思いに反して、俺の意識は遠のいていき、視界が、暗転した。




