力を求めて(2)
俺達は客間を出ると、リタ王女の案内の元で、城の地下へ来ていた。
「こちらですわ」
リタ王女が一つの扉を指し示し、その施錠を外した。
俺達はその部屋に入ると、その部屋の中央には祭壇の様な物が設置してあり、そしてその祭壇には一冊の『魔術書』が置かれていた。
「これが、例の古代の魔術が記された魔術書ですわ」
リタ王女の話ではこうだ。
かつて、アイオーンの魔術士達の間で語り継がれてきた古代の魔術、それが記された魔術書がこの城の地下に安置されてるとの事だ。
それを聞いたオーキが「何それめっちゃ興味深い!!」と目を輝かせながら食いついた。
リタ王女は、その魔術書を俺達に譲ってくれるという事で、今その魔術書の場所まで案内して貰っていた。
「でも良いんですか?こんな大層な魔術書を、俺達なんかに譲っちゃって」
「国を救って頂いた恩を返すのに、今できるのはこれくらいでしたから。それに…この魔術書は、誰も使えなかった物ですから」
「誰も使えなかった?」
「ここに記された魔術を使おうとした魔術士は皆、命を落としてしまったと聞いています。だから、この魔術書を使える物は、この国では誰もいないのです」
「ふん、随分物騒な魔術書だな。使い物になるのか?」
リタ王女の話に、ディンが訝しげな表情を浮かべてぼやいた。
ただ、オーキはと言うと、
「面白そうじゃん、誰も使う事叶わなかった伝説の魔術書、めっちゃ興味あるな!!」
と、寧ろ乗り気であった。
「この魔術書には、どんな魔術が?」
と、俺はリタ王女に訊いてみた。
「話によると、その魔術は邪悪なる力を焼き尽くす、聖なる炎を呼び出す術が記されているとの事ですが…」
「ふーん…」
オーキが何の躊躇いも無く、魔術書を開く。そして、その書の中で視線を滑らせていく。
「…書の中に、何かしらの『術式』の記載があるな」
術式とは、術を発動する際に、自身が練り出した魔力をどの様に構築するか、その魔力の組み方を記したものである。言わば、魔術の設計図の様な物である。
「ちょっと複雑だが…これなら使えそうだぜ」
「!! 本当か?」
「何なら、すぐに出来そうだ。ちょっと試してみる」
そう言って、オーキは術を発動しようと、魔力を練り出した。
(さて…どれ程のものか)
魔力を練り、術式通りに魔力を構築していく。古より伝えられた魔術がどれ程のものか、俺は心躍っていた。
「…行くぞ!!」
構築が終わり、いよいよ俺は術を発動する。
しかし、その瞬間に俺の中である疑問が生まれた。
確かに、魔術書に記載があった術式は多少複雑ではあったが、使える者がいなかったと言える程、凄まじく難易度があるとは思えない物であった。
しかし、リタ王女はこう言う。使おうとした魔術士は皆、命を落としたと。
その事から、俺はふとこう思った。
今まで使おうとした魔術士は、術の発動までは出来たのではないかと。
そして、問題は『その先』にあるのではないかと。
「…これが、古代の魔術…?」
術が発動し、俺の手の中で、炎が出現した。普通の炎とは違い、どこか異質な物を感じさせる白い炎が、煌々と輝きながら揺らめいていた。
(!! な、なんだ…!?)
突如、その異変は起きた。
手の中の炎が、俺に纏わり付く様に燃え広がっていき、俺の身体は忽ちその白い炎に包まれてしまう。
(せ、制御できない!? な、何で…!?)
術を解除しようとしても、その炎は消えず、俺の身体を只灼いていく。
「が、かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あまりの熱さに俺は悶え苦しみ、その場にのたうち回る。しかし、炎はその勢いを絶やさず、俺の命という燃料を焼き尽くさんとして、轟々と勢い良く燃えていた。
(だ…だめ…だ…)
こうして、俺の意識は途切れた。
「…ーキ、おい、オーキ!!」
「ハッ!!」
肩を揺すってきたクウゴの声で、俺は我に返った。
俺は自分の身体を見回す。先程白い炎に焼き尽くされた筈の身体は、何ともなくなっていた。、
「どうしたんだよ?それ開いてずっと固まってたぞ?」
(…今のは?)
魔術書を開いてから固まっていたオーキは、俺の声で我に返ると、その口を開いた。
「…これは、使えないな」
「え…?」
「俺がこの魔術書を開いた時、『視えた』んだ。俺が白い炎に焼き尽くされた光景…この魔術書を記した人間かアイオーンの魔術士が残したのかはわからないが…多分あれは、『警告』なんだと思う…」
そう言って、オーキは手の中の魔術書を閉じた。
「邪悪なる力を焼き尽くす聖なる炎…多分それは術者の魔力もその対象なんだと思う。だからあの警告で視えた俺は、全く制御出来ずにその炎に魔力を焼き尽くされた」
オーキ程の魔術士がそうなるとは、その制御難易度はかなりのものなのだろう。今まで使おうとした者が皆命を落としたというのも納得だ。
「ハッ!!術者の魔力毎焼き尽くす炎…自爆くらいにしか使えぬではないか」
オーキの話を訊き、ディンが鼻で嗤った。
「済みません…やはり、役に立ちそうもなくて…」
リタ王女がそう言って頭を下げる。
こうして俺達は、現状使い様が無い魔術書を手にしてアイオーンを後にした。




