アイオーン解放戦(4)
「なぁハマドウ、思ったんだけどさぁ」
旅の途中の野営地にて、焚き火の前で俺は、隣で本を読んでいたハマドウにふと問いを投げ掛けた。
「なんだい?」
それに気付いたハマドウが振り向いた。
「勇者召喚って、どうして俺1人しかしなかったんだ?ほら、もっといっぱい喚んだ方が、かなりの戦力増強になるんじゃないかってさ」
「成る程、確かにそれは僕も一度は考えたよ。でもね…」
ハマドウはそう言って読んでいた本を閉じた。
「勇者召喚の儀については、現状かなり不明瞭な点が色々とあるんだ。だから少しの余計な事で、術に不具合が出る恐れがある。例えば、もし1人じゃなくて10人召喚したら、その分加護の力が分散してしまう、そんな事も充分考えられる」
「あー、確実性を取ったって訳か。でも、試してみないと分かんない事もあるんじゃないか?」
「フフ、そうだね。でも、もう一つ理由があるんだ」
そして、ハマドウの笑顔が消え、神妙な面持ちへと変わる。
「この世界の事は、この世界の人間が解決すべきだ。多くの異世界人を無理矢理巻き込むなんてナンセンス、この術も本来は使うべきではない…」
「ハマドウ…」
「だから、君を巻き込んでしまった事には、本当に済まないと思っている…」
その時のハマドウの、後悔に支配された様なあの表情を、俺は忘れないだろう。
(ハマドウ…お前の考え当たってたよ…)
俺はそう思いながら剣を振るった。
「な、なんだよこいつら…ぐぁっ!!?」
そしてまた一人、勇者を斬り伏せる。どいつもこいつも、まるで俺達の相手にならなかった。
確かにこいつらは皆、召喚の儀によって勇者紋の加護を得ており、並の人間では歯が立たない程の力を得ている。
しかし、同時に30人もの召喚を行った事で、その加護の力が分散されてしまい、単純に1/30へとなってしまった。
この事から、ハマドウの推察は図らずも証明されてしまったのだった。
「どうした?ウチのクソ生意気な小童の方がまだ手応えがあるぞ?」
そう言ってディンが、勇者達を次々にその爪の一撃で斬り刻んでいく。
「ま、魔術だ!!魔術を使え!!」
勇者達が慌てふためきながら声を上げる。そして、遠くの間合いにいた勇者達が、その雑な魔術を繰り出してきた。
属性への変換もされておらず、力任せに放っただけの魔力の放出。魔術と呼ぶのも烏滸がましいそれらには、精度も威力もまるで感じられない。オーキが見たら鼻で嗤いそうな程お粗末なものだ。
「アゲインスト・エア!!」
俺はそれらの魔術を剣裁きにより流し、それぞれの術者に向けて、斬撃波のおまけ付けで返した。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「いゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
返された術を受け、勇者達は一人、また一人と倒されていく。
そうして、俺とディンの猛攻により勇者達は次々に討たれていき、
やがて、たった一人を除いて勇者軍団は全滅してしまったのだった。
「つまらん、まるで期待外れだったな」
ディンはそう言って、その生き残りの勇者に向かって睥睨する。
「な…なんなんだよお前ら!!なんでそんな強いんだよ!!?」
生き残りの勇者の男が、俺達に気圧されて尻餅をつき、俺らを見上げながら後退る。その表情はすっかり恐怖に染まっていた。
そんな勇者に向かって、俺は前へ踏み出して詰め寄った。
「…俺もお前らと同じだよ。借り物の力でイキってるだけの、ただのガキだ」
「まさか…お前も勇者なのか!?」
勇者の男はその事に驚愕した、その時だった。
「!!」
突如、俺の立っている場所に魔力の高まりを感じた。俺はすかさずその場から後へ跳ぶ。
すると、俺がついさっき立っていた場所にいきなり冷気が吹き荒れ、勇者の男を巻き込んでその場を凍てつかせる。そしてそこには、その男を飲み込んだ氷柱が現れた。
(これは、氷の魔術…!?)
通常、攻撃魔術の属性変換を行う場合、基本となる地・水・炎・風のいずれかに変換する。それ以外の属性の術を使用する場合は、それら基本の四属性を組み合わせてその術を発現させるのだ。
この氷の魔術もそんな術の一つである。ここにいる勇者達に扱えるようなものではない。恐らくこの近くに、他に手練れがいる。
「良かったよ、一人は残ってて」
俺とディンは、声のした方に振り返る。仮面をしたローブの男がそこにいた。
「…は?」
俺はその声に聞き覚えがあった。かつて共に旅をし、共に笑い、共に泣き、共に戦った、親友の声。
そして、仮面の男が、その仮面を外した。
「ハマ…ドウ…?」
「久しぶり、クウゴ」
大魔術士ハマドウ。仮面の下には、かつての親友の顔がそこにあった。




