残された謎(1)
消えていたグラナの人々は皆、街に戻ってきていた。
オーキ達も皆、飛ばされる直前の最後に居た場所に戻ってきており、俺達は再び合流する事が出来たのだった。
因みに、向こうで負傷していたディンはというと、俺と合流した時には既にケロッとしており、本人曰く、
「愚問だな。この程度負傷の内にもならん、貴様が一番良く知ってる筈だ」
との事。それもそうだ、俺が文字通り死力を掛けなければ殺せなかった女だ、あの程度でくたばる筈が無い。
そして、グラナ近郊にあったあの魔族の拠点、オーキが戻ってきてすぐにグラナの兵士に通報した為、瞬く間に鎮圧されたとの事だ。
そして、俺達はあの坑道の中の、石碑の前に集まっていた。
「ふーん、これをあの亡霊がね…」
魔力のランプで石碑を照らしながら、オーキが呟く。
「何か分かるか?」
俺が尋ねると、石碑を眺めていたオーキが首を横に振った。
「いや、俺も見た事が無い言語だ。これがいつ作られたのかもまるで見当が付かない」
「そうか…」
すると、石碑を凝視していたディンが、突然口を開いた。
「どこかで見た事があると思ったら…この言語、我々魔族の前身となった一族で使われてた言語だな」
「は?」
俺達の視線が一斉にディンに集まる。
「我々の間で語り継がれてきた伝承を記した古文書に、これと同じ言語が使われた物を見た事がある。そして、それにはある一族についてが書かれていた」
「ある一族?」
「その一族はある時に大きな魔の力に目覚め、それらは代を重ねる毎に変化していき、やがて我々『魔族』と呼ばれるものになった。そしてその一族というのが…」
そこまで言うと、ディンの表情が険しくなる。そして、
「人間だ。魔族のルーツとは、元は貴様等と同じ人間なのだ」
「はぁっ!?」
ディンの突き付けた真実に、俺達3人は驚愕の色を隠せなかった。
「そ、それって…他の魔族も知ってるのか?」
「当然だ。それがどうした?」
「それがどうしたって…お前何とも感じないのか?元は同じ人間なんだろ?」
俺が投げ掛ける問いに対して、ディンは怪訝な表情を浮かべた。
「だから何だと言うのだ?昔の話だ、元が何であろうと関係ないであろう。今は魔族と人間、全く違う存在だ、戦う他無いのだ」
「…やっぱり、野蛮です」
ディンの発言を聞いたソニアが、ぼそりと言葉を零した。
「何だと…?」
「そうやってあなた達が戦い続けたから、その所為で沢山犠牲が出たんですよ。私の家族も、故郷も、その所為で…」
ポツポツと話すソニア。握り込んだ拳がわなわなと震えていた。
「それは我は関係ないだろう、あの偽物が率いた…」
そのディンの言葉を遮りながら、ソニアはその怒りを宿した双眸でディンを睨みつけ、
「関係あります!!100年前から!!あなた達がそんなんだがら!!戦うことしかしなかったから!!」
ソニアが声を上げた。魔族の侵攻により全て奪われた者の慟哭、その胸中の叫びをディンに向けて放った。
「返してよ…私の家族…返してよ…!!」
ソニアは地に膝をつき、目一杯に涙を溢れさせながら嗚咽する。
「…」
俺は石碑に目を向ける。
この石碑を掘り出したあの魔族の男は、何を思ってこれを掘り出したのだろうか。
今となっては、もうそれは分からない。しかし、
「勇者…魔王…力で捻じ伏せるだけの野蛮人共…私の邪魔はさせない…」
あの時言っていた亡霊の言葉をふと思い出す。ひょっとして、そこに真意があるのではないか、俺は何となく、そう思った。




