幻想を晴らすのは(5)
「…んっ?」
俺が目を覚ますと、そこは坑道の中だった。
身体を起こし、辺りを見回す。この場所は、俺があの幻術世界に飛ばされる直前、眩暈を起こして倒れた場所であった。
(という事は、オーキは上手くやったんだな)
恐らく、あの世界に飛ばされる直前に居た場所に戻されたんだろう。なのでオーキ達も多分、街のどこかに戻ってきている筈だ。
(確かあの時、この先に影が…)
そう思って俺は、坑道の先を見据える。恐らくこの先に、術者であるあの亡霊の本体がいる。
みんなの事、特に大きな負傷をしていたディンは心配であったが、術者の事も放っておけない。俺は坑道の先へ向かう事にした。
暫く歩いて行くと、向こうで基点があった場所まで辿り着く。砕けた水晶玉が、魔方陣の上に散らばっていた。
「っ!!?」
そして、そのすぐ傍で、黒い服を来ていた魔族の男の死体が倒れていた。
その胸には深々とした裂傷が走り、止め処なく血が溢れていた。その傷の具合を見るに、まだ斬られてから殆ど経っていないように見える。
恐らく、この男があの亡霊の本体なのだろう。そして、ここで何者かに襲撃された様だった。
「誰かいるのか!?」
俺は声を上げ、周囲を見回しながら感知する。しかし、周囲には何の気配も感じなかった。
ふと、俺はその男の傍で、何か燃え残った物を見つけた。それは、何か本の様な紙の束を燃やした様に見えた。この男を襲撃した者が燃やしたのだろうか、その内容は判別出来なくなっていた。
男の死体の崩壊が始まり、その身体は黒い霧となって消えていく。そして、その握り込んだ右の拳から、何かが出てきた。
俺はそれを拾い上げてみる。すると、それはクシャクシャに丸められた手記の1ページであった。今際の際に、破いて拳の中に隠したのだろうか。
中を開いて見てみると、そこにはこう書かれていた。
「不和の名を持つ獣、地に降り立つ時、闘争の種火は灯された。気を付けろ、奴は未だこの世界の裏で嗤っている…」
意味が分からなかった。この男は誰に向けてこれを残したかったのか。
(…あれ?)
俺は書面から顔を上げると、この場所より先に道があるのに気付いた。幻術世界ではここが行き止まりであったのに、ここではまだ先がある様だ。
俺は書面を握ったまま、この先に向かった。
「なっ…何だこれ…?」
そこにあったのは、半ばほどまで掘り出され岩壁から姿を表していた石碑であった。
傍には採掘道具らしき物が転がっており、あの男が掘り出したのだろうか。
石碑には、俺もこの世界で見たことが無い未知の言語で書かれた一文と、壁画が描かれていた。
壁画に描かれていたのは、向かい合って武器を構えた人間と魔族らしきものと、その中心で不気味に嗤う『何か』であった。
「この紙…ひょっとしてこれの訳文か…?」
気を付けろ、奴は未だこの世界の裏で嗤っている。
今、誰かがそう俺に語りかけた様な気がした。
そして、壁画の真ん中で不気味に嗤う、どこか邪悪な物を感じさせるそれを、何故だか俺は目が離せなくなっていた。




