幻想を晴らすのは(3)
「魔王権能…爆ぜろ!!」
ディンが魔族の軍勢に向けて、右手を前に突き出す。すると、その魔王の命により先陣を切っていた魔族の兵士達が次々に爆ぜていった。
それに続いて、ソニアを乗せたリインが前に飛び出す。そして、
「ライズ、『竜尾』!!」
ソニアのライズにより強化されたリインの尾が、後続の軍勢を纏めて薙ぎ払った。
その一撃を見たディンが、小さく感嘆の声を漏らす。
「ほぉ…少しはやる様だな小娘。単なるクウゴの足手纏いでは無いらしいな」
「…貴方なんかに褒められても、嬉しくありません」
顰めた表情でソニアが返すと、蹴散らされた軍勢の後から、更なる後続の兵士が攻めてきた。
「有象無象がぞろぞろと…行くぞ小娘!!」
そう言ってディンは兵士達に飛び込み、その両手の爪を振るった。
「魔王の爪撃!!」
ディンが振るった爪が、魔力を纏った斬撃波を生み出し、それらは戦場の地を這い駆け抜ける。魔族の兵士達は次々にその魔爪の餌食となり、バタバタと倒れていく。
「言われなくても…!!」
ソニアは分離槍を構え、自身を乗せたリインを軍勢へ向かわせた。
俺の背後から戦いの音が聞こえ始めて、暫くが経った。
俺から供給された魔力を使い、オーキがそれを世界の縁に送り込んで世界を構築していく。オーキ自身からは到底供給出来ない程の魔力がその身体を駆け巡っているからか、オーキの両腕は赤熱し煙が上がっていた。
「おい!大丈夫なのか!?」
俺はそれを見て、思わずオーキに声を投げ掛ける。
「大丈夫だ…お前はそのまま魔力を流し続けろ…!!」
顔に汗を滲ませたオーキが、苦しげに答える。
縁に波打つ歪みは、徐々に大きくなっていき、やがて縁のその先に、何か亀裂の様な物が現れた。
オーキの構築した幻術世界だ。それは真っ白な何も無い空間で、それが徐々に、オーキの目の前に拡がってきていた。
(よし!いける!)
俺はそう確信した。その時だった。
「!!」
空間が、その拡大を止めた。そして、それは徐々に小さくなっていき、やがてそれは消え去って波打つ縁だけが残っていた。
「くそっ…!!俺が拡張した世界を片っ端から解体してやがる…この系統の魔術じゃ俺以上の使い手だ…!!」
オーキが忌々しげに吐き捨てる。
「無駄だ…貴様らには…何も出来ない…」
突然声が聞こえた。その声は、オーキの正面から聞こえてきた。
そして、オーキが縁に突き出していた両手の隙間から、水底から顔を出す様にその姿を現した。
亡霊が、現れたのだ。
「くっ…!!」
オーキが右手を縁から離し、亡霊向けて魔弾を放つ。しかし、その魔弾は亡霊の身体を擦り抜けていき、縁に呑み込まれていった。
「くだらない手だ…所詮貴様らは…力を振るう事しか出来ぬのだ…」
「むっ」
押し寄せる魔族の軍勢を蹴散らしていく我。そして、その後続の中にいた、ある物に目が止まった。
(あれは…人間、か)
魔族の兵士達の中に、人間が混じっていた。これを見たクウゴ達が躊躇うとでも思ったのだろうか。あの亡霊の魂胆が明け透けて見える。
「下らんな」
我は魔王の爪撃で纏めて蹴散らそうとする。
「!! 駄目!!」
すると、竜操手の小娘がその間を割って入ってきた。
「…何のつもりだ小娘」
「貴方こそ何のつもりですか!?人が居たんですよ!?」
そう言って小娘が我を睨み、その手にした槍の穂先を此方に向けて突き出した。
「だからどうした?邪魔する者は誰であろうと容赦しない」
「そんな事…!!」
「貴様等も魔族は殺すだろう」
「!!」
「魔族は平気で殺しておいて人は殺すな、と…身勝手な持論にも程か有るな」
「それは…」
小娘が言葉を詰まらせ、固まっていると、そこに、
「っ!?きゃぁっ!!!」
突如、飛竜目掛け魔術が直撃した。魔族の兵士達の誰かが放った魔術が飛竜をぐらつかせ、乗っていた小娘はその衝撃で宙に投げ出された。
「ちぃっ…!!」
地面に投げ出された小娘に向かって、武器を手にした人間が群がってくる。それを見て、私は駆け出し、
「ぐっ!!」
身を盾にして小娘を庇い、人間共の武器が、我の背を貫いた。




