幻想を晴らすのは(2)
俺達は家を出ると、城門を潜って街の外に出た。
そして、オーキが右手を前に突き出しながら歩くと、その右手が見えない『何か』にぶつかり、その脚を止めた。
「ここだな、空間の縁は。よし、クウゴ」
オーキがそう言うと、俺はクウゴの肩に両手を置いた。
「じゃあ…、始めるぞ」
すると、オーキはそのまま両手を突き出し、その両手が突然輝き始めた。その手の触れている目の前の『何か』が、波打つ水面の様に大きく揺らめき始めた。
俺はオーキに自身の魔力を流し、絶え間なく供給する。
「ソニア、ディン、打ち合わせ通りに俺達の周囲を警戒。俺は今動けないから頼む」
俺はそう言うと、リインに乗っていたソニアは大きく頷き拳を前に突き出す。
「任せて下さい!クウゴさんは私が守ります!」
「俺も守ってくれ、頼むから…」
オーキが小さく呟いた。
オーキの目論見はこうだ。
幻術世界の基点が物理的に干渉出来ない以上、壊すことが出来ない。その代案として考えたのが、この世界の縁への干渉。
幻術世界は、被術者を閉じ込める為に、その脱出を阻む為の『縁』が存在している。そして、その縁はこうして触る事が出来るのだ。
但し、例え触れたとしても基点と違い、その術の設定までには触れる事は出来ない。パソコンで言うと、ディスプレイに触れても、そのキーボードに触れなければ、パソコンは操作出来なくのと同じ事。
だからこう考えた。世界を、自壊させればいいと。
今、オーキがやっているのは、この世界の縁に対して魔力を流し込み、その魔力を組み上げた新たな幻術世界を無理矢理継ぎ足している、言わば世界の拡張。
そうして、あの亡霊が制御出来る許容量以上に世界を拡張させ、それによって起きた不具合により、幻術世界を自壊させる事、それが狙いだ。
この幻術世界の特性を既に看破しているオーキなら、それが可能。しかし、それにはオーキ自身の魔力が足りない。
なので、その足りない魔力を補う為に、俺がこうして魔力を流し続けている。
しかし、この作戦には問題があった。オーキは世界の拡張、俺は魔力の供給、それぞれがそれらに集中しなければならない為、俺達二人はその場から動く事が出来ない。
なので、もしこのタイミングで亡霊から何かしらの妨害を受けたなら、俺もオーキもその無防備を晒してしまうのだ。
だからこの作戦は、無防備な俺達を守るソニアとディンに掛かっている。
「来たぞ…」
ディンが言うと、俺はその視線の先に目を向けた。
城門から武装した魔族の軍勢がこちらに近づいて来ていた。
恐らく、グラナに到着する前に見掛けた、あの空だった拠点から取り込んだ魔族の兵士達だ。俺達の行動を察知した亡霊が、それらに役割を与えて送り込んできたのだ。
俺は、ディンの首輪の抑制を解除した。そして、
「あの時みたいに、ぶっ倒れんなよ…?」
俺がそう言うと、ディンは鼻で嗤い、
「抜かせ!あの時とは違う、同じ轍は踏まんわ!」
そう啖呵を切って、魔王グランディンへと、その姿を変えた。
魔族の兵士達が向かってくる。ソニアとディンはそれらに迎え撃った。




