幻想を晴らすのは(1)
「…」
俺達の前に姿を現した亡霊は、特に何かをするでも無く、ただ無言でそこに漂っている。
「聞こえなかったか?貴様、誰だと訊いているんだ!」
ディンが亡霊に対し、指を差しながら吼えた。しかし、亡霊はそれに何も答えなかった。
「良いだろう、それでは喋りたくなる様にしてやる…クウゴ!!」
ディンが俺を呼んだ。その理由はすぐに察しがついた。俺はディンの首輪の抑制を解除した。
すると、ディンの姿が変化する。先程までの冒険者の衣服のから、魔王グランディンとしてのコスチュームに変化した。
「魔王権能…燃えろ!!」
突如、亡霊のいた場所を中心に炎が大きく燃え上がり、亡霊は瞬く間に炎に包まれた。
「何だと…!?」
しかし、亡霊は火に包まれているだけで、全く燃える素振りが見られなかった。やがて、亡霊の周りの空気を燃やし尽くすと、命令を終えた炎は消えた。
「このアホンディン!!毒ガス出てるかもって言ってただろうが!!」
オーキが青筋を立てながら怒鳴る。が、引火する事は無かった。結果論だが、少なくとも今はここに毒ガスが出てない事がわかった。
「ふん…相変わらず暴力しか能が無い小娘だ…」
すると、亡霊が突然喋り出した。そして、今度は俺の方にその顔を向けた。
「勇者…魔王…力で捻じ伏せるだけの野蛮人共…私の邪魔はさせない…」
フードを深く被っていて、その顔は相変わらず表情が読み取れないが、その声はどこか怒気を帯びている様に感じた。
「!! 俺達の事情を知ってるのか…?」
「ここでは…誰も傷つかない…誰も争わない…私の夢…力で捻じ伏せるだけの貴様らでは止められない…」
そう言い残して、亡霊はその姿を消したのだった。
俺達は坑道から出ると、再び俺の家に集まっていた。
「さて、どうしたものか…」
食卓を囲んでいた俺達の中で、まず俺が口を開いた。
基点の破壊が不可能となった今、別の案を考えなければならない。が、俺は何も思いつかない。
ディンも、ソニアも、何も言わなかった。頼みの綱のオーキも、未だ何かを思考をする様子に俯き気味に黙っていた。
「そういえば…あの亡霊、何かお前の事知ってる風だったな」
沈黙に堪えかねた俺が、ディンに向けて言った。
「ああ。だが、あんな奴は知らん。残念ながら心当たりが無い」
「そうか…」
そういえば、奴はディンだけでなく、俺が勇者である事も知っていた。そして、
「勇者…魔王…力で捻じ伏せるだけの野蛮人共…私の邪魔はさせない…」
なんて事を言っていた。なんだか、勇者だけでなく、魔王すらも憎んでるように聞こえた。
あの見た目から、奴は魔族である事はわかる。しかし、まるで力を振るう事に嫌悪を示してる様が、俺の知ってる魔族の印象からはかけ離れて見えた。
あんな魔物も居るんだなと、俺は思った。
「それよりもそこの小童、さっきから黙ってないで、何とか言ったらどうだ?」
ディンはそう言って、考え込んでいるオーキの右頬を指で突く。長考しているオーキはそれにやり返さず、それを面白がったディンは、されるがままのオーキの頬をツンツンと何度も突いた。
「…これしか無いか」
思考が終わったオーキは顔を上げると、ディンの方に向き、
ディンの肘の内側の骨目掛け、魔力で強化した強烈なデコピンを放った。
「!!?」
確か、ファニーボーンだったか、そこにクリーンヒットしたと思しきディンは、痺れる腕を抑えて悶絶した。
(魔族でも痺れるんだな、あれ…)
「よし、考えがまとまった。みんな、訊いてくれ」
オーキがそう言うと、みんなの視線がオーキに集まった。
「あの亡霊を、釣るぞ」




