幻想の街(5)
「見えた、あれだ」
俺がそう言って指差す。200年の時間差が、大きな変化を齎してるのではと若干不安ではあったが、幸い大きな変化は無い様子であった。
違いといえば、まだ綺麗なレールの上に、現実世界では打ち棄てられたトロッコが乗っているのと、毒ガス注意の看板が無い事くらいだ。
「それじゃ、入るぞ」
俺が灯りの確保の為、炎の魔術を使おうとすると、オーキがそれを止めた。
「待て、毒ガスが出るかも知れないってあったろ?これを使え」
オーキが何かを俺に渡す。それは、魔力によって発光するランプだった。確かにこれなら炎は使わない為、ガスが発生しても引火しないだろう。
そしてもう一つ、マスクの様な物を俺達に配ってきた。オーキ曰く有害な物質を遮断する、ガスマスクみたいなものらしい。
ディンは「いらん、毒ガス程度にやられる程柔では無い」と言って、マスクは受け取らなかった。
「それじゃ」
俺は感知の為、精神を集中させて研ぎ澄ます。坑道の奥にあるかもしれない、幻術世界の基点らしき魔力を探る。
そして、見つけた。
「…かなり微弱だけど、何か魔力を帯びた物がある、こっちだ」
俺が先頭に立ち、俺達は坑道の中に入っていった。
俺はランプで前方を照らしながら歩いていく。俺の後ろにソニア、その後にディン、1番後ろは、オーキが背後を警戒しながら付いてきていた。
その微弱な魔力の痕跡を辿っていき、そしてそれは、見つかった。
魔方陣が刻まれた地面の上に、ふよふよと浮かんでいる水晶玉の様な物がそこにあった。これが、術の基点なのだろうか。
「これが、基点か?」
俺が問うと、オーキが頷く。
俺は腰の剣を引き抜き、それを基点に向けて振り下ろした。しかし、
「!?」
水晶玉は斬れなかった。
俺の剣が真っ二つに両断したつもりだった水晶玉は、相も変わらず無傷で宙を浮いていた。
「今…擦り抜けませんでした?」
それを見たソニアは、そう言葉を洩らす。
俺は剣を前に突き出し、刀身を水晶玉目掛けて伸ばした。
伸ばした剣は、水晶玉を突き抜けた。そこに見えるのに、実体を感じない。まるで、投影された映像に剣を突き立てた気分だった。
「オーキ、これは…」
「基点自体も物理的に干渉出来ない様になってるみたいだな…、これじゃ破壊も無理そうだな」
「無理そうだなって…じゃあどうするんだ?」
「ふむ…」
オーキが黙り込み、基点の水晶玉を眺めながら思考を始めた。
ひょっとして、かなり不味い状況なのではないだろうか。硬くて壊せないとかではなく、そもそも物理的に干渉自体出来ないというのは、かなり重大な問題な気がする。
果たして、この幻術世界から帰れるのか、少し不安になった。
そんな時だった。
「!! 誰だ!!」
突如、ディンが声を上げる。そのディンの睨む先に、俺達の視線が集まった。
それは、亡霊だった。
煤けた黒色のローブを纏い、顔が隠れる程に深くフードを被り、そのローブの裾からは脚は確認できず、その場に揺らめく様に漂っていた。
(こいつは…!)
間違いない。それは、俺が坑道で見かけた影だった。




